表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

257/288

第257話 賢者は忠臣に感謝する

 グロムが悩むのも理解できる。

 元より心配性な節があるが、それを抜きにしても無視できない要素があった。


 今回はただ強敵と戦うわけではない。

 先代勇者は、私にとって最愛の人物である。

 彼女と対面した私は、どういった反応を取るか分からない。

 グロムはそれを感じ取っているのだ。


 幹部の集う会議にて、私は魔王の使命と果たすと断言した。

 しかし、それも所詮は口だけに過ぎない。

 実際は宣言通りに行動できないかもしれない。

 もしかすると、あの人の主張に従う可能性もある。

 最悪、戦うこともなく滅ぼされようとする恐れだって考えられた。

 私は覚悟を決めているが、それでも絶対に心変わりしないとは言い切れない。


 グロムは魔王軍でも古参の配下だ。

 最初の幹部として、私の過去や目的を誰よりも見知っている。

 そして苦悩にも共感してきた。


 理性では、私のことを信頼したいのだろう。

 しかし、私を知りすぎているからこそ懸念している。

 結果、理性と感情の板挟みとなって苛まれていた。


 このような悩みを抱かせるとは、主君として失格だろう。

 それでも私は魔王であり、グロムは配下である。

 彼の内に沈殿する不安を軽減するのが、私の役目だ。


「心配するな、と言いたいが難しそうだな」


「……申し訳ありませぬ」


 グロムは呻くような声音で謝罪する。

 私を信頼し切れないことに自己嫌悪を覚えているようだった。

 俯いたまま、肩を震わせている。

 片目の炎、消えそうなほどに小さくなっていた。


(ここが正念場だ)


 伝えるべきことは決まっている。

 偽らず、ただ本音を打ち明けるのだ。

 決心した私はグロムに告げる。


「それでいい。お前の深慮は悪くない」


「――ッ!」


 グロムは勢いよく顔を上げた。

 視線が交わると、片目の炎が勢いを取り戻す。

 たった二言であったが、私の気持ちは伝えられたようだ。

 彼の肩に手を置いた私は重ねて告げる。


「必ず帰還する。互いの役目を果たすぞ」


「……はっ! 承知いたしました!」


 グロムは機敏な動きで敬礼すると、私に一礼してから転移する。

 直前までが嘘のように迷いのない動きだった。

 疑念が取り払われたわけではない。

 それを抱えながらも、使命を全うする覚悟が決まったのだ。


 グロムにもこれから仕事がある。

 彼には、各地で暴れ回る虚像の救世主を食い止めてもらう。

 グロムほどの力があれば、被害を抑えることも可能だろう。

 かなり張り切っていたので、特に問題は起きないはずである。


(向けられた信頼に応えなければ)


 グロムは私が生み出した不死者だ。

 虐殺した王都の人々の魂を使っており、根源を辿れば恨まれてもおかしくない。

 事実、当初は使役者である私の支配が効いていなかった。

 そのせいで出会って早々に殺し合うことになった。


 しかし現在、グロムは私の目的に感化し、自らの意思で従っていた。

 世話焼きな性格だが、疑うまでもない忠誠心を持っている。

 それも盲目的な崇拝ではない。

 時には疑問を呈し、私の建前と本心をはかろうとする。


 私には勿体ないほどの忠臣だ。

 何度も支えられてきた。

 そんなグロムに私が返せるのは、結果のみだ。


 あの人を蘇らせた後、一体どうなるのか分からない。

 それでも私は前に進まねばならなかった。

 魔王をやめるわけにはいかないのだ。


「今のやり取り、すごく魔王らしかったわぁ。上出来じゃない」


 拍手と共に聞き慣れた声がした。

 グロムとは反対の方角から歩いてくるのは、ルシアナとヘンリーだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ