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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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255/288

第255話 賢者は最終準備を進める

 その日、私は旧魔族領にいた。

 荒野と砂漠が混ざった地帯である。

 付近に建設物はなく、生物の気配も感じられない。

 完全に放置された場所だった。


 今日、ここで先代勇者を蘇生させる。

 魔王領で実施しないのは、無関係な人々を巻き込まないためだ。

 実行に際して、どのようなことが起きるか分からない。

 万が一に備えて、二次被害の出にくい場所を選んだ。


 過去の文献や逸話では、死者の蘇生を試みた者達が散見される。

 いずれも悲惨な末路を辿っていた。

 死者の蘇生とは、魔術における禁忌の代表格なのだ。


 しかし、私は成功させるつもりだった。

 既に十全な準備を整えている。

 何度も検証を繰り返して、可能であることも確信した。

 状況的に世界の意思から後押しも得られる。

 間違いなくあの人を蘇らせられるだろう。


 前方の大地には、巨大な魔法陣が描かれていた。

 今回のために用意した術式だ。

 今も数十人の所長が、各地で最終確認を行っている。

 術式に綻びや不備が無いかを検査しているのだ。


 魔法陣の中央には、形見の剣が刺さっている。

 彼女を象徴する武器だ。

 あの剣には様々な想いや経験が詰め込まれている。

 先代勇者を語る上で外せないだろう。

 蘇生するにあたっても絶対に必要だった。


 私の足下には、結晶とガラス容器が置かれている。

 前者にはあの人の遺骨が埋まっていた。

 死者の谷から抜け出した時から保管してきたが、ようやく結晶から解放することになった。

 その瞬間が訪れたことに、不思議な感情を覚える。


 後者に収めた魂だが、以前までは漂白しただけだった。

 ただし現在は違う。

 この数日でグウェンが改竄し、世界の意思の本体が漂着するように変えたのだ。


 加えてあの人に関する情報を刻み込んでいる。

 具体的には、各地に残る先代勇者の逸話や偉業、旅の痕跡といった記録である。

 さらには先代勇者と縁の深い者――私やローガン、ルシアナ、ディエラの記憶も複製して採用していた。


 集めた情報群があの人を形成する。

 そのため厳密には蘇生ではなく、再現に近いだろう。

 処刑された当時のあの人を生き返らせるわけではない。


 こればかりは仕様的にどうしようもなかった。

 世界の意思の本体を仕込む時点で、本当の意味での同一人物ではない。

 その辺りは許容している。

 私情だけで始めた計画ではない。

 ある程度は妥協しなければ成立しなかった。


 遺骨と魂を見つめていると、背後から足音がした。

 陽気な調子で近付いてくるのはグウェンだ。

 彼女は大きく手を振りながら話しかけてくる。


「どうもー、調子はどうですか?」


 グウェンは親しげに顔を覗き込んでくる。

 至近距離からじろじろと観察した彼女は、顎を撫でつつ見解を述べる。


「なんだか表情が硬いですねぇ。ひょっとして緊張してます?」


「……少しは緊張もするだろう」


 図星を突かれた私は反論する。

 今から実施することを考えれば、緊張するのも当然だろう。

 所長も珍しく真面目な雰囲気で作業に没頭している。

 ずっと能天気なのはグウェンだけだ。


「ハーヴェルトさんったら、もっとリラックスしましょうよぉ。何を考えたって結果は変わりませんからね。平常心って大事です」


 グウェンは軽い調子で語ると、馴れ馴れしく抱き付いてきた。

 もしこの場にグロムがいれば、殺し合いが勃発していただろう。

 彼は魔王に対する礼儀を重んじており、それを他者にも求める。


 ここ数日、二人が口喧嘩を繰り広げる光景を何度か目撃していた。

 案の定と言うべきか、性格的な相性が壊滅的に悪いようだ。


 それにしてもグウェンの態度がおかしい。

 平常運転のように思えて、違和感を覚えた。

 なんとなく気になった私は、閃いた憶測をもとに尋ねる。


「私を励ましに来たのか?」


「――まさか。暇潰しでからかっただけですよ」


 真顔に戻ったグウェンはあっさりと離れる。

 彼女は踵を返して歩き出した。


「どこへ行くんだ」


「ちょっと散歩してきまーす」


 グウェンは答えながら歩き去ってしまった。

 彼女の行動はやはりよく分からない。

 しかし、それはいつものことだ。

 基本的に気分屋で、周りの人間を翻弄して喜ぶ性格をしている。

 放っておくのが正解だろう。


 もうすぐ幹部達がここを訪れる予定だ。

 それまでの間、所長の手伝いをしようと思う。

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― 新着の感想 ―
[一言] そう言えば先代勇者は「蘇生」「復活」されたんじゃなくて、「再現」されただけだったよなって。何度やっても蘇生はできなかったのは、やっぱり「異世界転生」くらって、魂が他所の世界に行ってしまってた…
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