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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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254/288

第254話 賢者は宿敵を振り返る

 思い返すと、バルクほどの因縁のある難敵は珍しい。

 生前、幾度も交戦した記憶がある。

 彼の陰謀は常に狡猾で、翻弄されてばかりだった。

 それでも打ち勝てたのは、ひとえにあの人のおかげだろう。


 魔王になって再会した時、バルクは私への復讐に燃えていた。

 策略を巡らせて先代魔王ディエラを復活させると、彼は全力で挑んできた。

 最終的には私が勝利したものの、バルクの執念はそれでも尽きない。


 死後にグウェンの助力を得た彼は、精神世界にてジョン・ドゥと結託した。

 飽くなき復讐心には、素直に感心してしまいそうだ。

 私にとってバルクという男は、長きに渡って敵対してきた呪術師であった。


「ふむ……」


 容器内に保管されたバルクの魂は、未だに復元を繰り返していた。

 これこそが彼の特性だ。

 たとえ死を迎えても、数年の時を経て復活できる。

 魔術による魂の破壊を受けても、時間経過で蘇ってくる。

 それを防ぐため、常に魂を破損させて蘇りを防止していた。


 もっとも、今となっては必要性の低い措置だろう。

 この魂には、バルクの精神が内在していない。

 私の精神世界で死滅してしまったためだ。


 あれから自我の復帰は観測できていない。

 元四天王のバルクは、魂を残して死んだらしい。

 非常に珍しい状態だが、元より彼は特殊な体質であった。

 こういったことも起こり得る。


「非常に純度の高い魂です。グウェンさんが精神を丸ごと抜き取ったからこそ、このような状態になったのでしょう。いつ見ても惚れ惚れしてしまいますねぇ!」


 所長は頬を赤らめて熱弁する。

 私も稀少性は理解しているつもりだが、彼女の感動はそれ以上だった。

 興奮するあまり、ぶつぶつと独り言に没頭し始めている。

 いつもの光景なので、あえて触れることもないだろう。


 これから魂を漂白してバルクの痕跡を完全に抹消する。

 そうすることで、復元の特性だけを残した無垢な魂に仕立て上げるのだ。

 それをあの人の蘇生に使う。

 術の触媒としては最適に近かった。

 世界全土を巡っても、この魂を超える物はあるまい。


 蘇生については、グウェンの力を借りるつもりだった。

 彼女に漂白した魂を改竄してもらうのである。

 グウェンは記憶や精神を扱うことを得意とする。

 それらの要素は、魂とも密接に関連していた。

 本人も魂の改竄は可能だと豪語していたので心配はしていない。


 私と所長が共同で研究しても辿り着けただろうが、きっと数十年単位の年月を浪費する羽目になる。

 この時期に蘇生へと踏み切れたのは、ひとえにグウェンの存在があったからだ。

 彼女の協力には感謝しなければならない。


 ただし交換条件として、外出の権利と没収した力の一部の返却を約束させられた。

 前者に関しては、既に実行している。


 会議以降、グウェンは自由に行動していた。

 ただし、その動向は常に監視している。

 彼女に施した術も解除していないので、妙な真似をすれば即座に殺すことができる。

 それを理解しているため、グウェンも不審な行動は取らない。

 基本的に城内を散策し、魔王軍の兵士や使用人との会話を楽しんでいるようだった。


 力の返却はあまり望ましくないが、こればかりはグウェンを信用するしかない。

 こちらが承諾しなければ、あの人を蘇生させられないのだ。

 決して善良とは言い難いグウェンではあるものの、魔王軍への復讐は考えていない……と思いたい。

 もし何かあった際は、私は責任を持って対処するつもりだった。


「…………」


 私は容器内の魂を見る。

 魂は絶えず形を変えながら浮遊している。


 此度の計画は、確実に成功するだろう。

 私はそれを直感的に悟っていた。


 現在の人々は英雄を求めている。

 それに便乗する形で、史上有数の英雄を蘇らせようと試みるのだ。

 世界の意思が、成功率を格段に引き上げてくるに違いない。

 悪を滅する不条理な法則が、そういった作用を引き起こすことを私は知っている。


(ついにあの人と再会できるのか)


 今の世界を見て、彼女はどう感じるのか。

 そして魔王となった私に何を思うのか。


 愚かな選択だと怒るのか。

 憐れなことをしていると悲しむのか。


 少なくとも喜びはしないだろう。

 正義に徹する彼女は、このような解決方法を望んでいなかった。


 私は、私の考える世界平和を伝えようと思う。

 それを聞いたあの人が、どういった反応をするのかは分からない。


 もし彼女が魔王による世界平和を受け入れるのなら、それでいい。

 私は安堵と歓喜を覚えて、彼女と共に永劫の魔王軍を築く。

 それがきっと理想だった。

 絶対悪による世界平和は不滅を約束される。


 しかし善良な彼女は、私の考えを拒否する可能性があった。

 あの人は、正義に生きる人格者だった。

 そんな彼女だからこそ、私は誰よりも憧れた。

 私の結論は理解されず、刃を交えることになるかもしれない。


 今まで目を背けてきた展開だ。

 だが、私はそろそろ直視しなければならない。

 既にあの人と再会する道は定まっているのだから。


 葛藤や恐怖はあるが、それでも私は進む。

 かつて、私とあの人は失敗した。

 勧善懲悪ではいけなかった。

 故に私は支配と脅威による人類の団結を目指した。

 もうそれしか残されていない。


 私は調停の魔王だ。

 もう一度、世界を救った勇者と会わなければならない。

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