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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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252/288

第252話 賢者は使命の遂行を誓う

 宣言した私は着席する。

 高まりかけた心が落ち着きを取り戻す。

 思った以上に緊張していたようだ。


 四肢に入った力を抜いて、大精霊を見やる。

 暫し無言だった彼女は、静かに椅子に座った。


「――嘘偽りはないようですね。無粋なことを訊きました。異論はありません」


 内心は読めなかったが、ひとまず納得させられたらしい。

 こういった状況で、大精霊が遠慮するとは思えない。

 引き下がったということは、本当に問題ないのだろう。


 大精霊の着席に合わせて、グウェンが手を叩いて注目を集めた。

 彼女は会議をまとめにかかる。


「さて、他に意見を言いたい方はいますかね?」


 腰に手を当てたグウェンは、室内の面々を見回す。


 グロムは眼窩から涙を流していた。

 布を当てて押し留めようとするも、明らかに間に合っていない。

 彼は呻くように泣いていた。


 ルシアナは朗らかな笑顔を浮かべている。

 目が合うと、小首を傾げてみせた。

 そこには労うような視線が含まれていた。


 ヘンリーは祝いとばかりにグラスを呷った。

 一息で空にすると、手を止めずに酒瓶を掴み上げる。

 今度はグラスに注がずに飲むつもりらしい。


 ローガンは腕組みをして静かに座っていた。

 気難しい表情だが、よく見れば口角が少し上がっている。


 ドルダは遠吠えを響かせた。

 興奮して左右の拳を円卓に叩いている。

 見事に破損しているので、後ほど修理しなければならない。


 ユゥラは他の面々を順に見回していた。

 様々な反応を前に、どうすべきか戸惑っている。

 熟考の末、彼女は控えめに拳を掲げた。


 ディエラは悠然と高笑いしている。

 彼女はどさくさに紛れて、ヘンリーの酒を盗んでいた。

 それを歓喜に打ち震えながら飲み始める。


 大精霊は室内の様子を傍観していた。

 最後に私を見ると、小さく頷いた。

 そして音もなく消失した。


 反応に統一感はないものの、概ね理解と納得を示していた。

 異論を抱える者は見受けられない。

 解釈に差異はあるだろうが、私の表明はそれぞれに届いたようだ。

 どういった感想であれ、受け入れられたのならそれでいい。


 同じく場の雰囲気を察したグウェンは笑顔で話の締めに入る。


「それでは私からの説明は以上です。ご静聴ありがとうございました」


 一礼したグウェンは、私の肩に手を置いた。

 そして満足そうに囁く。


「バトンタッチです。後はどうぞ」


「…………」


 会議は無事に終わったが、本番はここからだった。

 諸々の準備を進める必要があった。

 私は立ち上がると、予め考えていた指示を発する。


「七日後、先代勇者を蘇生させる。それまで各自の業務にあたってほしい」


 そこで言葉を切り、私は幹部達を一瞥する。

 魔王軍を共に支えてきた者達だ。

 彼らには、はっきりと伝えなければならない。


「――私はどのような結末になろうと生き残るつもりでいる。魔王の任は放棄しない。世界平和のために力を尽くす」


 それだけを告げると、私は喝采を背に退室した。

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