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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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251/288

第251話 賢者は本音と覚悟を述べる

 大精霊の挙げた疑問は、場を明確に変容させた。

 再び張り詰めた空気が訪れる。

 迂闊なことは言えない雰囲気であった。


 大精霊はじっと私を凝視している。

 彼女は真剣そのものだった。

 防御機構として、私のことを見定めるつもりなのだろう。


 誰も迂闊に発言できない雰囲気の中、グウェンは面白そうに笑みを深めている。

 あろうことか、彼女はわざとらしく驚いてみせた。


「おっと、大精霊さん。あなたはこの案に反対でしたか」


「反対はしていません。その前に確認したことがあるだけです」


 首を振った大精霊は椅子から立ち上がる。

 静かな佇まいだった。

 感情の揺れは見受けられない。

 ただ、全身から発せられる圧は本物である。


「あなた達の計画は理解できました。実現も十分に可能でしょう。しかし、先代勇者に多大なる力を与えることになります。魔王を凌駕する力で、何かを為すかもしれません」


 その指摘は的確だ。

 グウェンの考案した計画には穴がある。

 現在の問題を解決する過程で、先代勇者に力を集めることになる点だ。


 確かにこの計画によって事態は収拾する。

 ただし、今度はあの人の存在が無視できないものとなる。

 途方もない力が彼女に宿るためだ。


 それは使い方一つで世界の命運が左右するような規模だった。

 本来は個人に委ねてはいけない力である。

 グウェンの説明は利点ばかりに触れて、肝心の危険性を意図的にはぐらかしていた。

 彼女らしいやり口である。


 それについては誰もが気付いていた。

 故に大精霊が代表して尋ねた形だった。


「勇者が暴走するリスクと、万が一の際に彼女を処分する覚悟の有無。気になっているのはこの二点ですかね」


「はい、その通りです」


 大精霊は肯定する。

 対するグウェンは目を細めた。

 動じた様子がない。

 こういった質問が来るのは想定済みだったらしい。

 調子を崩さないグウェンは、指差し指で私の頬を突いた。


「さあさあ、ハーヴェルトさん。ガツンと言っちゃってくださいな」


 親しげに接してくるグウェンは、意味深な笑みを湛えていた。

 ただ面白がっているだけに見えるが、きっとそうではない。

 彼女は私のことを試している。

 他の者達と同様に、私の本音を求めているのだ。


(……話すしかないな)


 決心した私は立ち上がる。

 これは避けては通れないやり取りである。

 決して誤魔化すことはできない。


 場の者達が一斉にこちらを見た。

 反応は様々だが、共通して私の話を聞き逃さないように集中している。

 痛いほどの沈黙が室内を支配していた。


 視線を浴びる中、私は思案する。

 頭の中で内容をまとめてから、そっと本音を吐露した。


「魔王として、勇者に殺されるのは本望だ。私自身、あの人の手で終焉を迎えられるのならば文句はない」


 私の切り出しを受けて、室内に静かなざわめきが走る。

 おそらく誰もが想像していなかったのだろう。

 グロムに至っては、椅子から崩れ落ちていた。


「魔王様――」


「しかし、生憎とそれが許される立場でもない。私は必要な悪として世界を背負っている」


 私は遮るように本音を重ねる。

 すぐにざわめきは治まった。

 これについては、皆が予想していたらしい。

 安堵したグロムも椅子に座り直す。


 私は円卓に両手を置いて皆を見た。

 そのまま大精霊に対する答えを述べようとして、中断する。

 意図的に止めたのではない。

 その先の発言を躊躇してしまったのだ。


(情けないな……)


 内心で自嘲しつつも、私は気を強く保つ。

 言葉にするには覚悟が必要だが、もう後には下がれない。

 諦めてしまえば、配下達からの信頼を失うことになる。

 魔王の在り方も揺らぐだろう。


 これは私自身への宣言だった。

 宣言することに意味がある。

 幾重もの葛藤を経て、私はついに覚悟を決める。

 そして、配下達に向けて表明した。


「もしあの人が私を否定するならば、全力で抗ってみせよう。勇者を超えるのが魔王の責務だ」

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