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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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250/288

第250話 賢者は大精霊に問われる

「さて、虚像の救世主の消滅と、先代勇者の蘇生については説明できました。残るは世界の意思の殺害ですね。言うまでもありませんが、これも他の二つと関係あります」


 グウェンは変わらぬ笑顔で言う。

 彼女は説明役を満喫しているようだった。

 久々の地上なので、気分が舞い上がっているのかもしれない。


 ヘンリーから酒を強奪したディエラは、それを飲み干しながら質問を投げる。


「一体どうやって殺すのじゃ? いくら我々でも法則をどうこうする真似はできぬぞ」


「お気持ちは分かりますよ。ですが私、対策を閃いちゃいましたっ!」


 グウェンは両脚をばたつかせながら騒ぐ。

 酔っているのかと思うほどに一人で盛り上がっていた。

 それを見るローガンなど呆れ果てている。

 侮蔑を通り越して憐れみを覚えているようだった。

 おそらくそれに気付きながらも、グウェンは気にせず話を続ける。


「結論から述べますと、世界の意思を先代勇者に組み込みます。蘇る彼女の一部にしてしまうということですね」


「また馬鹿げた試みねぇ……」


 ため息混じりにぼやくのはルシアナだ。

 彼女はそれなりの魔術知識を有する。

 グウェンがあっさりと言ったことが、どれだけ難解なのか理解しているのだった。

 その上で発表された内容の実現は不可能だと一蹴している。

 ようするに信じていないのである。


 円卓の上に立ったグウェンは、ルシアナのもとへと向かった。

 そして、露骨に嫌がる彼女を無視してなぜか握手をする。


「形を持たない法則であるならば、形を与えてしまえばいい。理屈としては単純じゃないですかね」


「考えは分かった。しかし、それは可能なのか?」


 見かねたローガンが尋ねた。

 ルシアナから離れたグウェンは、奇妙な動きで踊りながら答える。


「本来ならまず不可能です。魔術で何とかするとか、そういう次元を超えてますから。ですが! 魔王軍には規格外のチートマンがいます。そう、ハーヴェルトさんです!」


 グウェンは大げさに私を指し示した。

 どう反応していいか分からず、私は椅子に座ったまま動かない。

 妙な沈黙の中、ユゥラが挙手をした。

 私が頷くと、彼女は発言する。


「マスターに質問――個体名グウェンの言い分は真実ですか?」


「ああ、可能だ」


 私ならばそれができる。

 世界の意思とは、これまで何度も敵対してきた。

 外世界の獣が襲来した時に至っては、他ならぬ私に作用して一時的に能力を与えられた。


 その時に、世界の意思というものを知覚したのである。

 会議前に何度か試したが、今の状態でも輪郭を掴むことができた。

 やり方次第ではさらなる干渉もできそうだった。


 輪郭から探った世界の意思は、樹木の根のような構造になっていた。

 根の末端がそれぞれ人々に繋がっており、そこから吸い上げるようにして願望を集めている。

 無論、私やこの場の者達も例外ではない。

 すべての生物が世界の意思の影響下にある。


 私は根を辿るようにして、大元の樹木へ意識を到達させた。

 結果、世界の意思の本体とも言える概念をしっかりと感知できるようになった。

 現段階では直接的な破壊はできないものの、収穫としては上々だろう。


 グウェンの述べた計画には、この感覚を利用する。

 専用に開発した禁呪で、あの人に世界の意思の本体を固定するのだ。

 そうして人々の願望の力が集約されるように仕組む。


 成功すれば、不可解な現象は停止する。

 絶対無敵の法則は、あの人の固有能力に落とし込まれることになる。

 これまでのような猛威を振るえなくなる以上、世界の意思を実質的に殺害したことになるだろう。


 本来なら絶対に不可能な行為だ。

 そもそも世界の意思は感知できる代物ではない。

 仮に感知できたとしても、精々が認識するのみだ。

 それを個人がどうこうするのは、普通は無理な話であった。


(唯一、魔王である私だけが可能なのだ)


 ほぼ無尽蔵の魔力と術の知識を発揮して、強引に結果を引き寄せる。

 さらには獣の異能という、この世界に縛られない独自能力も用いるつもりだった。

 いくつもの例外を重ね合わせることで、此度の計画を成功に導くことができる。


「先代勇者を復活させて、それを大々的に全世界へと広めましょう。こうすることで、救世主の立ち位置と世界の意思という受け皿を彼女の役目にします。あとは放っておくだけで、世界情勢も安定するでしょう」


 グウェンが言うように、勇者と魔王の構図はあるべき姿なのだ。

 善と悪が拮抗することで世界が安定する。

 勇者の存在自体が人々の希望にもなる。

 世界の意思という不確定要素を排除できれば、本格的に情勢の操作が容易になるだろう。


 これで三つの関連性が説明できた。

 以上が私とグウェンが考案した計画である。

 既に段階を踏んで準備を進めていた。

 あとは幹部達の承諾と理解が得られれば、実行へと移るつもりであった。


「一つよろしいでしょうか」


 静かな声と共に手が上がった。

 発言したのは大精霊だ。

 皆が注目する中、彼女は私に向けて尋ねる。


「蘇らせた勇者の処遇について、方針を聞かせてください。魔王として対決するつもりなのですか?」

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