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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第二章

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第25話 魔王は無慈悲な選択を提示する

 族長代理の言葉を受けて、私は暫し考え込んだ。

 そして淡々と返す。


「詳しい事情を話せ。答えはそれからだ」


「はい、分かりました……」


 頷いた族長代理は、詳細な内容を話し始める。


 彼女の説明によると、事の発端は十日ほど前まで遡る。

 突如として森を訪れた人間の軍が、樹木の提供を希望してきたのだという。

 当然、エルフの一族はこれを拒んだ。

 世界樹の森に存在するあらゆる資源は、おいそれと渡せるものではないためである。

 よほどの事情がない限り、エルフ達で守るのが古くからの習わしだった。


 樹木提供を断られた人間軍は、その場では大人しく引き下がった。

 しかし数日後、彼らはさらに強引な動きに出た。

 世界樹の森に侵入すると、無断で樹木の伐採を始めたのである。


 これに憤慨したエルフ達は、すぐさま攻撃を行った。

 ところが人間軍の戦力は強大で、彼らには太刀打ちできなかった。

 地の利を加味しても、数十倍の人数差を覆せなかったのだ。

 攫われるエルフも続出する始末で、森の一部に放火される事態にまで陥ったという。


「これを窮地と見た我々は、緊急の協議を実施しました。もはや話し合いによる解決など不可能です。皆が人族の軍を撃退するための策を挙げました。その中で……」


「今代の魔王に助力を願う案が出たというわけか」


「……はい。反対意見はありましたが、こうして押し切らせていただいた次第です。他に有効な手立てもありませんでしたから」


 族長代理は悔しそうな顔で述べる。

 言い方から察するに、魔王の利用案を出したのは彼女だろう。

 当然、反対する者もいたようである。


「ちなみに、侵略を行っているのはどこの国だ」


「帝国です。旗の紋様を目にしたので間違いありません」


 族長代理は憎しみを込めて答える。

 その口調だけで、彼女の心情が伝わってきた。

 私には計り知れないだけの想いを抱えているのだろう。


 帝国とは、世界樹の森と隣接する国だ。

 周辺の小国を呑み込んで肥大化した強国である。

 戦争で力を強めてきたという面では、現在の魔王領と似た経緯を持つ。


 そんな帝国では、人族至上主義が蔓延していた。

 人族以外の亜人種が卑下され、奴隷として売買されているのだ。


 奴隷制度自体は他国にもあるが、帝国の場合はそれが顕著である。

 扱いも劣悪で、奴隷でない亜人でも差別を受けている。

 周辺諸国と比べても、その風習が色濃く残っていた。

 それが原因となり、国外との軋轢が大きいことで知られているほどだ。


(帝国はなぜ樹木を伐採しているのだろうか)


 わざわざ世界樹の森を狙ったのだ。

 単に木材が目当てというわけではあるまい。

 帝国の広大な領土内だけで、十分な量の木材が確保できるはずだった。


 そうなると心当たりは一つしかない。

 すなわち世界樹の森の恩恵である。

 あの地の樹木には精霊の力が宿っており、聖なる力を持っていた。

 他の樹木では代用できない特質だ。

 稀少価値も高く、闇市等では相当な価格で競売されていた記憶がある。


 問題は、帝国が今の時期に聖なる力を欲する理由だ。

 単純な資金調達とは考えにくい。

 何らかの運用目的があるからこそ、森を占拠しようとしている。


(――魔王への対抗策か?)


 色々と仮説を立てるも、そうとしか考えられなかった。

 戦いを糧に成り上がってきた帝国だ。

 アンデッドの対策を万全にして、魔王領へと侵攻するつもりなのかもしれない。

 あの国なら、領土を丸ごと奪い尽くすことだって計画しかねなかった。


 それだけが目論見ならまだいい。

 帝国は昔から世界樹の森を手に入れようと画策していた。

 資源に加えて、エルフという人材の入手も目的の一つである。


 しかしそれを実行すると、周辺諸国から批難を浴びることは必至だ。

 亜人種をも敵に回すことになる。

 いくら帝国とは言え、多方面に敵を作りたくない。

 だからこそ、大きな動きは控えてきた。


 ところが、状況は一変した。

 魔王討伐という大義名分を以て、協力要請――もとい侵略を堂々と行えるようになったのだ。

 帝国の狙いとは、魔王領と世界樹の森の両方ではないだろうか。

 これが的中していれば、とてつもなく強欲な話である。

 ただ、十分にありえることなのだ。

 帝国が綴ってきた侵略国家としての歴史が物語っていた。


 大部分が私の予想だが、概ね間違ってはいまい。

 密偵に集中的に調べさせれば判明することだ。

 それに、帝国が世界樹の森を侵攻しているという事実は不動であった。

 何はともあれ、波乱の展開であるのは間違いなかった。


 人類が国や種族を問わず、魔王を殺すために手を取り合う。

 それによって疑似的な平和を生み出す。

 帝国の動きは、その理想を踏み躙る行為だった。


 自国のことしか考えていないのだ。

 本当に協力する気なら、正式に同盟を申し出ればいい。

 その過程を飛ばして森に進攻している。

 私の追及する世界平和にそぐわないやり方だった。

 どうにかしなければいけないのは確かだろう。


「今代の魔王は、特に人族を憎んでいるという噂がありました。それが本当ならば、亜人であるエルフを救ってくれるはずだと考えたのです」


 族長代理は、私の様子を窺いながら語る。


 そのような噂が流れているとは、少し意外に思う。

 確かに魔王軍は、今まで人間ばかりを虐殺してきた。

 亜人に対する攻撃は行っていない。

 それをエルフ達は、前向きに解釈したようだ。


「魔王である貴方様に縋るのは筋違いであると重々承知しております。ですがどうか、我々エルフをお救い下さい……」


 族長代理は深々と平伏する。

 一拍遅れて他のエルフ達も同様に頭を下げた。


 彼らは極限まで追い詰められている。

 だからこそ、一国を滅ぼした魔王などに助力を願い出ていた。

 殺されるかもしれない危険を冒してでも、一族を救おうとしているのだ。


 彼らの前に立つ私は、感情を込めずに告げる。


「その申し出は断る。魔王軍はエルフの一族を救わない。今までは都合上、人間だけ攻め滅ぼしてきただけだ。亜人を贔屓にするつもりは毛頭ない」


 これは偽りなき本心だった。

 エルフに加担すると、今代の魔王は亜人種の味方という印象が広まってしまう。

 結果、人間と亜人による戦争に発展する恐れがあった。

 争いは二勢力間で激化し、私の理想とは程遠い世界となる。


 生前の私なら、真っ先に手を貸しただろう。

 彼らのために力を尽くすはずだ。

 きっとあの人もそうしたに違いない。


 しかし、現在の私は魔王である。

 魔王は万人にとっての悪でなければいけない。

 いずれかの勢力に肩入れすると、築いてきた存在意義が崩れる。


 私は"救う"魔王であってはならない。

 あくまでも"殺す"魔王として君臨しているのだから。


「そ、そんな……ッ」


 顔を上げた族長代理は絶望する。

 背後のエルフ達にも、諦めの雰囲気が漂い出していた。

 中には逆恨みで敵意を向けてくる者もいる。

 ここまですげなく断られるとは思っていなかったらしい。


 予想通りの反応を見つつ、私は話を続ける。


「ただ、お前達には帝国の蹂躙を避ける道が一つだけ残されている」


「そ、それは何でしょうか……っ! 我々は、一族が生き延びるためなら何でも致します!」


 族長代理は、懸命に言葉を重ねていく。

 その場限りの嘘ではない。

 彼女には覚悟がある。

 一族のためなら躊躇いなく命を捨てられるだけの覚悟だ。

 なかなかの傑物である。


 これだけの人物なら、選択を迫ることもできよう。

 そう判断した私は、彼女に向けて告げる。


「――隷属だ。魔王の支配を受け入れろ。さすれば帝国の侵略を退けよう」

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