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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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第248話 賢者は獣に説明を任せる

 元気に発言したグウェンは奇怪な構えを取る。

 彼女なりに格好を付けたようだ。


 それに対する幹部達の反応は無に等しい。

 微妙な空気が漂い始めていた。


 元凶であるグウェンは、不思議そうに構えを解く。

 彼女は腰に手を当てて苦笑した。


「あらら、空気が冷えてますねぇ。ひょっとして私、スベっちゃいました?」


「ねぇ、魔王サマ。厄介女が脱走してるわ。殺した方がいいんじゃないかしら」


わたくしも賛成ですな。視界に入れるだけで目が腐りそうですぞ」


 ルシアナとグロムは口を揃えて意見する。

 こういった時、二人は驚くほどの連携力を見せる。


「待ってくださいよ。無害な美女を相手に物騒すぎません? 第一、私は脱走したわけじゃないですから。ハーヴェルトさんに呼ばれたんですよ」


 グウェンは飄々とした態度を崩さずに弁明する。

 一方でローガンは、顔を顰めて私に意見を述べた。


「この女は危険だ。地下から出すべきではない」


「もう、過大評価ですよぅ。ハーヴェルトさんに力の大部分を没収されちゃってますから、今の私は本当に何もできません。それに今は救世主やら勇者のパートですから、出しゃばるつもりはないです。そういう空気は読めるんです、私」


「グウェンには複数の術を施している。少しでも不審な素振りを見せれば、即座に死亡する仕組みだ」


 彼女には様々な獣の異能や禁呪を仕込んでいる。

 力の大半を私に没収された状態で、それらを耐えるのは到底不可能だった。


「そうなんですよ! どんだけ警戒してるんだってくらい入念にセットされましたから! ちょっと外そうとしましたけど、絶対に死にますね。まったく、世が世なら提訴する仕打ちです」


 グウェンは腰に手を当てて怒ってみせる。

 それも冗談や演技なのだろう。

 だから私は冷ややかに指摘する。


「話が脱線している。説明を始めてくれ」


「サーイエッサー」


 グウェンはおどけた調子で敬礼をした。

 彼女は円卓を迂回するように歩き、私のそばまでやって来る。

 そこで手を打って注目を集めると、嬉々として話を進め始めた。


「虚像の救世主の完全消滅でしたよね。きちんと策がありますよ、ええ」


「勿体ぶらずに教えてくれよ」


 頭の後ろで手を組んだヘンリーが急かした。

 彼は早く本題を聞きたいらしい。

 要望を受けたグウェンは、室内の面々を見回す。


「人類の望みを一身に受け止められる英雄を用意するんです。そもそも虚像の救世主が発生したのは、高まりすぎた期待を誰も受け切れなかったからでした。それなら、相応しい役者を仕立てればいいわけですね」


「力の行方が定まると、代役である虚像の救世主は消滅する。そういうことだな」


「大正解! 察しが良いですねぇ。奮発して五十ポイントあげましょう」


 グウェンは発言したローガンを指差した。

 彼女は上機嫌らしく、一人で飛び跳ねる。

 幹部達はやはり微妙な反応だった。


(適任かと思ったが、間違いだったか……)


 口出しするのも疲れた私は、後悔の念を端に置く。

 苛立ったところで喜ばせるだけだろう。

 余計なことを考えず、泳がせておくのが一番である。

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