第248話 賢者は獣に説明を任せる
元気に発言したグウェンは奇怪な構えを取る。
彼女なりに格好を付けたようだ。
それに対する幹部達の反応は無に等しい。
微妙な空気が漂い始めていた。
元凶であるグウェンは、不思議そうに構えを解く。
彼女は腰に手を当てて苦笑した。
「あらら、空気が冷えてますねぇ。ひょっとして私、スベっちゃいました?」
「ねぇ、魔王サマ。厄介女が脱走してるわ。殺した方がいいんじゃないかしら」
「我も賛成ですな。視界に入れるだけで目が腐りそうですぞ」
ルシアナとグロムは口を揃えて意見する。
こういった時、二人は驚くほどの連携力を見せる。
「待ってくださいよ。無害な美女を相手に物騒すぎません? 第一、私は脱走したわけじゃないですから。ハーヴェルトさんに呼ばれたんですよ」
グウェンは飄々とした態度を崩さずに弁明する。
一方でローガンは、顔を顰めて私に意見を述べた。
「この女は危険だ。地下から出すべきではない」
「もう、過大評価ですよぅ。ハーヴェルトさんに力の大部分を没収されちゃってますから、今の私は本当に何もできません。それに今は救世主やら勇者のパートですから、出しゃばるつもりはないです。そういう空気は読めるんです、私」
「グウェンには複数の術を施している。少しでも不審な素振りを見せれば、即座に死亡する仕組みだ」
彼女には様々な獣の異能や禁呪を仕込んでいる。
力の大半を私に没収された状態で、それらを耐えるのは到底不可能だった。
「そうなんですよ! どんだけ警戒してるんだってくらい入念にセットされましたから! ちょっと外そうとしましたけど、絶対に死にますね。まったく、世が世なら提訴する仕打ちです」
グウェンは腰に手を当てて怒ってみせる。
それも冗談や演技なのだろう。
だから私は冷ややかに指摘する。
「話が脱線している。説明を始めてくれ」
「サーイエッサー」
グウェンはおどけた調子で敬礼をした。
彼女は円卓を迂回するように歩き、私のそばまでやって来る。
そこで手を打って注目を集めると、嬉々として話を進め始めた。
「虚像の救世主の完全消滅でしたよね。きちんと策がありますよ、ええ」
「勿体ぶらずに教えてくれよ」
頭の後ろで手を組んだヘンリーが急かした。
彼は早く本題を聞きたいらしい。
要望を受けたグウェンは、室内の面々を見回す。
「人類の望みを一身に受け止められる英雄を用意するんです。そもそも虚像の救世主が発生したのは、高まりすぎた期待を誰も受け切れなかったからでした。それなら、相応しい役者を仕立てればいいわけですね」
「力の行方が定まると、代役である虚像の救世主は消滅する。そういうことだな」
「大正解! 察しが良いですねぇ。奮発して五十ポイントあげましょう」
グウェンは発言したローガンを指差した。
彼女は上機嫌らしく、一人で飛び跳ねる。
幹部達はやはり微妙な反応だった。
(適任かと思ったが、間違いだったか……)
口出しするのも疲れた私は、後悔の念を端に置く。
苛立ったところで喜ばせるだけだろう。
余計なことを考えず、泳がせておくのが一番である。




