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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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245/288

第245話 賢者は打開策を定める

(随分と出鱈目だが……真実なのだろう)


 私はヘンリーを一瞥する。


 彼は焼いた肉を呑気に齧っていた。

 そして美味そうに酒を飲んで洗い流す。

 会話の最中も手を止める様子がない。

 私が相手でなければ、鉄板の肉を補充しに行くのではないだろうか。


 ヘンリーの話す内容は漠然としていたが、おおよそ理解できた。

 やはり彼は規格外である。

 私でも察知できない虚像の救世主を本能的に発見し、撃退までしてみせたのだ。


 ヘンリーは魔術的な才覚を持たない。

 察知できたのは、持ち前の直感によるものだろう。

 本来は認識不可能な存在を相手に奮闘し、魔王軍の犠牲を抑えたのだから、その活躍は絶賛する他あるまい。


 そのような偉業を成し遂げた一方、当の本人は悔しがる。


「それにしても、例の襲撃者を逃がしちまったのが心残りだなぁ。大将の魔術があれば、仕留められたのかね」


「私の力があっても難しかったろう。気にすることはない」


 これは慰めではない。

 純然たる事実だ。

 いくら私の力が強かろうと、虚像の救世主には通用しない。

 ヘンリーのように撃退できたかも怪しかった。


 彼には大精霊との会話で判明したことを伝えておきたいが、ここは場所が悪い。

 第三者による盗聴の危険性も考えると、屋外で話すべきではないだろう。

 私は小声でヘンリーに告げる。


「此度の真相だが、詳しいことは後ほど話す」


「……ああ、楽しみにしているぜ」


 こちらの内心を察したヘンリーは笑みを深める。

 自由な言動が目立つが、彼はなんだかんだで空気が読める男だ。

 そうでなければ、大軍を率いる戦士にはなり得ない。

 普段はあえて空気を読んでいない節があるものの、戦場という一面に限れば、全体の流れを掴んで操ることに長けている。


「このまま魔王軍を拠点に帰還させてくれ。急がなくていい」


「了解。終わり次第、連絡させてもらうよ」


「分かった」


 指示を終えた私は転移で謁見の間に戻る。

 新たに積まれた書類を確認しつつ、すぐにルシアナとの念話を繋げた。


「少しいいか」


『はーい、何かしら?』


「今夜、会議を行いたい。時間はあるか」


 私が尋ねると、向こうで考え込む声がした。

 脳内で予定の調整をしているのだろう。

 ほどなくしてルシアナは答える。


『大丈夫よ。頑張って空きを作るわ』


「ああ、頼んだ」


 そこで私は念話を終了する。


 具体的な用件も聞かずにルシアナは会議の参加を承諾した。

 私の口ぶりから事の重大性を理解したのだろう。

 余計な手間が省けてありがたい。


(後で他の幹部にも連絡を取らねばならないな)


 皆で集まって話し合いと報告をする。

 魔王軍――否、世界の行方を左右する重大な決定だ。

 私の一存では決められない。


 此度の調査では、大きな収穫があった。

 虚像の救世主の特性を朧げながらも理解した。

 今まで何の発見もなかったが、ようやく輪郭が掴めたのである。

 ひとえにヘンリーの活躍のおかげだった。


 想定していた解決策も、おそらく有効かと思われる。

 ただ解決するのではない。

 目下の悩みを一気に解消できそうだ。

 あとは然るべき準備を進めて実行するのみである。


 まだ不確定要素は残っているも、それに臆して二の足を踏むつもりはなかった。

 覚悟を決めて臨もうと思う。

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