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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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第241話 賢者は問題の正体を知る

(しかし、一向に解決の糸口が見つからないな)


 一人になった私は、事務作業の手を止めて思案する。

 しかし、このまま考え込んでも意味がないだろう。

 事情に詳しい者の意見が欲しかった。

 あまり頼ると迷惑な気もするが、そうも言っていられない事態である。


 決心した私は、目的の相手と念話を繋げる。


「大精霊よ。少し相談がある」


「何でしょうか」


 話しかけた相手――大精霊は、目の前に出現した。

 そのあまりの速度に驚く。

 まだ呼び出していないのだが、それだけ迅速に応じてくれたのはありがたい。


 しかし、大精霊の姿がいつもと違う。

 大まかには同じなのだが、どうにも異なるのだ。

 違和感の正体に気付いた私はそれを指摘した。


「今はユゥラに憑依した形ではないのか」


「本体から力の一部を新たに分離しました。通常時に比べると非力ですが、この状態だと防御機構の制約にも縛られません」


 大精霊は淡々と説明する。

 あっさりと言っているが、とんでもないことだ。

 彼女の解説が本当なら、顕現が簡単になったらしい。

 おまけに防御機構という役割を放棄している。


(そんなことをしていいのだろうか)


 随分と大胆な行動だ。

 少しだけ心配になるも、私が気にすることではない。

 大精霊も自由に動き回りたいのだろう。

 それを否定するつもりはなかった。


 納得した私は本題に入ることにした。


「面倒な事態になった。見解を聞きたい」


「事情は既に把握しています。ユゥラを介して見ていました」


 大精霊は静かな調子で述べる。

 それならば話が早い。

 彼女も世界情勢を気にかけていたのだろう。

 やはり防御機構としての意識があるようである。


 私を注視する大精霊は、さっそく結論を述べた。


「今回、世界の意思が生み出したのは、形を持たない架空の存在です」


「架空の存在……?」


「人々の願望が、純粋な破壊現象として魔王軍を攻撃しているのです。呼び名を付けるなら、虚像の救世主といったところでしょうか」


 大精霊の述べた呼称は、実に的を射ている。

 今回の相手は、救世主の大量死を経て登場した。

 さらに姿を見せない特徴から、虚像と表現したのだろう。


「一連の出来事により、英雄に対する期待と失望は大きくなりすぎました。それらを受け止められる個人がおらず、結果として誰でもない存在が力の行使を代行しています」


「なるほどな……」


 大精霊の解説は、私の疑問を解消する内容だった。


 虚像の救世主とは、ただの現象である。

 特定個人に能力が授けられたわけではない。

 魔王軍の破壊という結果だけを引き起こす何かだ。


 人々の深層心理は、考えたのだろう。

 ただの強者が束になっても魔王には敵わない、と。


 彼らには圧倒的な力を持つ個人が必要で、そのような英雄を求める声は大きかった。

 ところが実際問題、該当する人間はいない。

 結果、虚像の救世主が生み出された。


 これは誰でもない。

 実体を持たないため、どれだけの期待を寄せられようと潰されない。

 英雄覚醒とは対の状態と言えよう。

 もはや天変地異の類である。


 いくら調査しても見つけられないはずだ。

 そもそもの前提として、実行犯が存在していないのだから。

 どこにもいない人物の行方を掴めるわけがない。


(世界の意思も、いよいよ本気になったのか)


 今代魔王は、何者にも止められないと認識されたらしい。

 故に何者でもない現象が執行者となった。


 ある意味、究極の妨害である。

 人類の集合意識は、私を始末するのに手段を選ばなくなったようだ。

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