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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第二章

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第24話 賢者はエルフの一団と邂逅する

「エルフの一族か……」


 告げられた報告を受けて、私は呟く。

 少し予想外の回答だった。

 どこかの国が奇行に走ったのかと思ったが、そういうわけではなさそうだ。

 むしろ、それよりも複雑な事情の予感がする。


 エルフとは、精霊に愛される亜人である。

 基本的に人間――人族を敬遠して住処を離れない種族だ。

 人間の国で見かけることは滅多にない。

 変わり者のエルフが故郷を出て自由業を営むこともあるが、それは数少ない例外である。

 人族とは相容れないというのが、エルフに対する一般的な印象だろう。


 そんな彼らが、集団で行動しているのだ。

 何らかの目的があるに違いない。

 なぜ今の時期に魔王領に侵入しているのか、全く以て不明であった。


「エルフの一団は、魔王領の北西部を徒歩で移動中です。方角的に王都を目指しているようですな。おそらく三日ほどで到着する予定でしょう」


「そうか」


 私は相槌を打ちながら思考する。


 彼らは王都を目指している。

 ひょっとすると、私に用件があるのではないだろうか。

 王都方面へ来るということは、それくらいしか思い付かなかった。

 少なくとも観光目的などではあるまい。


 かと言って、攻撃目的の侵入ではないはずだ。

 少人数で堂々と姿を晒して移動しているのが何よりの証拠である。

 むしろこちらに存在を主張している節さえあった。

 敵意はないと知らせるのが狙いと思われる。


「エルフ共は、魔王様との謁見を希望しているのでしょうか……」


 グロムは首を捻ってうなる。

 彼も同じような結論に達していたらしい。


「謁見して何を言うのかが不明だがな」


「まったくその通りですな。よく分からない連中です」


 魔王になってから侵略戦争を繰り返しているが、彼らの故郷である世界樹の森には手を出していなかった。

 あそこは王国から離れている。

 したがってアンデッドの被害など出るはずもない。

 現状、彼らがこちらの領土に踏み込むほどの接点がないのだ。


 私自身、世界樹の森を破壊するつもりはなかった。

 あの地を蹂躙することが人類団結に繋がらないためである。

 ただエルフ達を苦しめるだけで、それは私の望む展開ではない。


「如何されるのでしょう? ご命令とあれば、わたくしが対処致しますが」


「いや、ここは私が向かおう」


 グロムの提案に首を振る。

 やはり実際に会って話をするのが手っ取り早い。

 向こうもそれを望んでいるのだろう。

 だからこそ、わざわざ魔王領に入ったに違いないのだから。


 万が一、王都に辿り着いた段階で妙な真似をされても困る。

 先に動いて目的を確かめるのが最善策だろう。

 そうして考えのまとまった私はグロムに命令を下す。


「来客を迎える準備をしておいてくれ」


「かしこまりました! お気を付けていってらっしゃいませ!」


 グロムは優雅に一礼をする。

 特に心配や不安などは抱いていないようだ。

 さすがにエルフの一団程度が、私に危害を加えられないことを分かっているのだろう。


「…………」


 私は感知魔術を使い、同時に意識を集中させた。

 感覚の網を一方向に向け、膨大な情報を取得していく。

 不要なものを意識から切り捨てて、エルフ達の詳細な位置を探った。

 やがてそれらしき反応が引っかかる。

 数も間違いない。

 徒歩の速度で王都を目指している。


「そこか」


 彼らの居場所を捕捉した私は、すぐさま転移魔術を起動した。

 視界が王都の街並みから切り替わる。

 そこは丘陵地帯を抜ける街道だった。

 振り向くと、数十人の男女がこちらへ歩いてくる。


 色素の薄い髪に、尖った耳と白い肌。

 華奢な体躯からは、精霊の力が漂っていた。

 いずれもエルフの特徴である。

 ローブを被って隠しているようだが、それと分かって観察すればすぐに分かった。


 私はちょうどエルフ達の進路上に転移できたようだ。

 ひとまず彼らのもとへ歩を進めていく。


「なっ!?」


「お、おい嘘だろッ!」


 驚きの声を上げたエルフ達は、一斉に弓や杖を構えた。

 それらを私に向けたまま後退し始める。

 見るからに警戒されているようだった。

 とても対話ができる状況ではない。

 場の空気は張り詰め、今にも戦闘が起きそうな状態であった。


 無論、それは互いに避けたい展開だろう。

 速やかに誤解を解くため、私は彼らに声をかける。


「待て。争うつもりはない」


「…………」


 エルフ達は構えを解かない。

 幾多もの鋭い視線が私に突き刺さっている。

 一挙一動をつぶさに監視されていた。

 少しでも不審なことをすれば、即座に魔術と矢が飛んでくるだろう。


(ふむ。いきなり現れたのは失敗だったな……)


 自身の軽率な行動を反省する。

 予期しない遭遇をすれば、当然ながら向こうを警戒させてしまう。

 それを考慮しなかった私が悪かった。

 地上に蘇ってからは戦闘行為ばかりで、その辺りの感覚がずれていたのかもしれない。


 加えて今の私の容姿は、非常に禍々しい。

 この身に宿る無尽蔵の魔力と瘴気も、エルフ達は感じ取っているはずだ。

 比喩抜きで規格外の怪物である。

 そのような存在が唐突に現れたのだから、気を緩められるはずがない。

 攻撃されなかっただけ僥倖と言えよう。


(仕方ない。このまま会話を進めるしかないか)


 反省の末、私は冷静に判断する。

 膠着状態に陥っているが、いつまでも黙っているわけにはいかないのだ。

 私が無言でいるほど、事態は悪化すると言ってもいい。

 なんとか会話を試みるのが先決だろう。


 仮に攻撃されたところで、大事に至るものでもない。

 そのすべてを防ぎながら対話を続行するまでだ。

 方針を決めた私は、落ち着いた声音で彼らに問いかける。


「代表の者は誰だ。話をしたい」


 私の言葉に対して、エルフ達は顔を見合わせる。

 その中から一人の若い女が進み出た。


 若いという表現は厳密には誤りだろう。

 エルフ族は長命種である。

 外見と実年齢に大差があるのが大半だった。

 二十前後に見えても、私より遥かに年上に違いない。


 そんなエルフの女は、一人でこちらに近付いてくる。

 凛とした雰囲気を纏っており、怯えや動揺などは感じられなかった。

 彼女の動きを見た他のエルフ達が武器を下ろす。


 私の前で足を止めたエルフの女は、毅然とした態度で名乗る。


「初めまして。族長代理で、この一団を預かっております。漆黒のスケルトン……貴方様が不死の魔王ですね」


 どうやらこちらの正体に勘付いていたらしい。

 私は隠すことなく頷いた。


 すると、他のエルフ達がざわめく。

 少なくない動揺が広がっていた。

 まさか王都までの道中で遭遇するとは思わなかったようだ。

 私が高位の不死者であることは分かっていただろうが、まさか魔王本人とは考えていなかったのかもしれない。

 それらの反応を無視して、私は話を続ける。


「私の領土を訪れたということは、何らかの用件があるのだろう。それを訊きに来た」


「はい……」


 族長代理のエルフは、意を決した表情を浮かべる。

 そして彼女は、真摯な様子で私に懇願した。


「世界樹の森が人族の軍に攻め込まれて危機に瀕しています。どうか力を貸していただけないでしょうか」

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