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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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第239話 賢者は先の世界を懸念する

 炎槍を殺した私は一都市を占領した。

 アンデッドは残る人々を蹂躙している。


 決死の反撃が散見されるが、彼らの努力はあまり意味がなさそうだった。

 当初は百体だったアンデッドは、今や数万の規模に膨れ上がっている。

 都市内の人間を変貌させた結果だ。


 この数年で対アンデッドを想定した術は進歩し、短い詠唱で大きな効果をもたらすようになった。

 安価な聖属性の魔術武器も登場している。

 すべてが魔王である私やその配下を滅ぼすためであった。


 しかし、その対策も完璧ではない。

 強力なアンデッドは聖属性への抵抗力を持つ。

 全身に帯びた瘴気で肉体を保護しているのだ。


 私の使役するアンデッド達は、大なり小なり抵抗力を保有していた。

 加えて圧倒的な数を誇り、いくら倒されようと損害は少ない。

 たとえ攻撃で打ち倒されたとしても、その残骸から聖気を除去して、新たなアンデッドとして組み直すだけだ。

 生半可な対策など、こちらからすれば誤差の範囲であった。


 戦いは決した。

 あとは部下を転送して任せればいいだろう。

 私は最寄りの魔王軍に念話で連絡すると、そのうち何割かをこちらの都市に移す。

 入れ替えるようにして、都市内のアンデッドの一部を向こうの魔王軍に送った。

 これで双方の不足はなくなったはずだ。


 用を済ませた私は、別の大陸へと転移する。

 やるべきことは一つではない。

 次から次へと消化しなければならなかった。


 私が見下ろすのは、小さな大陸だ。

 ここは無数の小国と二つの大国で成り立っており、海の向こうとの交流を断っている。


 二つの大国は、長年に渡って争っていた。

 私の活動が始まってからは冷戦状態が続いていたが、双方の国で救世主が事故死したことをきっかけに破綻した。

 それを互いの国の陰謀だと断定し、関係が悪化したのである。


 このままだと本格的な戦争が起きて、多くの人間が犠牲になるだろう。

 魔王軍を配置してもいいが、この国の仲の悪さは深刻だ。

 アンデッドによる被害を無視して争い続ける可能性があった。

 そのため、もっと強引な手段で解決すべきだと結論付けた。


「さて、始めるか」


 私は片手に魔力剣を生成すると、切っ先を真上に向けて掲げる。

 そこから普段の百倍ほどの魔力を流し込んだ。


 崩壊しかける術式を固定するうちに、剣は途方もない大きさまで膨張する。

 最終的には地平線に接するかと思うほど長さとなった。

 さらに瘴気を注ぐと、巨大化した魔力剣は漆黒に染まる。

 仕上げとして、数種の獣の異能で強化を施す。


 多重の改造行為を受けた魔力剣は、圧倒的な破壊力を内包した。

 青白い火花を迸らせながら軋んでいる。

 力が逆流すれば、私の身が爆散するだろう。

 術を制御するのも一苦労であった。


 形を安定させたところで、私は視線を地上に向ける。

 感知魔術を使って、直線上に人間がいないことを念入りに確かめた。

 問題ないことを確信した私は、魔力剣を振り下ろす。


 黒い極光の斬撃が放たれて、眼下の大陸を縦断していった。

 轟音と共に、不動の大地が引き裂かれていく。


 すぐさま私は、空間魔術を行使した。

 大陸の切断面を塞ぎ止めて、端からの崩壊を防ぐ。

 さらに海流を操作し、大地の裂け目に誘導した。

 そのまま割れた大地を引き離していく。


 しばらくすると、大陸は海を隔てて二分された。

 大陸を丸ごと切断することで、紛争国を物理的に離したのだ。

 両者の間の海域は、濃密な瘴気で汚染されている。

 その性質上、絶対に通り抜けることができない。


(少しやり過ぎたが、概ね計算通りだ)


 これで紛争は終焉を迎えた。

 両国が争うことはなくなっただろう。

 二つになった大陸では大きな混乱があるに違いない。

 しかし、畳みかけるように魔王軍が侵略を始めれば、余計な考察をする暇はないだろう。


(そろそろ次の段階に移るべきか……)


 私はグウェンとの会話を思い出す。

 救世主に向かうはずだった世界の意思は、どこかに停滞していた。

 時期は不明だが、それはいずれ発現される。


 果たしてどのような形で姿を見せるのか。

 現状では対策のしようがなかった。


 代役なり得る者を英雄に仕立て上げる方法は危険だ。

 救世主の二の舞になる恐れがあった。

 今になって実行しても効果は薄いだろう。

 後手に回ることになるが、相手が現れてから対処するしかなかった。


 次に現れる英雄は、きっと過去に類を見ないような存在となる。

 無数の救世主達が背負い切れなかった力を受け継ぐのだ。

 今の私を倒すために発生することを加味すると、おそらく規格外の英雄になるはずだ。


(気を引き締めなければいけないな)


 私は正義を屠る不条理な悪だ。

 一般に悪は潰える運命にあるが、それを覆すのが今代魔王の使命であった。

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