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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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第236話 賢者は救世主の死を考察する

 私は研究所地下のグウェンのもとへ向かう。

 此度の出来事について、彼女に相談するためだ。

 グウェンは世界の意思に最も詳しい人物の一人である。

 外世界の獣として、対策を重ねてきた経験を持つ。

 彼女から何らかの答えを得られるだろう。


 私が転移すると、グウェンはソファで居眠りしていた。

 いつもそこにいる気がする。

 気配を感じて目覚めた彼女は、嬉しそうに上体を起こした。


「ややっ、今回は早めに会いに来てくれましたね。私もついにヒロイン枠ですか!」


「お前の勘違いだ」


「相変わらずドライですねぇ。まあ、そこがハーヴェルトさんらしいですが」


 グウェンはのっそりと立ち上がると、ソファに移動する。

 彼女は対面のソファに私を手招きした。

 そこで話をしたいらしい。

 私は大人しく彼女に従った。

 前のめりになったグウェンは、さっそく話を切り出す。


「ここに来たということは、トラブルが発生したんですよね?」


「そうだ。お前の見解を聞きたい」


 私はこれまでの経緯を説明する。

 興味深そうに相槌を打つグウェンは、途中から口元に手を当てていた。

 愉悦に歪んだ笑みを覗いている。

 特に面白い内容ではないはずだが、彼女の目は輝いていた。


 話を聞き終えたグウェンは、背もたれに倒れる。

 息を吐いた彼女は、少し呆れたような顔をして述べる。


「救世主の虐殺ですかー……いやはや、ギャグみたいな死に方ばっかりですね。ちょっとシュール過ぎません?」


「どうしてこのような状況になった。原因は分かるか」


「心当たりはありますね」


 グウェンは即答した。

 ふざけたような言動とは裏腹に、その目は冷静だった。

 私の説明から考察を進めていたのだろう。

 やはり侮れない人物である。

 足を組んだグウェンは、少し声音を落として言う。


「端的に言いますと、彼らは救世主の器ではなかったんです。死の運命を引き寄せてしまったのは、拒絶反応みたいなものです」


「拒絶反応だと?」


 私の反応にグウェンは頷いた。

 彼女は手振りを加えながら説明を続ける。


「今代魔王の脅威は高まり、英雄を求める声は強まった。つまり、英雄の存在価値は高くなったわけです。ところが全世界で救世主を名乗る者が続出し、英雄は陳腐なものになりました。言わずもがな、質は低下してしまいます」


 グウェンの語る内容は正しかった。

 各地に登場した救世主だが、全員が優れた人物というわけではなかった。

 一般の傭兵が名乗ることも多く、悪党がその名を利用する場合も少なくなかった。

 救世主ごとに評価は大きく異なるのだ。

 質という面で見ると、間違いなく低下しているだろう。

 全世界から救世主に関する声を集めれば、良いものだけではないはずだ。


「救世主の活動に熱狂する一方で、人々は気付いたのでしょう。救世主では決して魔王には敵わない、と。きっと心の奥底でそう考えたはずです」


「その失望が、此度の大量死を招いたのか」


「だと思いますよ。もしかすると英雄に足る人も紛れていたかもしれませんが、まとめて切り捨てられちゃったみたいですねぇ。不運なことです」


 グウェンは半笑いで同情の言葉を述べる。

 心が込められていないのは明らかであった。

 彼女からすれば、救世主の死は愉快な出来事なのだろう。

 それを隠そうともしない。


 私は彼女の反応を腹立たしいとは感じなかった。

 相談したのは他ならぬ私自身だ。

 グウェンの性格もよく知っている。

 彼女が悪趣味であるのは、承知の上で頼りに来たのだ。


 それでも優秀な人物には違いない。

 この状況で取るべき選択肢を、グウェンはきっと知っている。

 私は彼女の見解を残らず聞き取らねばならなかった。

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