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第235話 賢者は策を挫かれる

 私は世界を巡って調査を始めた。

 救世主の死が、何かの間違いではないかと思ったのだ。

 密偵の情報網を疑うわけではないものの、あまりにも突飛な話だった。


 しかし、間もなくその情報が真実であると判明する。

 昨今、救世主を自称した者達は一人残らず死亡していた。

 これといった偽装もなく、本当に命を落としていた。


 死因は様々だ。

 まず出てきたのは戦死や病死だが、この辺りはまだいい。

 同時多発的である点には違和感を覚えるものの、まだ自然な形である。

 世界情勢や個人の健康状態を考えると、別に不審なことではなかった。


 注目すべきはこの他の死因だ。

 最も多いのが事故死であり、その内容が問題であった。

 具体的な事例を挙げていくだけでも頭が痛くなってくる。


 宿屋の二階から落下して首の骨を折った。

 街を歩いていると、花瓶が頭部に当たって即死した。

 小石に躓いて転んだところを、馬車に轢かれた。

 薬品の調合中、不可解な爆発で全身が弾け飛んだ。

 魔術ではないただの落雷が直撃した。

 子供の掘った落とし穴にはまり、弾みで土を喉に詰まらせて窒息死した。


 いずれも些細で偶発性の高い事故である。

 本来ならただの不幸で済ませるような出来事だが、此度の救世主の死因の八割を占めていた。


 これはさすがに無視できない。

 故に私は、事故現場を入念に調べた。

 ところが不審な魔術や特殊能力の痕跡は見当たらず、何者かの暗殺という線は消えた。

 つまり完全なる事故だった。


 そのような不幸が、世界中で救世主だけに同時多発的に降りかかった。

 はっきり言って馬鹿げている。

 性質の悪い冗談と思いたくなる。

 だが、これは紛れもない事実だ。


 まず間違いなく、世界の意思が発動したのだろう。

 他に考えられない。

 奇蹟とは対極に位置する出来事だが、起こり得ないことを起こすという意味では一致している。


(一体、何が目的なのか)


 自室に戻った私は、各地で集めた資料を参照しながら考える。


 世界の意思は、人々の願望で成り立っている。

 救世主の突然死を望む勢力は、おそらく少数派だろう。

 大多数が彼らの活動を肯定的に受け取っている。

 想いの量を比べた場合、世界の意思が暴走することはないはずだ。

 基本的に大多数の願望ほど優先されるからである。


 私を抹殺するため、救世主が強大な能力に目覚めることはある。

 しかし、いきなり全員が死亡するなど、明らかにおかしい。

 不可解すぎる現象だった。


 未曾有の事態は、世界は混乱をもたらしている。

 救世主の影響力がちょうど高まっていた時期なのも大きい。

 そこに此度の事故死が相次いだことで、あらゆる方面に被害が発生していた。

 魔王軍は救世主の続出に合わせた対応してきたが、それも台無しにされてしまった。


 今回、世界の意思の欠点が露呈した。

 本来は人々が望んだことを引き寄せて実現するはずが、どういった作用なのか最悪の結果を導いた。

 見事に誰もが得をしていない。


(ひょっとすると、何かの予兆なのか?)


 救世主の死因を眺めながら、私は頭を抱える。

 様々な可能性を思い浮かべるも、明瞭な答えは出てこない。


 とりあえず、引き続き調査をすべきだろう。

 どうにも嫌な予感がする。

 世界の意思の暴走が、これだけで終わる気がしなかった。

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