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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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232/288

第232話 賢者は救世主を利用する

 その日、私は朝から別大陸に赴いていた。

 空を陣取って地上を見下ろす。

 視線の先では、二つの軍隊が衝突しようとしていた。


 一方を率いるのは、自称救世主である。

 異教徒を倒すという名目を掲げて、隣国への攻撃を扇動しているのだった。

 元は教会の司教で、現在では軍部でも高い地位にいるそうだ。


 もう一方の軍は、宣戦布告を受けた相手国であった。

 こちらは防衛のために出向いてきたが、あわよくば進軍するつもりらしい。

 国境を越えた先にある地下資源を欲しているのだ。


 ほどなくして両軍から矢が放たれた。

 最前列の兵士は鉄砲を使用する。

 初撃からそれなりの犠牲が出るも、両軍は攻撃を止めようとしない。

 それどころか、徐々に距離を詰めていた。

 このまま白兵戦に持ち込むつもりなのだろう。

 両軍とも考えていることは同じだった。


(止まるように警告しても、意味はないだろうな)


 私は肩に担いでいた武器を構える。

 それは鉄砲の一種で、狙撃銃という名称だった。

 ジョン・ドゥの記憶を参考に、研究所で開発したものだ。

 今回は性能実験のために持参したのである。


 私は装填された弾丸に瘴気を込めた。

 狙撃銃は黒く染まり、小さな音を立てて軋む。

 瘴気の負担が波及して悲鳴を上げているようだ。


 照準器を覗き込んだ私は、拡大された視界の中で狙いを定める。

 そして引き金を引いて発砲した。


 超高速で放たれた弾丸は、軍を指揮する救世主の胸部に命中した。

 その瞬間、彼の上半身が爆散する。

 肉片と臓腑が千切れ飛んで飛散した。


 もちろん即死だ。

 蘇るということもない。


 救世主の死を受けて、彼の率いてきた軍隊は恐慌状態に陥った。

 指揮系統が乱れて散り散りとなる。

 そこを相手国が攻撃しようとしていた。


 すかさず私は、頭上から黒い稲妻を落とした。

 瘴気で満たされたそれは、人々を焼き殺してアンデッドに変貌させる。


 アンデッドに襲われる両軍は、撤退を余儀なくされた。

 甚大な被害を出しながらも自国の領へ戻っていく。

 結局、互いの軍を追撃できずに立ち去っていった。


(これで当分は戦争を抑止できただろう)


 地上の光景を見た私は狙撃銃を下ろす。


 元々、ここは魔王軍の影響が薄かった地域だ。

 先代魔王の時代から紛争が絶えなかったらしい。

 これで少しは理解したはずだ。

 今の時代、人間同士で争う余裕はない。


 私は戦場を彷徨うアンデッドを集合させると、最寄りの魔王軍の拠点に転送した。

 ちょうど現地の配下達が戦力の不足を訴えていた。

 これだけの数を渡しておけば問題も解決するだろう。


 救世主の名声は、各地で爆発的に増加しつつあった。

 噂が異様な速度で広まっている。

 一部の界隈では神格化される始末だった。


 著名な人間や権力者が救世主を名乗る場合も多い。

 端的に述べると、政治及び宗教的な理由で使っているのだ。

 それが事態の進行に余計な拍車をかけていた。


 さらには救世主を自称する者達が、軍事行動に打って出ることもある。

 私が止めたばかりの戦いもその一例だった。

 矛先を魔王軍に向ける分には構わないが、人間同士で殺し合うために用いるのは看過できない。

 だから、こうして介入する羽目になる。


 もはや救世主の存在を隠蔽するのは不可能だった。

 魔王軍でも情報操作を試みたが、世界中に知れ渡ってしまった。

 今や救世主は、英雄の代名詞である。

 かつての勇者を超えるような知名度となった。


 その性質上、必ずしも強さを表す名ではない。

 しかし救世主を自称する者が増えるほど、それに比例して偉業や活躍が増えていく。

 結果として救世主という存在の価値が向上する。


 華々しい英雄譚を見聞きした者達は、憧れや畏敬の念、或いは対抗心を抱く。

 特に感化された者は、自らも救世主となって活動を模倣する。

 その繰り返しが起きていた。


(まさか、短期間でこのような発展を遂げるとはな……)


 英雄を渇望する人々の想いや、噂という不定形さ、それに救世主という響きそのものが原因だ。

 様々な要素が奇蹟的な相性で噛み合っている。

 これこそが世界の意思の本領であった。


 ただし、悪いことばかりではない。

 結論から言うと、魔王軍はこの状況を利用できていた。

 救世主の影響力を逆手に取り、彼らが主導となって魔王軍を狙うように仕向けた。


 国々に潜伏させた密偵や諜報員が暗躍し、情勢の操作を徹底している。

 加えて魔王軍の侵略で適度な圧力をかけていた。

 危機感を覚えた者達は、身近に迫る脅威に立ち向かうという寸法である。


 救世主が現れる以前から、人々は勇者の再来を望んでいた。

 その願望が、此度の事態を招いた。

 願望の流れを汲むとするなら、救世主とは"勇者に次ぐ魔王討伐の希望"である。

 放っておいても、私を抹殺する展開になる。


 魔王軍は、それを見越して行動した。

 救世主の続出は食い止められないと察して、状況の調整に尽力したのである。

 様々な裏工作で理想に近い形へと人々を誘い込んだ。


 先ほどのように人間同士の争いも完全には無くならないが、救世主が出現する前と比べて頻度が減少した。

 魔王討伐を共通目的として、同盟や不可侵条約を結ぶ国も散見される。

 世界の流れは、私の思う通りに動きつつあった。


 救世主が何人いようと関係ない。

 人々を結集させて、国同士の争いを防いでくれるのならば好都合だ。

 彼らはまず自覚していないだろうが、立派な協力行為である。

 私にとって味方のような者だ。


 総じて救世主達は、その名に相応しい行動を取っていた。

 その調子で平和に貢献してほしいものである。

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