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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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第229話 賢者は配下に諭される

 ルシアナの視線に私はたじろぐ。

 底知れぬ圧が感じられたのだ。

 涼しい顔をしているが、どうやら彼女は怒りを覚えている。

 それも激昂と称するに足るものであった。


 なぜルシアナは怒っているのか。

 彼女の真意を尋ねたいが、それをすればさらに怒らせてしまう予感がした。

 故に私は口を噤むしかなかった。


 一方、グロムの前で足を止めたヘンリーがひらひらと手を振った。

 彼は軽い調子で発言する。


「水臭いぜ大将。そういう話こそ、酒の場ですればいいじゃねぇか」


「……下らない悩みや愚痴で、酒を不味くしてはいけないだろう」


「おいおい、分かってねぇな。遠慮するのが一番の無粋ってもんさ。味なんて後から付いてくるんだよ」


 ヘンリーはため息を吐いて首を振る。

 まるで出来の悪い生徒に教えるかのような反応だった。


 返答できずに沈黙していると、ルシアナの圧が強まった。

 彼女は真剣な声音で話しかけてくる。


「魔王サマ」


「何だ」


「願い事があるなら、叶えちゃえばいいんじゃない? たぶん実現の目星くらいは付いてるんでしょ」


「…………」


 私は黙り込む。

 嘘で誤魔化せる雰囲気ではない。

 否定することはできなかった。


 ルシアナの指摘は正しい。

 死者の蘇生は、研究所でも実現不可能とされていた試みの一つだ。

 未だに解析が進められているも、大きな成果はない。


 しかし、研究が始まった当時と比較して劇的に変わった要素がある。

 それは私の能力だ。

 以前までは、死者の谷の恩恵を受けているだけだった。

 現在は地力が大幅に上がったことに加えて、獣の異能を大量の保有している。


 特に獣の異能は、実に多種多様だ。

 大半が魔術で再現可能だが、一部は魔術を凌駕する効果を秘めている。

 これらを全面的に使用して所長と協力すれば、おそらくあの人を蘇生させられる。

 私はそれを直感的に確信していた。

 この身に宿した力は、もはや不変の法則すら歪める領域に達しているのだ。


 とは言え、それを実行すべきか否かは別問題である。

 膨れ上がった権能は、計り知れない影響力を持つ。

 ともすれば、この手で世界を滅ぼしかねないほどだった。


 それを自覚する私は、ルシアナに反論する。


「可能だからと言って、気軽に実現してはいけないだろう。今までの悩みとはわけが違う。決して私の一存で決められることでは――」


「はいはい、そういうのは分かったから」


 ルシアナは遮るように手を打った。

 彼女の人差し指が、私の鼻先に当てられる。

 思わず発言を止めると、ルシアナは微笑を湛えてみせた。


「じゃあ皆で決めればいいじゃない。アタシは勇者復活に異論はないわ。骨大臣、アンタはどう?」


「我は賛成だ。魔王様のご希望に沿うことが至上である」


 腕組みをするグロムは即答する。

 片目の炎は勢いを取り戻し、轟々と音を立てて燃え盛っていた。


 肩をすくめたルシアナは、次にヘンリーに目を向ける。


「そう言うと思ったわ。アンタはどう?」


「反対どころか、蘇った勇者と戦いたいくらいだ。大将の剣技の持ち主だろう? 期待が膨らみすぎて困るくらいさ」


 ヘンリーは獰猛な表情で答える。

 彼の双眸は爛々と輝いていた。

 まるで飢えた獣のようだ。


 ヘンリーは本気だろう。

 もしあの人が蘇れば、真っ先に襲いかかりそうだ。


 二人の意見を聞いたルシアナは、こちらに向き直った。

 彼女は勝ち誇った表情で話を続ける。


「というわけで、幹部三人は賛成よ。会議を開いてもいいけれど、他の幹部も同じ意見じゃないかしら」


「…………」


 私はルシアナ達の顔を見れず、地上を眺める。

 返す言葉も見当たらず、気まずい心境で黙り込むしかなかった。


 すると、ルシアナが唐突に私の肩を叩いた。

 衝撃で骨の一部が欠けるも、気にせず彼女は言う。


「何事も悲観し過ぎよ。勇者の蘇生でまた問題が起きるのなら、アナタの力で解決すればいいでしょ。いつものことじゃない」


「確かに、そうだな」


「まったく、何回言っても一人で抱え込むのよねぇ……その癖、直した方がいいわよ?」


「……すまない」


 その点については、本当に反論のしようがなかった。

 大きな問題に直面するたびに説教されている気がする。

 生前からの悪癖だろう。

 振り返れば、あの人からも頻繁に言われていた憶えがあった。


「まあ、先に救世主の一件を片付けないといけないけどね。勇者の蘇生は、その後に試してみましょ?」


「分かった。その方向で進めよう」


 私はルシアナの提案を承諾する。

 グロムとヘンリーも異論はないようだ。


 ルシアナの提案は、何の具体性もなかった。

 懸念事項を残らず無視しており、大胆というより無謀だ。


 しかし、それほど不安を覚えなかった。

 彼女の底抜けに前向きな姿勢に感化されたのかもしれない。

 胸の内に沈む悩みは、軽くなっていた。


(あの人の蘇生を企むなど、魔王として失格だろう)


 世界の安寧を目指す者としても論外である。

 絶対に取るべきではない選択だった。


 だが、何よりも私個人が実現したかった。

 配下達も賛同している。

 躊躇いがないかと言えば嘘になる。

 しかし、今はそれを超えるだけの勇気があった。


 あの人が再び命を得ることで、世界がどうなるか分からない。

 私の望むような顛末を辿れないかもしれない。

 それでも私は挑戦しようと思う。

 先へ進むためには必要なのだ。


(あなたと再会した時、私は……)


 浮かびかけた思考を切り捨てる。

 まずは救世主の問題の解決が優先だ。

 余計な想像に浸るのは、その後でいいだろう。

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― 新着の感想 ―
蘇生できでもろくな事がないでしょう。 だってあの勇者ちゃん多分聖母病患者で、賢者のやったことは決して許せないんだ。
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