表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

228/288

第228話 賢者は悩みを吐く

 私の呟きを聞いて、グロムの肩が跳ねる。

 動揺が隠し切れていなかった。

 グロムは呻くように言う。


「それは、まさか……」


「あの人を蘇生させたい」


 私は断言する。

 今まで秘めていた考えを、ついに口に出してしまった。

 その途端、堰を切ったように本音が溢れてくる。


「彼女を蘇らせるべきではないと分かっている。現時点で様々な問題が紛糾している状況だ。しかし、捨て切れない想いがある」


「魔王様……」


 グロムは痛みを堪えるように呟く。

 失った片目が疼くも、私はそれを無視して言葉を紡いだ。


「これは魔王の願いではない。賢者ドワイト・ハーヴェルトの望みだ。救った世界に裏切られた男は、未だにあの人の従者なのだ」


 認めざるを得ない事実だった。

 人間だった頃の想いが、まだ心の奥底に残っている。

 死者の谷で志を新たにしたその時でさえ、払拭できなかった気持ちだ。

 燻る執着は、魔王の責務を押し退けようとしていた。


(憐れだ。本当に、憐れだ)


 私は自らの考えで板挟みとなっている。

 ただの悩みなら小さいものだ。

 しかし、そうではない。


 私の場合、世界の命運を左右しかねない規模なのだ。

 魔王となってしまった瞬間から、個人の物事ではなくなっている。


「死者の谷で処刑された時、無力な自分に憤りを感じた。あそこで力を振るうことができれば、運命はどう変わっていたのか……心のどこかで考えてしまう」


 脳裏を無数の光景が巡る。

 片目の疼きが強まった。

 堪え切れないほどの痛みを訴えてくる。


 私は意識的に体の力を抜いた。

 少し思考を中断すると、痛みが僅かに緩和する。

 気休め程度だが楽にはなった。


「私は、いつだって揺れ動いてきた。肝心な時に決断が鈍るのは、生前から変わらない癖だ。誰かに後押しされなければ、何も決めることができない。情けないと思わないか」


「け、決してそのようなことは……」


 グロムは言い淀む。

 彼は懸命に言葉を探しているが、見つからないようだった。


 迷惑をかけている自覚はある。

 煮え切らない感情をグロムにぶつけているだけだ。

 彼ならば絶対に怒らないと確信した上での八つ当たりである。

 最低な行為だろう。

 それを理解して、私はさらなる自己嫌悪に陥る。


 その時、グロムの背後に別の気配が出現した。

 私は思考を止めて注視する。


 大柄なグロムの陰から、ひょこりと顔が覗く。

 意地悪そうな笑みを浮かべるのは、ルシアナだった。


 翼で浮遊する彼女は、優雅な動きで前に躍り出る。

 そして舞うように回転しながら歌う。


「魔王サマの愚痴、聞いちゃったー」


 彼女が喜ぶ一方、遠くからこちらへ駆けてくる者がいた。

 弓を背に吊るして走るのはヘンリーだ。

 彼は空中に地面があるかのように疾走している。


 ヘンリーは飛行能力を持たない。

 足元に注目すると、力場が発生していた。

 魔力から察するに、ルシアナが補助しているようだ。


 どうやら二人でここまでやってきたらしい。

 何気に珍しい組み合わせだった。


 後ろ手を組んだルシアナが、私のもとまで近付く。

 意味深な間を置いて、彼女は目を細めて顔を覗き込んできた。


「――面白そうな話題ね。アタシ達も混ぜてくれない?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ