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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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第227話 賢者は悩みを抱える

 その後も私は夜空を散歩していた。

 次々に積もる考えに自問自答を繰り返しながら、半ば言い聞かせるようにして話題を転換する。

 時折、足元が覚束なくなるも、我に返って術を調整した。

 身体的な不調ではない。

 むしろ正反対の要因だろう。


「…………」


 自らの黒い手を眺めていると、背後に気配が出現した。

 振り返るとそこにはグロムが立っていた。

 グロムは胸に手を当てて私に報告する。


「魔王様、南方の大陸にて要塞の建設が完了致しました。後ほど戦力の配置をお願いします」


「分かった」


 報告に頷いた私は、再び歩を進めた。

 少々の間を置いてグロムが声をかけてくる。


「……何かお悩みですかな」


「新たな問題を警戒しているだけだ。悩みと言うほどでもないだろう」


 私はグウェンとの会話を伝えた。

 彼女から提案された対策方法についても説明する。

 世界の意思や救世主については、グロムも知っている。

 仕組みに関してはすぐに理解したようだ。


 グロムは神妙な様子で顎を撫でる。


「ふむ。我々が英雄を用意して、そこに世界の意思を集める……と。なかなかに利口なやり方ですな。さすがは外世界の獣といったところでしょう」


「私はこの案を実行しようと思う」


わたくしも賛成ですぞ。問題を最小限に抑える良策です。後ほど英雄に相応しい者を準備致しましょう」


「ああ、頼む」


 グロムは魔王領の様々な分野に携わっている。

 私に次ぐ最高責任者の一人だ。

 各地の人材についても把握しており、此度の対策に合わせた者を見繕えるだろう。


 そこで会話が途切れて沈黙が訪れた。

 私は気にせず散歩を続ける。

 報告を終えたグロムは、黙って後方に佇んでいるようだった。

 そのまま立ち去るかと思いきや、彼は唐突に発言する。


「やはり何か悩んでおられるようですな。わたくしでよければお聞かせ願えますかな。他言はしないと約束致します」


「…………」


 私は足を止めてグロムを見る。

 片目に宿る炎が、心なしか弱まっていた。

 風に吹かれて燻っている。


(やはり見抜かれていたか)


 配下の中でも、グロムは私のことをよく見ている。

 些細な心境の変化にもよく気付き、何かと気遣ってくる。

 今回も私の様子から察したのだろう。


 確かに今の私は、悩んでいる。

 目を背けてきたが、これは間違いない。

 多忙な仕事で見えないようにしてきたものの、こうして空白の時間になると露呈する。

 魔王の在り方を再確認したのが逆効果だったかもしれない。


 指摘を認めた私は、グロムに顔を向けずに呟く。


「すまない」


「魔王様が謝ることはありませんぞ。ご相談に乗れるなど、光栄の極みでございます」


 グロムが一礼する気配がした。

 彼は落ち着いた態度で話している。

 いつも通りの調子を保っていた。


 内心はどう思っているか分からない。

 きっと心配しているのだろう。

 しかしそれを表に出さず、相談相手という立場を崩さないように意識していた。

 彼の善意を無駄にするわけにはいかないだろう。


「……っ」


 私は胸中の悩みを口にしようとした。

 ところが、反射的に躊躇してしまう。

 発言することに恐ろしさを感じたのだ。

 もっとも、ここでやめるという選択肢はなかった。


 私は孤独ではない。

 頼れる者達がいる。

 独りで抱え込まないと決めたのだ。


 それなりの時間を費やした末、ようやく私は悩みを吐露する。


「――私は、あの人に今の世界を見てもらいたいと考えている」

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