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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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第226話 賢者は自らの行いを振り返る

 グウェンと別れた後、私は暴動の発生した街へと赴いた。

 人々が寝静まる中、禁呪によって彼らの記憶を消し飛ばす。

 複数の術で催眠状態を構築して、誰にも気付かれないように実行した。


 これで暴動の起きた日が忘れ去られることになる。

 さらに救世主を崇拝する者については、ここ最近の記憶を丸ごと削除した。

 翌日以降、大きな混乱がもたされるだろう。

 しかし、実害がないと分かれば人々も落ち着くはずだ。

 あとは時間が解決してくれることに期待する。


 用事を済ました私は、魔王領の夜空を一人で歩く。

 青々とした月明かりを浴びながら思考に耽る。


(ここからどうなるかが問題だな……)


 今回はかなり強引な手段となってしまったが、これで何らかの効果があることを祈ろう。

 この街は常に人間が出入りしている。

 救世主を知る者の一部は、別の街へと移動している頃だろう。

 そこから拡散される噂は止められない。

 現地の密偵から報告があれば、同様の手段で記憶を飛ばすことができるが、いつまでも同じことを繰り返すわけにもいかなかった。


 記憶消去という処置は、所詮は時間稼ぎに過ぎない。

 重要なのは、ここからの動きであった。

 世界の意思の発動を遅らせることができたのは確実だ。

 私はこの間にグウェンの助言に従うつもりだった。


 まず救世主と呼ばれるに足る者を選出する。

 魔王軍から選んでもいいし、支配地に属する第三者でも構わない。

 できれば英雄に値するだけの実力者が最適だ。

 候補となる人間はたくさんいるだろう。


 次にその者が救世主であるという噂を拡散する。

 さらには魔王軍と戦わせて、勝利を掴ませてもいい。

 大量のアンデッドを薙ぎ倒すような活躍をさせれば、瞬く間に名声を獲得するはずだ。


 あとは魔王討伐に勤しんでいるような行動をさせる。

 具体的には各地を巡るように仕向けて、たまに魔王軍と戦ってもらう。

 その頃には、世界の意思が発動して、人々の願望が救世主に集束しているだろう。

 以降は救世主の動向を管理するだけで有効な対処となる。


 これが私が望む展開だった。

 不規則な現象として、いきなり問題が起きるより遥かに対応がしやすい。


 そうして出来上がった救世主の処遇は、状況次第で決める。

 数年ほど活躍してもらった末、私の手で抹殺するかもしれない。

 或いは誰かに救世主の座を引き継がせるという流れでもいい。


 世界の意思に形を与えた後は、何らかの手段で消化するのだ。

 膨れ上がった力は、私すら凌駕する恐れがある。

 慢心せず、場合によっては殺害すべきだろう。

 この辺りは時期と情勢に合わせて考える問題だった。


 諸々の裏工作は、ルシアナに任せればいい。

 彼女なら上手い具合に調整してくれるはずだ。

 現在の魔王軍は各地に駐在しており、影響力は格段に上がっている。

 多種多様な裏工作が実行可能となっていた。

 作戦に困ることはないと思われる。


(まるで道化芝居だな)


 私は頭の中の計画を自嘲する。

 今更な話だった。

 そもそも今の私自身こそが、道化そのものである。


 世界を滅ぼす魔王を演じながらも、実際はその気などない。

 平和の実現を謳いながら大虐殺を敢行している。

 救うべき人々をアンデッドに変貌させて使役させている。

 今度は希望となる英雄を意図的に生み出して、挙句に殺す時期まで考えていた。


 矛盾だらけだ。

 世界広しと言えど、私ほど醜い存在は珍しいだろう。


 しかし、それでいい。

 私は道化だろうと構わなかった。

 世界の平穏が保たれるのなら、どのような悪事にも手を染めるつもりである。


(その役目に徹することができるのは、私だけなのだ)


 救うだけの覚悟なら誰でも持てる。

 事実、数多の英雄が高い志を掲げていた。

 だが、それでは不十分であった。

 彼らが届かなかった――否、触れようとしなかった領域を私は進んでいる。

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