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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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225/288

第225話 賢者は獣の助言を受ける

「事の経緯を話す。それを聞いたお前の意見が欲しい」


「おやおや、デレ期ですか? いいですよ、出血大サービスで答えちゃいましょう!」


 グウェンが両手を突き上げて喜ぶ。

 私はその反応に違和感を覚えた。


「……やけに乗り気だな」


「当たり前じゃないですか。大好きなハーヴェルトさんのためですからねっ」


 グウェンは艶やかな表情で片目を閉じてみせる。

 私は寒気を感じて、思わず後ずさる。

 グウェンは不思議そうに眉を下げた。


「あらら、反応が悪いですねぇ。こういうタイプの女子はお嫌いですか?」


「冗談はいい。経緯を話すぞ」


 私は救世主に関する事象の一通りを説明した。

 特に隠し事もせずに残らず打ち明ける。


 グウェンはおそらく此度の黒幕ではない。

 意味深な言動を惑わしてきたが、それらは彼女の悪ふざけである。

 本人も関与を否定していた。

 秘匿すべきことはないだろう。


 話を聞き終えたグウェンは、ソファに座って腕組みをした。

 彼女は神妙な表情で唸る。


「今回は救世主ですかー。よくもまあ、次々とトラブルが起きますねぇ。世界の意思さん、ちょっと頑張り過ぎじゃないです?」


「私に言うな。困らされている側なんだ」


 願わくば問題など起きてほしくない。

 不測の事態は、世界に混乱を生じさせる。

 平和を維持したい身としては、迷惑極まりない状態だった。


「つまりハーヴェルトさんは、噂の救世主の発生を止めるか、何らかの対策を打ちたいということですね」


「そうだ。大精霊は難しいと言っていたが、お前ならば異なる見解を持っているかもしれないと考えた」


 グウェンは外世界の獣だ。

 宇宙から襲来した特異な存在である。

 過去にいくつもの世界を滅亡させており、その過程で世界の意思と何度も敵対していた。

 すなわち経験が豊富だった。

 何か独自の意見があるのでは思ったのだ。


 グウェンは少し思案する。

 やがて彼女は、身振り手振りを加えながら意見を述べた。


「結論から言いますと、救世主の発生を防ぐのは無理ですね。英雄の素質を持つ人ってどこにでもいますし、どんな状況からだって覚醒しちゃいますよ」


「やはりそうか」


「世界の意思の強制力は侮れませんからねぇ……ぶっちゃけチートって感じです」


 グウェンはため息を洩らす。

 しかし次の瞬間には、ころりと表情を一変させた。

 彼女は指を一本立てると、得意げに振ってみせる。


「まあ対策と言いますか、世界の意思を操るコツとかアドバイスくらいはできますかね」


「そのようなものがあるのか」


「裏技があるんです。うちの親玉だった獣――あなた達が偽りの神と呼んでいた個体がいるじゃないか。あれが使っていた方法の応用ですね」


 グウェンはそこで言葉を切り、生温かい笑みを浮かべた。

 その顔で私の様子を観察している。

 なんとも神経を逆撫でするような表情だった。


「勿体ぶるな。結論から話してくれ」


「もう、せっかちさんですねぇ」


 苦笑するグウェンは何度か手を打った。

 十分な間を置いてから、彼女は話の本題に入る。


「ずばり! 押しでも駄目なら引いてみろ理論ですね! 法則の仕様を逆手に取るわけです。あなたが強硬策をとるほど、世界の意思は反発して大きなトラブルを招いてきました。心当たりはありますよね?」


「しかし、何らかの手を打たなければ問題が発生する。見過ごすわけにはいかないだろう」


「お気持ちは分かりますが、ぐっと堪えてみましょう。食い止めようとはせず、あえて世界の意思が作用しやすい環境を用意するんですよ」


 グウェンは涼しい顔で提案する。

 想像とはまるで異なる対策であった。

 いや、対策とすら呼べない行動だ。

 とても理解ができない。


「そのようなことをしてどうなる」


「上手くいけば、狙い通りの現象が発生します。予測していた問題なら、その後の対処も楽ですからね。言うなれば罠に誘い込むイメージです」


「罠か……」


 私はグウェンの使った表現に納得する。


 偽りの神は、同じ手法で莫大な力を手に入れた。

 自らを希望と崇拝の対象とすることで、世界の意思による力の増幅に成功させたのだ。

 グウェンの対策とは、似た要領で力の集まる先を定めることだった。


「世界の意思を未然に抑止するのは厳しいので、発動する前提の策を練るべきですよ。大精霊さんのアドバイスも悪くないですが、時間稼ぎにしかなりませんからね」


「ふむ……」


「もし思惑通りに進まなかったとしても安心してください。きちんと情勢を操作できれば、後出しだろうと罠は有効ですよ」


 グウェンの提案は、想像以上に的確だった。

 経験則から対策を確立している。

 そうして幾多もの世界を滅びに導いてきたのだろう。

 彼女の手腕と実績は、確かなものであった。


 話し終えたグウェンは、ソファに転がる。

 その上で頬杖をついて言った。


「現状、私から言えるのはこれくらいでしょうか。また何かあれば、遠慮なく相談してくださいね。対価次第でアドバイスしますから」


「すまない。助かった」


 私は礼を言う。

 転移魔術を起動しようしたところ、グウェンが何かを思い出したように起き上がった。


「あ、ハーヴェルトさん」


「何だ」


 転移を中断した私は尋ねる。

 親指を立てたグウェンは、気合の入った様子で宣言した。


「私の活躍パート、待ってますからね! いつでも準備万端ですよ、ええ」


「……そうか」


 なぜか自信満々な彼女を置いて、私はその場から転移で去った。

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