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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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第217話 賢者は新大陸を視察する

 ある日、私は遠く離れた大陸に赴いた。

 とある目的で視察に訪れたのである。


 ここは魔王領からは気の遠くなるような距離にあり、途中の海域には凶悪な魔物が跋扈していた。

 さらには常に暴風に晒されている場所があるため、船による往来は不可能だった。

 迂回しようにも陸路と海路を駆使して延々と移動しなければいけないので、魔王領の大陸とは交流が一切ない大陸である。

 外世界の獣の一件でも、担当の防御機構が活躍し、こちらから干渉する機会がなかった。


 そのような土地をわざわざ訪れたのは、ここに魔王軍の拠点を築くためだ。

 地上に城、地下に研究所を建てる予定だった。


 この地に派遣する配下については、基本的に捕虜と奴隷だけにするつもりである。

 奴隷は、奴隷自治区から調達する。

 反抗的な者は、ルシアナが魅了していた。

 従順にしてから派遣する予定だ。


 なぜこのようなことをするのかと言えば、ある種の実験に近い。

 偏った環境を意図的に構築し、どのような人材が育つかを確かめるのだ。

 実験結果は、今後の運営の参考にする。


 数年後、私は各大陸に魔王軍を配置する。

 簡単に言っているが、大それた計画であった。

 事前準備は必須だろう。

 少しでも成功率を上げておくべきだ。

 今回の試みはその前段階のようなものと言える。


 無論、派遣した奴隷や捕虜が暴走する可能性もある。

 だから私が遠視の魔術で監視する他、いくつかの策を用意する。

 どのような結果になろうと、この大陸に悪影響は及ぼさないはずだ。


(それにしても変わった環境だな……)


 私は周囲を見回す。

 背の高い木々が密集していた。

 雨が葉を叩きながら降り注ぎ、ローブを瞬く間に濡れていく。


 私の隣では、ヘンリーがうんざりした表情を浮かべていた。

 今回、視察に同行するのは彼とドルダの二名である。

 ちょうど時間が空いていた者を誘ったのだ。

 ヘンリーは手で顔を扇ぐ。


「随分と暑苦しいな。居心地が悪いぜ」


「熱帯雨林だからな。この地域では珍しくない環境だ」


 私は不死者である。

 蒸し暑さは感じるが、それほど不快には思わない。

 人間のヘンリーはそういうわけにもいかないのだろう。


 一方、ドルダは雨も意に介さずに歩き始めた。

 斧を携えた彼は、彷徨うように森の奥へ踏み込んでいく。


「ドルダ、どこへ行く」


「首……獲物ヲ、探ス」


 ドルダはぎこちない口調で答える。

 最近、彼は意思の疎通ができるようになった。

 正気に戻る機会が多くなった影響だろう。

 流暢に話せるわけではないが、着々と改善されている。


 もっとも、まだ問題行動は多い。

 ドルダはどのままどこかへと行ってしまった。

 特に止めたりはしない。

 帰還する際に呼び戻そうと思う。

 感知魔術で彼の現在地は把握している。


「大将、本当にここに城を建てるつもりかい」


「不満か?」


「もう少し楽な場所があるんじゃないかと思ってな。駐在する連中が苦労するだろう」


 ヘンリーの意見は正しい。

 あまりに劣悪な環境は、余計な問題を誘発する原因となり得る。

 私は補足説明をする。


「住み心地に関しては、魔術でどうとでもなる。この辺りを選んだのは、防衛力の高さからだ。現地の軍も、そう簡単に侵攻できない」


 この場所は、最寄りの街からでも最短で四日はかかる。

 問題の湿度は魔術で解決可能だった。

 常に快適な環境を保つことができる。


 それを聞いたヘンリーは納得した様子で笑った。

 彼は辺りを眺めながら呟く。


「確かにこの中を行軍するのは厳しいだろうなぁ……おっ」


 眉を寄せたヘンリーが途中で言葉を止める。

 彼は背後を振り向く。


 視線の先にそびえるのは、見上げんばかりの巨躯であった。

 雨に濡れた茶色い鱗に、窮屈そうに畳まれた翼。

 そして、こちらを睨む黄色い瞳。

 木々を薙ぎ倒して現れたのは、二足歩行の亜竜だった。

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