表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

215/288

第215話 賢者は配下の行動を見守る

 ある日、密偵から念話による報告が届いた。

 大陸の外の支配地にて、敵襲があったらしい。

 土地の奪還を目論む現地の軍隊が侵攻してきたというのだ。


 私は戦闘情報をまとめた資料を確認する。

 現場はこの大陸から北上し、海を越えた先にある極寒の地であった。

 常に雪の降る国で、前々から魔王軍への反発が強いとの報告を受けていた。

 此度、大々的に反逆を企てたようだ。


 件の支配地は、防戦の最中らしい。

 事前に配置したアンデッドを利用することで、被害を最小限に抑えつつ、こちらからの応援を要請しているそうだ。

 幸いにも命令系統が上手く機能しており、最善の行動を取れている。

 報告を寄越した密偵によれば、半日は円滑に耐久できるらしい。


 とは言え、それだけ待つ意味もない。

 私はさっそく念話で配下達に連絡した。

 結果、ヘンリー、グロム、ユゥラの三名が出撃することになる。

 彼らはそれぞれの部下を援軍として編成した。

 準備ができたところで、私が彼らを現地へと転送する。


 戦力としては申し分ない。

 こちらで心配するようなことは何も無かった。

 安心して事務作業に戻ろうとしたところで、ルシアナが話しかけてくる。


「そういえば、今回は新兵器を試すと言っていたわ。魔王サマも、気晴らしに様子を見に行ってみたら?」


「不要だろう。後で報告だけ受ければいい」


「最近、ほとんど外出していないでしょ。たまには休憩も兼ねて観戦に行くべきよ」


「ふむ……」


 考え込んだ末、私はルシアナの言葉に従うことにした。

 さりげなく気遣われているのは分かった。

 おそらく知らないうちに疲れているのだろう。

 こういった場合は、素直に助言を聞いた方がいい。


 それに戦場を目にすることで、また何か閃きがあるかもしれない。

 人の死ぬ場面で気晴らしなど悪趣味な話だが、もはや今更であった。

 私は虐殺が嫌いではない。

 心の奥底では、人間に対する憎しみを燻らせていた。

 魔王になった時点で、拭い切れない感情となってへばり付いている。


 なんとも薄汚い本性だが、認める他ないだろう。

 その上で私は魔王を続けると決めたのだから。

 己の本心と向かい合い、精神衛生を整えていこうと思う。


 机を簡単に片付けた私は、戦場へと転移した。

 情報通り、一面の雪原が広がっている。


 眼下には、灰色の砦がそびえていた。

 幾重もの外壁に囲われており、配下達が慌ただしく駆け回っている。

 あれが魔王軍の支配する土地だ。

 この大陸における拠点の一つである。


 視線を少し遠くにやれば、現地の軍隊が確認できた。

 砦へと侵攻しており、一つ目の外壁を突破しようと奮闘している。

 魔王軍は大量のアンデッドを送り込んで対抗していた。

 上手く遅延に徹しているようだ。


 現地の軍隊は、魔術と弓矢を多用していた。

 少数だが大砲らしき兵器もある。

 山なりに放たれた砲弾が、砦へと落下していった。

 しかし、常時展開された防御魔術に阻まれる。


 駐在する魔術師が、交代しながら障壁を維持しているのだ。

 陰ながら砦の防御能力の底上げに貢献している。


 砦内の広場では、先に送り出した増援の軍が集まっていた。

 ヘンリーが威勢よく命令を飛ばしながら、部下を引き連れて一つ目の外壁へと向かっている。

 一方でグロムが単独で浮上してきた。

 途中、私を発見すると、途端に背筋を伸ばす。


 そこからグロムは多量の魔力を発散し始めた。

 かなり張り切っているようだ。

 濃密な瘴気が渦巻いている。


(やり過ぎなければいいのだが……)


 私が一抹の不安を覚える中、グロムは遥か上空を陣取った。

 彼は八本の腕を広げて咆哮する。

 その口から黒い炎が噴き上がり、空中で四散した。

 雨のように細かくなった炎は、砦の敷地を越えて雪原へと降り注ぐ。


 轟音の連鎖が空気を震わせる。

 黒炎は防御魔術を貫通し、現地の軍の只中に炸裂した。

 彼らは甚大な被害を受けていた。

 黒炎を受けた兵士達は、悲鳴を上げて右往左往する。


 仲間が鎮火しようとしているも、消えることはない。

 焼死した兵士は、やがてアンデッドとして蘇った。

 そうして味方の兵士に襲いかかる。


 現地の軍隊は大混乱を来たしていた。

 ちょうど中間地点にあたる場所でアンデッドが発生し、軍隊が前後で分断される形となっている。

 指揮系統が麻痺しており、全体の動きに統率が見られない。

 外壁の突破どころではなくなっていた。


 グロムは二撃目を撃ち込まず、腕組みをして静観する。

 彼が本気で術を放っていれば、今の一撃で軍全体が消し炭になっていただろう。

 威力を加減して、撤退を強いているようだ。

 少し心配だったが、グロムなりに考えているらしい。


 陣形を乱す現地の軍隊を眺めていると、そばにユゥラがやってきた。

 彼女は小首を傾げて顔を覗き込んでくる。


「マスターに質問――どうして戦場に来たのですか。迎撃に必要な戦力は既に過剰です」


「少し見学したかっただけだ。気にしなくていい」


「マスターの目的を理解――訓練の成果を披露します。戦闘後に評価をお願いします」


 そう言ってユゥラは、両手を伸ばして集中する。

 ほどなくして砦内を漂う魔力に変化が生じた。

 全域が均等な濃度となり、魔術行使に最適な環境となる。

 魔術師の負担を軽減するため、ユゥラが操作したのだろう。


 さらに外壁付近でも変化が起きた。

 降り積もった雪を押し退けて、無数の蔦が伸び上がった。

 網状になった蔦は、びっしりと外壁に絡まって成長を止める。

 精霊魔術で植物を操り、外壁の守りを固めたようだ。

 同様の現象が外壁全体で発生している。


(自らの能力を鑑みて、後方支援を選んだのか)


 直接的な暴力は、グロムとヘンリーで事足りている。

 それを察したユゥラは、最適な行動を自己判断で決めたらしい。

 出会った当初では考えられないことであった。

 彼女も魔王軍という環境で成長しているようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 民間人をぶん投げていたユゥラが立派になったな〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ