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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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第213話 賢者は旧友の言葉を胸に刻む

 その日の夜、私はローガンと共に外出する。

 魔王領の属国の視察が目的だった。


 属国とは言っても、どこかの国が降伏したわけではない。

 魔王領の一部を独立させたのだ。

 広すぎる領土の管理が難しい。

 余計な雑務ばかりが増えて、配下達も苦労していた。

 そこで辺境については現地の責任者に運営させることになった。


 属国の成立から半年が経過している。

 現状、大きな問題は起きていない。

 多少の混乱はあれど、国のとしての体裁を整えていた。


 ただし、大陸内の既存国は揃って批難の声を上げていた。

 新たに出来上がった複数の属国を、魔王の支配する忌まわしき国として認知している。


 概ね予想通りの反応であった。

 そういった声は放置するつもりだ。

 表立って批難はできても、実際に属国が攻撃されることはない。


 各国は獣の被害が癒えていなかった。

 属国への攻撃は、魔王に対する宣戦布告と同義である。

 それを承知の上で戦争を仕掛けるような真似はできないだろう。

 裏工作くらいは考えているだろうが、大々的に手出しできないのが実情である。


 属国の出現により、既存国への圧力はさらに高まった。

 こちらの選択の幅も広がったので、今後はさらに大陸の情勢を操作していこうと思う。


 上空に転移した私達は、属国の街並みを確認する。

 かつて魔王領の一つだったその地では、夜間でも建築作業が進められていた。

 等間隔で設置された魔術の光が、街全体を照らし上げている。

 なかなかに豊かな生活ぶりが窺えた。


 隣に立つローガンは、資料をめくりながら私に報告する。


「この地域の人手が若干足りていない。ゴーレムを派遣するが構わないな?」


「ああ、頼む」


 頷いた私は、ふと視線を遠くに送る。

 街から大きく外れた場所で、青い炎が揺らめいていた。

 遠視の魔術で確認すると、そこは小さな村だった。

 人々が中央部に集まり、青い炎を掲げている。


「あれは何の祭事だ」


「魔王を祀っているらしい。ここ最近になって始まった習慣だそうだ」


「なるほど……」


 私は村の様子に注目する。

 人々から敬愛の心が感じられた。

 それらは他ならぬ私に向けられているらしい。

 その事実に違和感を覚える。


「魔王を神格化するとは、変わった風習だ」


「お前の所業を考えれば、そうでもないだろう」


「どういうことだ?」


 思わずローガンに訊くと、彼は青い炎を眺めながら答える。


「今代の魔王は、領内のために奔走してきた。人々もそれに気付いているのだろう。お前は数多くの命を奪ってきたが、それと同等以上の救いをもたらしている」


「…………」


「崇められるのは不満か?」


「意外と、悪くない。だが、絶対悪の座を降りるつもりはない。私を崇める者は、少数派でいい」


 あの村を否定するわけではないが、私には不滅の悪という役目がある。

 崇拝とは対極の存在だろう。

 人類全体が私を神として捉えた場合、今の立ち位置は維持できない。


 これからは、立ち回りをよく考えねば。

 行動の一つひとつが魔王の印象を左右する。

 助けるにしても方法は考えるべきだ。

 偽装工作についてはルシアナの専門分野なので、彼女にも相談したいと思う。


 密かに自戒していると、私を見つめるローガンに気付いた。

 彼は真っ直ぐな視線を以て告げる。


「ドワイト、お前は自分を見失わずによくやっている。魔王の責務を負いながらも、英雄の気質も忘れていないようだ」


「それは、良いことなのか?」


「少なくとも悪いことではない。真の英雄だからこそ強大な力に溺れず、一貫して目的を見据えられている。正義の想いがなければ、本物の魔王になって世界を滅ぼしているだろう」


 ローガンの言葉は的を射ていた。

 今や私に対抗できる存在はいない。

 強者揃いの魔王軍や、防御機構の中にも皆無である。

 外世界の獣すら塵芥のように屠ることができる。


 その気になれば、三日とかからずに世界を滅びに導けるだろう。

 どれほどの強敵に阻まれようと、きっと実現できてしまう。

 実行に移さないのは、賢者の自覚と目的意識が残っているからだ。

 そして、脳裏にあの人の存在があるためであった。


「友人として、お前のことを尊敬する。今後も可能な範囲で補佐しよう」


「……助かる」


 私は頭を下げる。

 ローガンの言葉は心強い。

 どんな時でも私の進むべき道を照らしてくれる。

 不死者の身でありながらも、人間性を認識できるのは彼のおかげだろう。


「もし私が道を踏み外した時は、教えてほしい」


「無論だ。この命に懸けて止めてやる」


「それは嬉しいが、くれぐれも死なないでくれ」


「お前は相変わらずだな」


 小さく笑ったローガンは、振り返って彼方を指差した。

 その方角には魔王城がある。


「そろそろ帰ろう。グロムが夕食を用意している頃だ」


「分かった」


 応じた私は、転移魔術を起動した。

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― 新着の感想 ―
[一言] ローガン相変わらずいいやつ。エルフだから寿命も長いし、魔王の友人として最高だと思う。
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