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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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211/288

第211話 賢者は所内を視察する

 翌日、私は研究所へと赴いた。

 王都全域の地下を研究所とすることで、所長の力はさらに上がっていた。

 もはや最大最強の防衛力と称してもいい。


 彼女に知られずに研究所へ潜入することはまず不可能だろう。

 私が真剣に突破を試みても、それなりに手間取るはずだ。

 幹部達ならまず誰も敵わない。

 安心して遠出できるのは、ひとえに所長のおかげであった。


 研究所の入口を越えたところで、さっそく所長が出迎えに来た。

 彼女は揉み手をしながら頭を下げてくる。


「これはこれは! 魔王様、ご機嫌いかがでしょうかっ!」


「いつも通りだ。所長こそどうなんだ」


「私はいつだって絶好調ですとも! 何と言っても不死者ですからね。疲れや病気知らずで、いつだって働いておりますよ!」


 所長は自信満々に答える。

 人間だった頃の彼女は、不屈の精神力で肉体の負担を無視していた。

 現在はそういったこともなくなり、さらに生き生きとしている。

 疲労を感じない体質を最大限に活用しているようだ。


 とは言え、心配しなくてもいい理由にはならない。

 不死者でも不休で動けるわけではないのだ。

 私はそれとなく所長に忠告を行う。


「……たまには休暇を取るべきだと思うが」


「お気遣いありがとうございます。ですが私は研究が大好きです。忠誠心や義務感で頑張っているわけではありません。この環境で自由に研究できることが、私にとって何よりの癒しです」


「無粋な助言だったな。すまない」


「何をおっしゃるのですか! 魔王様は悪くありませんよ。こうして気を回していただけることに感謝しております」


 所長は深々と一礼をした。

 狂気的な研究欲で勘違いしそうになるが、彼女は根が真面目だ。

 いつも低姿勢で、誰に対しても真剣な態度を見せる。

 人望もあり、所員からも何かと好かれていた。


 そこまで考えたところで、私は辺りを見回す。

 研究所内は、無数の所長ばかりが跋扈していた。

 一般の所員がほとんど見当たらない。

 感知魔術を使ったところ、大半が出払っているようだった。


「今日は職員が少ないのだな」


「たまたま有給休暇が重なったそうです。あ、もちろん研究所の業務に問題はありません。私がしっかりと受け持っていますからね!」


「だろうな。その点については心配していない」


 所長は研究所の管理を徹底している。

 何か不備があれば、すぐさま解決していた。

 施設の責任者として非常に優れている。


 そして彼女自身が働き詰めとなっている一方で、部下には積極的に休みを取らせていた。

 少しの体調不良も見逃さず、常に最適な労働環境を構築しているのだ。

 表面的な能力だけで判断した場合、所長は非の打ちどころのない配下だろう。

 私や他の幹部を凌駕する適性も数多い。


 そんな所長と共に、私は研究所内を視察していった。

 歩きながら様々な開発や研究を見学する。

 所長の止まらない説明及び雑学に耳を傾けながら、書面だけでは分からない部分を確認した。

 ひとしきり巡ったところで、私は此度の訪問の本題に入る。


「ところで、彼女の部屋に向かいたいのだが……」


「監視を中断するのですね! 了解ですっ!」


「助かる」


 所長は事前に察していた。

 半ば恒例の流れなので、説明の手間も必要ない。

 私は所長に別れを告げて転移する。


 向かう先はこの施設に囚われた獣――グウェンの居住空間だった。

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