表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

210/288

第210話 賢者は先代魔王と語る

 私が呆れている間に、ディエラとヘンリーは対局を続行した。

 ディエラが懲りもせずに挑んだのだ。

 ヘンリーも乗り気であった。


 戦闘狂である彼は、基本的に勝負事が好きなのだ。

 王都内に賭博場ができたらしく、ヘンリーが入り浸っているという話を耳にした。


 ちなみにディエラもそこの常連そうで、いつも派手に散在していると聞く。

 先代魔王の威光は、すっかり無くなっているようだ。

 かつての宿敵とは思えない姿である。

 情けない報告を受けるたびに、私はなんとも言えない気分になった。


 やがて夕暮れ時が訪れる。

 ディエラが計十連敗を味わったところで、対戦は終了した。

 ヘンリーは酒瓶を片手に退室していった。

 完膚なきまでに圧倒した十連勝を叩き出して、彼は上機嫌だった。

 さぞ爽快だったろう。


 一方で半泣きのディエラは、私の正面に座った。

 彼女は震える声で愚痴を洩らす。


「あの男、容赦という言葉を知らぬようじゃ。吾、先代魔王じゃぞ?」


「戦いにおいてヘンリーは決して妥協しない。お前も知っているだろう」


「確かにそうじゃが……」


 ディエラは不満げに唸る。

 反論するだけの言葉を持たないのだ。

 彼女自身、ヘンリーを批難できないと分かっていた。


 私はそんなディエラに尋ねる。


「そこまで不満なら、次は私と対戦するか」


「嫌じゃ! お主、吾を勝たせようと誘導するじゃろう! 手加減されるより悪質じゃッ!」


 ディエラは私を指差しながら叫ぶ。

 厳しい追及だった。

 事実、それとなく勝たせるつもりだったので、何も言い返すことができない。


 ディエラは、盤上の戦いがとにかく苦手だった。

 他にもいくつか種類があるが、いずれも不得手としていた。

 その中でも戦略系統は、最弱の名を欲しいままにしている。


 魔王軍の幹部内においては、ルシアナやヘンリー、ユゥラが最強の地位に君臨していた。

 私やグロム、ローガンは中間程度の位置だろう。

 他の者は勝利が安定せず、同じくらいの実力だった。

 設定を海賊による船の戦いを基にした場合のみ、ドルダが首位に躍り出るくらいだろうか。

 その中でもディエラはいつも最下位だった。


 しばらく不満を垂れていたディエラは、頬杖をついて私を見やる。

 その目は、既に冷静さを取り戻していた。

 彼女は澄ました顔で疑問を投げる。


「ところで、今後はどうするつもりじゃ」


「侵略戦争についてか?」


「うむ。そろそろ大きな一手を打つ頃合いかと思っての」


 ディエラは机を指で叩きながら言う。

 確かに考えている策があったが、彼女には何も話していなかった。

 それどころか、まだ幹部達にも伝えていない。

 具体的なことまで固まった段階で打ち明けようと思っていたものの、見抜かれていたらしい。


 こういった方面においては察しが良い。

 ディエラは常に先を読んでいる。

 鋭い観察眼の持ち主で、視野も広い。

 なぜ盤上ではあれほど弱いのか不思議なほどだった。


 特に隠すことでもないため、私は打ち明ける。


「各大陸に魔王城を設けて、海の向こうの国々に圧力をかけたいと考えている」


「ほほう、それは壮大な計画じゃのう。しかし、大陸ごとに城を建てたとして、責任者はどうするつもりじゃ。お主がすべてを管理するのか」


「私も巡回するつもりだが、それぞれの城に責任者を置く。基本的な運営は、現地の責任者に託すつもりだ」


 この大陸では、各国が魔王を警戒している。

 大陸の外でも同様の反応が見られるものの、海を跨いでいることもあり、それほど切羽詰まっていなかった。

 魔王領から離れた地域ほどその傾向が強い。

 未だに小さな紛争が起きている地域も珍しくなかった。

 所詮は海外の出来事だと思われているのだ。

 その脅威が全世界に向けられたものであると伝えなければならない。


 各大陸に魔王城を設置すること自体は、それほど難しいことではなかった。

 適当な土地を確保して、そこに城と都市を築き上げて、研究所を設置すればいい。

 所長に移住してもらえば防備は完璧だろう。

 あとは順に拠点作りを進めていくだけである。


 特異なファントムである所長は、多重存在の能力を持つ。

 自らの数を無制限に増やせる状態だった。

 分身などとは根本的な性質が異なっている。

 無数の所長のすべてが本体なのだ。


 新たな大陸で研究ができると知れば、所長は移住を承諾するだろう。

 彼女が各大陸の城に常駐した状態となれば、大半の不安が解決する。

 完全に予想外の産物だが、魔王軍において最強の盾だった。


 喜んで旅支度をする所長を想像していると、ディエラは何気ない口調で提案をする。


「お主が望むのなら、吾も手伝ってやろうか?」


「すまないな」


「気にしなくてもよい。建前上は隣人のつもりじゃが、もはや普通に魔王軍に属しておるもんな、吾」


 ディエラは開き直ったように言う。

 互いにあまり触れて来なかったが、彼女は立派な魔王軍の一員であった。

 自他共に認めている状態だ。


 ディエラの助けが得られるのなら心強い。

 強大な戦力は未だに貴重だ。

 求心力もあるため、そういった面でも信頼ができる。


「早くても数年は先のことだ。いずれ実施するということだけ憶えておいてほしい」


「分かった。うっかり忘れる気もするが、その時はもう一度説明してくれればよいぞ」


 ディエラはそう言って立ち上がった。

 彼女は放置された盤と駒を一瞥して、苦い顔をする。

 そのまま退室するかと思いきや、寸前でこちらを振り返った。


「ドワイトよ」


「何だ」


 私が応じると、ディエラはふと表情を消した。

 その双眸は、かつて世界を相手に戦った者の瞳だった。

 彼女は牙を覗かせて不敵に笑う。


「お主なら、永劫の魔王を実現できるかもしれぬな」


「……そのつもりでいる」


「クハハ! その意気じゃなっ! 吾は応援しておるぞ!」


 満足そうに頷いたディエラは、手を振りながら部屋を出て行った。

 私は無意識に入っていた肩の力を抜く。

 先代魔王の威光は、未だ現役のようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ