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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第六章

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205/288

第205話 賢者は力を借りる

『ドワイトよ! 出番を奪いに――否、加勢に来たぞ!』


 念話越しにディエラの声がした。

 疑似ゴーレムは足裏から炎を噴出し、その力で飛行している。


 その巨躯から膨大な瘴気反応を感じた。

 私が獣と思ったほどの濃度である。

 瘴気は疑似ゴーレムの内部を循環していた。


 おそらく獣から奪ったのだろう。

 そのまま燃料に組み込んでいるらしい。

 如何なる方法なのか気になるも、訊いたところで明確な答えは返ってこないだろう。

 ディエラのことだから、直感的に成功させたに違いない。


 疑似ゴーレムは空中で静止した。

 黄金の触手のうち、一部が疑似ゴーレムのもとへと殺到する。

 即座に敵とみなしたようだ。


 ゴーレムの装着した筒から光線が放たれる。

 触手は光線を吸収して肥大化した。

 欠片も損傷していない。

 私はディエラに報告する。


「魔力や瘴気は効かない。物理攻撃が弱点だ」


『ぬぅ、厄介じゃのう』


 ディエラは唸る。

 数瞬を挟んで、今度はゴーレムから光の鎖が投射された。

 絡み付こうとする触手を逆に捕縛して、そのまま締め上げていく。

 光の鎖は吸収されない。

 見事に触手の拘束を維持していた。


(神聖魔術は例外なのか)


 光の鎖は、瘴気の破壊に特化した能力だった。

 獣からすれば、あまりにも致命的な効果である。

 触手の浄化はできないようだが、吸収もされないようだ。


 次はどうするのかと思っていると、ゴーレムの肩から何かが放たれた。

 それは一本の矢だ。

 矢は拘束された触手のそばを抜けて、一直線に黄金の塔へと飛ぶ。


 無事な触手がすぐさま防御に回った。

 ところが矢は、絶妙な軌道で潜り抜けていく。

 超絶的な技巧と触手の防御の先読み、微妙な風向きなど、それらを完璧に把握していなければ不可能な芸当だった。


 触手の防御を切り抜けた矢は、ついに黄金の塔に突き立つ。

 黄金の塔は、今までで一番の振動を発した。

 振動は咆哮となって地鳴りを起こし、建物を倒壊させる。


 矢の命中した箇所から、半透明の液体が漏れ出ていた。

 出血だろうか。

 負傷しているのは明らかである。


「ハッハッハ、いい鳴き声だ! デカい的だから当てやすいぜ!」


 疑似ゴーレムの肩から、歓喜の声が聞こえてきた。

 私は目を凝らす。

 そこにはヘンリーが乗っていた。


 彼は肩に乗った状態で弓を構えている。

 両脚を鱗にかけて姿勢を固定しているようだった。

 それにしてもかなり無理がある。

 落下の危険を考えると大胆な行動だろう。


「海の連合軍はどうした。防衛と迎撃を任せたはずだが」


『そんなものはとっくに倒した! 今はドルダに防衛を任せておる。戦力的には十分じゃろう』


 確かにドルダならば心配はない。

 船の上では、彼の独壇場であった。

 魔王軍の士気も上がっている以上、何の問題もない。


 海戦の終了を確信したディエラは、ヘンリーと共に私の補助に来るべきだと判断したらしい。

 苦戦していた身としては、ありがたい限りである。

 この上ない援軍だった。


「……世話をかけるな」


『気にすんなよ大将! 俺達はただ、獣の親玉と戦いたかっただけさ。こんな機会を逃すなんて勿体ないだろうっ?』


 陽気な調子のヘンリーは、二本目の矢を放つ。

 今度は触手を引き千切った。

 竜を素材とする弓は、強烈な一撃を体現している。

 たとえ偽りの神が相手だろうと通用するようだ。


 ディエラとヘンリーによる苛烈な連撃は、触手の注意を引き付けていた。

 反撃するなら今だろう。


 そう考えた時、突如として私の力が増幅。

 供給される瘴気や魔力が、際限なく膨らんでいるのだ。

 死者の谷に何らかの変化が起きたようだった。

 状況が読めずに驚いていると、念話による声が届く。


『魔王様! お身体に変化はございますでしょうかっ!』


 グロムの声だった。

 私は彼に問いかける。


「力が増幅している。何が起こった?」


『始末した獣達を、死者の谷に捧げているところです! 離れた場所からの援護になりますが、我々も全力で魔王様をお助け致しますぞ!』


 グロムの説明で私は納得する。

 多量の瘴気は、捧げられた獣からもたらされているようだ。

 感知魔術を使って探ると、ユゥラと大精霊も同様の作業に加わっていた。

 ルシアナとローガンの待つ連合軍の基地にも出向いている模様だ。

 片っ端から獣の死骸を集めているらしい。


 彼らは直接的な援護をディエラとヘンリーに任せた。

 この場に参戦したい気持ちを堪えて、私の強化に尽力しているのだろう。

 その方が貢献できると考えたのだ。


 私は体内に渦巻く瘴気を操作して、全身に保護を施す。

 塔の悪影響を抑制するためだ。

 かなり入念に張っておいたので、接近しても術の行使に影響はないだろう。


(――これならば、いける)


 思わぬ加勢を受けて確信する。

 私だけでは届かなかった一手だ。

 それが他ならぬ配下達から差し伸べられた。

 どれだけ感謝しようと足りないだろう。


 この恩は、結果でしか返せない。

 塔を見つめる私は、形見の剣を握り直した。

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