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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第六章

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第204話 賢者は夕闇を駆ける

 前方に踏み込んだ私は、形見の剣を一閃させる。

 弧を描く斬撃は、触手をまとめて切断した。

 返す刃でさらに別の触手を叩き割る。


 攻撃を加速させるも、それに呼応して触手の発生速度が上昇した。

 不規則な動きで私に迫ってくる。


(対処し切れない……)


 触手が肩を掠めたのを見て、私は後方へと跳躍した。

 その時、足元の地面に亀裂が走り、触手が飛び出してくる。

 私は咄嗟に剣で打ち払った。

 軌道の逸れた触手は、背後の壁を粉砕する。


 私は次々と襲いかかる触手を斬りながら疾走し続けた。

 途中、黄金の塔を一瞥する。

 塔はそれが当然であるかのようにそびえていた。

 表面に浮かぶ人間は、思い出したように脈動する。

 精神的な嫌悪感を誘う造形であった。


「助けて、死ね、殺す! 魔王! 万歳! 最悪だァッ!」


「嫌だこれは嘘だどうして僕がこんな目に」


「お前のせいでお前のせいでお前のせいで……」


 怨嗟の声が投げかけられた。

 精神汚染を受けた人々が、私に追い縋ってくる。

 誰もが血眼だった。

 彼らは触手の餌食になりながらも、それすら厭わず行動している。

 一心不乱に私を害そうとしていた。


(……やむを得ないか)


 私は魔術を行使する。

 熱風が人々を切断すると同時に焼却した。

 少し離れた地点では、猛吹雪が人間を氷の彫像に変える。

 また別の場所では、黒い霧が人間を一瞬で腐敗させていた。


 いずれも私の仕業である。

 複数の術は、なるべく苦しまないものを選んだ。

 彼らは自らの死にすら気付いていないだろう。


 この状況では、些細な妨害すら無視できない。

 触手の対応に追われている私は、人々を殺害するしかなかった。

 本当はこのようなことをしたくなかったが、躊躇っている暇は無かったのだ。


 無限に生える触手は、私の前進を拒む。

 剣を駆使して斬り進むも、一定以上は突破できない。

 無理に進めば、たちまち触手に吸収されるだろう。


 加えて塔に近付くほどに、肉体に悪影響が出ていた。

 具体的には魔力や瘴気の操作に支障が生じる。

 それが触手の対処を余計に難しくしていた。

 なんとも厄介な構造である。


 偽りの神は、絶大な力を発揮している。

 存在の格において、明らかに私が劣っていた。

 能力の規模で敗北している。


 しかし、それは戦いを放棄する根拠にはなり得ない。

 黄金の塔は世界を滅ぼす異物であった。

 それが分かっている以上、ここで私が止めねばならない。


(根比べになるが、仕方ない)


 気持ちを切り替えた私は、さらなる覚悟を以て塔に挑んだ。




 ◆




 塔との戦いが始まってから、一体どれほどの時間が経過したのか。

 辺りは夕闇に染まりつつあった。

 その只中に立つ私は、視線を周囲へと向ける。


 あれだけいた人々はもういない。

 彼らは触手の養分となるか、私の術でその生涯を終えた。

 結局、助けることはできなかった。

 ひとえに私の力不足によるものである。

 何の言い訳もできない。


 地面から生えた触手は、膨大な量となっていた。

 少なく見積もっても千本は下るまい。

 前方で幻のようにうねり、私の様子を窺っている。


 大した距離ではないにも関わらず、私は塔に辿り着けずにいた。

 触手による鉄壁の防御を抜けられないのだ。

 たった数歩さえ、あまりにも遠い。


 現在に至るまでに様々な術や戦法を試していた。

 それでもこの触手の壁を抜ける方法が、確立できていなかった。


(どうしたものか……)


 私は触手を切り裂きながら悩む。

 幸いにも触手の動きは単調だ。

 不死者である私は疲労を気にせず、こうして戦い続けることができる。

 実際、殺されそうな場面は一度も無かった。


 だからと言って、攻勢に持ち込めていないのが実情だ。

 上手くやれば突破できる予感もするが、その足がかりがない。


(あと一つ、何かきっかけがあれば打破できるはずだ)


 私は逆転の手段を模索しながら、途方もない戦いを継続する。


 その時、彼方で高出力の魔力反応が発生した。

 魔力反応は、凄まじい速度でこちらへ迫ってくる。

 瘴気も混入しているようで、かなり混沌とした反応だった。


(増援の獣か?)


 判断が付かず、私は最悪の展開を疑う。

 ここで強大な獣が増えると、本格的に劣勢になりかねない。

 できれば先んじて屠りたかった。


 私は迎撃するために身構えつつ、意識を空へと向ける。

 そして一瞬だけ硬直する。

 夕焼け空を高速で飛行するのは、鱗に覆われた疑似ゴーレムだった。

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