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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第六章

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202/288

第202話 賢者は希望を滅ぼす

 私は感知魔術を頼りに転移し、開かれた正門の前に着地する。

 門の向こうには、首都の街並みが広がっていた。

 戦争の痕跡はなく、上等な建物が豊かな暮らしぶりを物語っている。


 しかし、異様な点がある。

 この都市にいるはずの民が、一人も見当たらない。

 通りは閑散としており、不自然なまでに生活感がなかった。


 もっとも、民の行方については既に判明している。

 どうやら首都の中央部に集まっているようだった。

 何をしているのかは不明だが、瘴気が渦巻いている。


 嫌な予感を覚えつつも、私は転移でそこで赴いた。

 そして眼前の光景に言葉を失う。


 数十万の民が、一様に平伏していた。

 彼らは地面に頭をこすりつけて感謝の念を口にしている。

 人々が囲うようにして崇めるのは、光り輝く黄金の塔であった。

 首都の調和を崩すかのようにそびえ立っている。


 私は黄金の塔を注視する。

 塔の表面には、人間の顔や手足が浮かび上がっていた。

 苦悶か、或いは快楽か。

 判断し難い表情に歪んでいる。


 塔の最前列で、何人かの民が平伏の姿勢から立ち上がる。

 彼らは誘われるようにして塔に縋り付くと、そのまま呑み込まれていった。

 間もなく塔の一部として表面に浮かび上がってくる。


 最前列がいなくなった分、人々は少しずつ前進した。

 そして次の最前列が同じように呑まれる。

 ひたすらその繰り返しが行われていた。

 私には目もくれず、人々は身を捧げていく。

 正気を失っているのは明らかであった。


(何なんだ、これは……)


 吐き気を催すような光景に絶句する。

 塔そのものが偽りの神だった。

 そこから発せられる異質な瘴気反応は、紛れもなく私が感じ取ったものである。

 外世界の獣の頂点は、神々しさと納得の威容を帯びていた。


 塔から視線を感じる。

 感情は不明だ。

 ただ眺めているような漠然としたものであった。

 少なくとも敵意は見られない。


 偽りの神は、ここで人々を吸収し尽くすつもりらしい。

 理由については、なんとなく予想がつく。

 民の願望や崇拝を、丸ごと取り込んでいるのだ。

 そうして一心同体に近い状態になるのが狙いだろう。


 現在、偽りの神は、無数の民の集合とも言える存在である。

 転じて無数の民こそ、偽りの神とも解釈できる。


 あの塔に吸収された人々は、自らの安寧を求める。

 彼らにとっての安寧とは、偽りの神の生存だ。

 すなわち魔王を滅ぼして勝利を掴み取ることと同義であった。


 取り込まれた人々の祈りは、世界の意思として作用する。

 結果として、偽りの神に不条理な強化をもたらすのだ。

 無論、この場にいない人々でも偽りの神を崇拝し、魔王の滅びを望む者は数知れない。

 かつてないほどに不条理な力が作用しつつあった。


 世界の意思の仕組みをよく理解した作戦である。

 人々の祈りという源泉をその身に宿すことで、都合のいいように操作していた。

 きっと過去に同じことを繰り返してきたのだろう。

 偽りの神は、そうして力を蓄えてきたに違いない。


(もはや偽りと称していいのかも怪しいものだ)


 今までとは次元が違う相手だった。

 世界の意思そのものが、牙を剥いてきたような事態である。

 私という個人が対抗するなど、あまりに冒涜的だと感じるほどだ。

 まさに神への叛逆行為と言えよう。


「――それでも私はやり通す」


 腰に吊るした形見の剣を引き抜く。

 その切っ先を黄金の塔に向けた。


 死者の谷から出たあの日、私は決めたのだ。

 世界の平和のためには手段を選ばない。

 必要とあれば、神すら屠ってみせよう。

 永遠の悪に居座ることが私の責務なのだから。


 偽りの神を放っておくと、いずれ世界そのものを呑み込む。

 つまり平和を終焉に導く存在だ。

 ここで絶対に滅ぼさねばならない。

 決意した私は、黄金の塔への接近を開始した。

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