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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第六章

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200/288

第200話 賢者は配下の試みに言葉を失う

 管で構成された人体骨格が、声なき咆哮を上げた。

 胸部に内蔵されたディエラは、魔力反応を高めていく。

 すると、彼女を中心に鱗と甲殻が発生し始めた。

 まるで肉付けするかのように、人体骨格を覆っていく。


 そうして出来上がったのは、鱗の巨人だった。

 魔力が管の中を循環している。

 各所には光の鎖が巻き付いていた。


(これは……疑似ゴーレムか?)


 想像を超える光景に、私は呆然とする。

 間違いない。

 ディエラを核としたゴーレムだった。


 ゴーレムが片腕を振り上げて、海面に浮かぶ連合軍の船を薙ぎ払った。

 爆発が連鎖して、粉砕された船の残骸が兵士と共に宙を舞う。

 ただ腕を振っただけだというのに、とんでもない破壊力だった。


 連合軍の船が砲撃を行って、ゴーレムの表面の鱗を砕く。

 しかし、鱗の下には甲殻が隠されていた。

 少し焦げただけで、損傷らしき損傷は皆無である。


「効かぬわ! もっと本気で攻撃してみせよッ!」


 響き渡るディエラの声。

 反撃とばかりに、ゴーレムが手のひらを叩き付けられて、船が無残に爆散した。

 衝撃に伴う大波が、さらに連合軍の陣形を崩壊させる。


『どうじゃドワイト! 今の吾、格好いいじゃろうっ!』


 ディエラが上機嫌で話しかけてきた。

 頭痛を覚えた私は、側頭部を指で押さえる。

 何らかの精神攻撃を受けたわけではない。

 心理的な気苦労が原因だろう。


「……さすがだな」


『そうじゃろう、そうじゃろう! しかし、これはまだ序の口なのじゃ』


「何だと」


 私が怪訝に思っていると、彼方から魔力反応が高速接近してくる。

 空を掻っ切って飛来してきたのは、巨大な槍だった。

 ちょうどゴーレムに合わせた寸尺である。

 よく見ると、ディエラの鱗と甲殻が主材となっていた。


『うむ! しっかり届いたな!』


 ゴーレムが槍を掴み取り、慣れた調子で回転させた。

 穂先が飛行船を木っ端微塵にして、振り下ろしの一撃が海を叩き割る。

 巻き込まれた船が、海底へと引きずり込まれた。


 続けて金属製の筒が飛来すると、ゴーレムの前腕に装着した。

 ゴーレムが腕を突き出して構える。

 筒に魔力が集中し、光線に変換されて放たれた。


 軌道上の船が、一瞬にして消し炭となった。

 感知魔術よれば、目視できない遠距離まで蹂躙されているようだった。

 そこからゴーレムは、再び槍を一閃させる。

 光線を逃れた船を破壊し、飛行船を羽虫のように叩き落とす。


(無茶苦茶すぎる……)


 ゴーレムは圧倒的な暴力を披露していた。

 そこに遠慮や躊躇など存在しない。

 不条理の体現として、殺戮の嵐を生み出している。


 あのゴーレムは魔術ではない。

 槍を起点とした兵器のようだが、やはり見覚えが無かった。

 ディエラ一人では絶対に製造不可能だろう。

 誰かが全面的に協力したのだ。

 それも天才的な技術と発想を持つ者に限られる。

 該当者は、一人しかいない。


 相手を確信した私は、その人物と念話を繋げる。


「……聞こえているか」


『おお! 魔王様ではありませんか! 何かご用でしょうかっ!』


 嬉しそうな大声は、所長のものであった。

 さっそく私は彼女に質問をする。


「ディエラが見慣れない兵器で暴れている。お前が関与しているな?」


『はい! 少し前に相談を受けまして、こちらで特別に製造してみました!』


 所長はあっさりと認めると、自慢話のように説明を始める。


 私の推測通り、最初の槍が疑似ゴーレムの起点となっているらしい。

 あの槍は、奪い取った命――霊魂を材料に骨格を形成する機能があるそうだ。

 そこにディエラの能力で鱗と甲殻を継ぎ足して、兵器は完成するのだという。

 すなわちディエラ専用の決戦兵器であった。

 飛んできた武装にはディエラの魔力と鱗が仕込まれており、そのため遠方から引き寄せられるとのことだった。


『ディエラさんからは"とにかく浪漫を詰め込んでほしい"とご要望を受けたので、私も張り切っちゃいましたね!』


「そうか……」


 あの疑似ゴーレムには、幾多の高度な技術が贅沢に使われている。

 そんなものを開発する暇があるのかと思ったが、現在の所長は多重存在となっていた。

 資源も潤沢に用意された今、その気になればいくらでも可能だろう。


 ディエラの無双を眺めていると、遠くにいた大陸内の軍が引き返していくのを感知する。

 疑似ゴーレムを目撃して、巻き添えにならないように退避を選んだようだ。

 連合軍の迎撃も不要だと判断したらしい。


 私の元々の計画では、両軍の接触を妨害するのが主な流れだった。

 時間を稼いでいる間に、ルシアナの率いる部隊が連合軍の後方支援を麻痺させて、退路を断たれた連合軍を捕縛するという手筈だったのだ。

 随分と予定が変わってしまったが、このまま進めていくしかない。


 私は船で待機するドルダと念話を繋げた。


「この場は任せる。機を見て追撃を始めて、連合軍を追い返してほしい」


『柔な仕事だのう。欠伸が出そうだわい』


 正気を維持するドルダは、呑気な口調で応じる。

 海上の彼は無敵に近い。

 あとは一任しても問題ないだろう。


「非力なる人間と獣共よ、吾に恐れを為すがよい……ッ!」


 悦に浸る先代魔王の声を聞きながら、私は次の戦場へと転移した。

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