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第198話 賢者は先手を奪われる

 出撃準備が整ったところで、私は魔王軍を転送する。

 視界が切り替わり、訓練場から波打つ大海となった。

 船は一斉に着水する。

 念入りに確かめるも、誰も転落していないようだった。

 幾度もの転移を経験して慣れてきたのだろう。


 私はすぐさま防御魔術を発動した。

 魔王軍全体を包むように構築する。

 これで不意打ちに対応できるようになった。

 付近に敵はいないが念のためだ。


 ここは既に戦場である。

 どういった状況になってもおかしくない。

 最も大きな力を持つ私が、気を引き締めなければいけないだろう。


 続いて私は上空を陣取って、魔王軍を俯瞰する位置で止まった。

 視線をずらして、遥か先へと向ける。


 海を大量の船が進んでいた。

 見えている範囲だけでも相当な数だ。

 感知魔術によれば、視認できない距離を含めれば数倍まで膨らむだろう。

 あれらは連合軍の船である。

 いきなり戦闘になっては混乱するため、少し離れた地点に転移したが、その判断は正しかったようだ。


 船の頭上には、いくつもの飛行船が浮かんでいた。

 巨大な箱の上部に布が張られたような形状で、連合軍に加盟する一国が開発した乗り物だ。

 布を張ってはいるものの、大部分の浮力は魔術によって発生している。

 魔力を燃料に飛行しており、馬車を凌ぐ搭載量を誇る優れものだ。

 現在は兵士を運んでいるようである。


 密偵から話だけは聞いていたが、実際に目にすると壮観だった。

 魔王軍にも欲しいくらいだ。

 所長辺りなら、涎を垂らして内部構造を解析したがるだろう。


(……感心している場合ではないな)


 私は脱線しかけた思考を戻す。


 連合軍は、かなりの戦力を投入していた。

 しかもこれがすべてではない。

 あくまでも先遣隊のような位置付けに過ぎず、状況次第で増援を寄越すはずだ。


 大陸内の国々――特に海に面する国は軍を展開している。

 ここからでは確認できないが、もう少し先の海で待ち構えているようだった。


 しかし、彼らの戦力で連合軍に抵抗するのは厳しいだろう。

 多少の損害を強いることはできるものの、撃退まで持ち込むのは難しい。

 技術力で劣り、何より絶対的な数の差が存在する。

 大陸内の国々は、これを覆す術を持たない。


 両軍が衝突した場合、多大なる損害が生まれるのは必至だった。

 できればそうなる前に食い止めたいところである。

 人間同士の争いを激化させたくない。

 抑止するなら序盤が最適だろう。


 偽りの神を始めとする獣達は、人間の被害など度外視している。

 彼らは人類の味方という立ち位置につき、世界の意思から後押しされることだけが目的だった。

 戦力の損耗に配慮した戦法をとるとは考えにくい。

 むしろ私を抹殺するためなら、容赦なく捨て駒にするだろう。


『――うむ。我慢の限界じゃな。吾、行くぞ』


 何の前触れもなく、念話越しにディエラの呟きが聞こえてきた。

 私が応じる前に、船の一隻で爆発が起きる。

 凄まじい勢いでディエラが跳躍したのだ。

 飛行に近い状態で宙を突き抜ける彼女は、瞬く間に連合軍との距離を詰めていく。


(どういうことだ……?)


 突発的なディエラの奇行に困惑する。


 当初の予定だと、彼女が動くのはもう少し後の段階だった。

 損耗する連合軍への追撃役を任せるつもりだったのだ。

 それについては本人にも伝えてある。

 断じてこの局面で突貫しろとは言っていない。


 私はディエラに念話で話しかける。


「何をしているんだ」


『吾の見せ場を作るに決まっておろう! どうせ決戦はお主の出番なのじゃから、ここくらいは目立ってゆくぞっ!』


 気合の入ったディエラは、意味不明な返答を行う。

 直後、彼女は両手から光の鎖を投射した。

 降り注ぐ鎖の雨は、連合軍の船に突き刺さる。

 一部の船では防御を試みたようだが、まったく意味がない。

 光の鎖は、それらを貫通して船にめり込む。


『そぉれぃっ!』


 ディエラがかけ声と共に回転し、その動きで鎖を引き戻した。

 鎖は澄んだ音を鳴らして跳ね上がる。

 それに伴って響き渡る轟音。

 鎖の刺さった連合軍の船は、空中に投げ出されていた。

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