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第195話 賢者は獣の暴走に追われる

 数日後、他の大陸にて獣の活動が本格化した。

 さらに一部の個体は、私達のいる大陸にも侵攻し始めた。

 海棲生物を喰らいながら、港町を襲っているそうだ。


 今までは散発的で無秩序な動きだったが、現在は組織的な動きを感じさせる。

 ただ暴れているようで、各地の動きを辿ると一定の法則が見受けられた。

 個人主義の獣が団結した証拠である。

 魔王軍の戦力を知り、対策を練ってきたのだろう。

 グウェンの言った通りの展開であった。


 それぞれに別の目的を抱きながらも、獣達は私の捕食を第一に考えている。

 達成を目指す彼らは、一つの勢力として行動を始めたのだ。

 私を無力化するまでは協力するつもりなのだろう。


 大陸内は依然として混乱を来たしていた。

 ただし、獣による被害は少ない。

 錯綜する情報に惑わされているのだ。


 各国は対応を決めかねているようであった。

 ひとまずは静観の姿勢に徹して、国内に出没する獣の討伐に専念している。

 上層部は魔王の力を知っている。

 余計なことをしないのが一番だと理解していた。

 実に賢明な判断だった。


(安寧とは程遠いな……)


 私は報告書を読みながら頬杖をつく。

 いずれもたった数日で起きた出来事とは思えない。

 それだけ世界の流れが加速しているのだ。

 誰もが必死になっている。


 昨日は、小さな港町で英雄らしき人物が出現したらしい。

 獣の大群を相手に奮闘した末、戦死したそうだ。

 世界の意思が発動したようだが、力が及ばなかったのだろう。


 英雄も、常に勝利できるわけではない。

 無謀な進撃で命を落とすことも多々ある。

 対策を持たない常人が獣を倒せる時点で驚異的だが、殲滅できるほどの能力ではなかったようだ。


 魔王軍は、大陸各地で活動している。

 私が獣の居場所を暴いて、そこに派遣する形を執っていた。

 倒した個体は死者の谷に転送して糧としている。

 おかげで力が膨れ上がっており、魔力や瘴気の消耗は微塵もない。


 私は王都にて司令塔に徹していた。

 獣達の狙いが私である以上、動き回るべきではないと考えたのだ。


 代わりに魔王軍の武装には術を付与して、彼らだけで獣を殺せるように工夫してある。

 魔術を使える者には、専用の術を伝授した。

 今までに比べれば、遥かに討伐が楽になったはずだ。


 実際、魔王軍は各地で連勝していた。

 被害を微少に抑えつつ、目を見張るような戦果を重ねている。

 幹部からの報告を聞いても、危うい場面もなく戦えているようだった。

 端々の戦闘に関しては、彼らに任せられる体制が出来上がっていた。


 魔王軍の指揮をする一方で、私は感知魔術の範囲を世界全土に拡げていた。

 それによって潜伏する獣を洗い出している。

 範囲をここまで拡げるのは初めての試みなので苦戦気味だが、作業は着実に進んでいた。


 これですべての獣を暴き次第、私は動き出すつもりだ。

 短期決戦で殲滅して世界の平和を確固たるものとする。

 場合によっては、世界の外にいるであろう獣も倒そうと思っている。

 獣達が侵入できないように結界を張っておくのもいい。

 何にしろ、外世界の獣に関しては近日中に決着させる予定だった。


 しかし、騒動はこれだけに治まらない。

 外世界の獣が暴れる中、奇妙な出来事が起きたのだ。

 具体的には、大陸外のとある教団が神の降臨に成功した。

 教団の声明によれば、祈りが届いたのだという。


 これがただの噂なら妄言だと流すことができる。

 ところが神と称される存在は、人々を襲っていた獣を粉砕した。

 そこから国内の獣を一掃すると、高らかに宣言した。


 各地で猛威を振るうのは災厄の獣である。

 魔王が呼び出した眷属であり、使役する魔王を滅ぼせば鎮まる、と。


 いくつかの国は、この情報を受けて魔王討伐の計画を立案した。

 さっそく軍隊が海を越えようとしているという話もある。

 元より魔王を危険視し、同様の噂話が囁かれていたのも大きいだろう。

 神の声という後押しを受けて、人々は本腰を入れたのだ。


 今代魔王は世界の敵として認知され、全世界から狙われるようになった。 

 奇しくも私の望む構図であった。


「神、か……」


 私は呟く。

 すると、隣に特殊な気配が出現した。


「この世界には、神に類する管理者はいません」


 私は声の主を見る。

 そこに立つのは、ユゥラに憑依した大精霊だった。

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