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第194話 賢者は悪道を徹する

 私は所長に任せて研究所を退散する。

 去り際、グウェンが悲痛そうな声を上げていたが、生憎と私にできることは少ない。

 どうにか正気を保てるように祈るくらいだろう。

 大部分は所長の判断に任せるしかない。


 王城の謁見の間に戻った私は、玉座の隣に設けられた結晶に注目する。

 内部にはあの人の遺骨が浮かんでいた。

 そこに封じた時からずっと変わらない光景だ。

 私がどれだけの力を得ようと、決して蘇生させることができない。


 結晶には形見の剣が立てかけられていた。

 私は剣を無言で手に取る。

 手に馴染む感触があった。

 かつての勇者の愛剣で、現在では魔王の凶器だ。

 この剣は数々の魔族を打ち破った末、今では英雄を切り崩すための武器となった。


 しかし、いずれも世界平和のために使われてきた。

 そこだけは変わらない。

 あの人はもちろん、私自身も平和のために剣を取ったのだ。

 誓って嘘ではないと断言できる。


 此度もそうだ。

 少し事情が異なるものの、世界のために戦うのだ。

 相手が英雄から獣になっただけである。


(侵略戦争を始めた私が、外からの侵略者を屠るために立ち上がるとは……)


 現状の方針に苦笑したくなる。

 なんとも皮肉な構図だった。


 自らの正体についてよく分からなくなる時があるが、明確な答えが出ることはない。

 一つ確かなことは、私の取るべき行動だ。

 進む道は提示されている。

 あとはひたすら駆けていくのみだった。


 つい最近、私は思わぬ発見をした。

 それは精神世界で自壊したジョン・ドゥに関することだ。

 私は彼の記憶を取り込み、それを覗き込んだ。

 そこには私の知らない世界が広がっていた。


 世界に魔物や魔族はおらず、技術はこの世界よりも遥かに発展していた。

 加えて豊かな資源にも恵まれている。

 国によっては貧しいようだったが、それも他国の支援で改善できる程度だ。


 しかし、その世界では人間同士が醜い争いを繰り広げていた。

 互いの利権を巡って、延々と殺し合いをしているのだ。

 高い技術力を兵器開発に転用し、恐ろしい殺戮を展開していた。


 その事実を知った私は、改めて確信した。

 真の世界平和を実現するには、やはり巨悪が必要である、と。

 共通手の敵こそが、人々が手を取り合うための礎となるのだ。


 外世界の獣は、余計な混乱を招くばかりで目障りだった。

 即刻、消えてもらう必要がある。

 悪は私一人で足りているのだから。


 獣達は私のことを極上の餌だと思っているらしい。

 どちらが狩られる側なのか、教えてやらねばならない。

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