第192話 賢者は獣から情報を集める
「私の捕食だと……?」
グウェンの言葉は、到底聞き流せるものではなかった。
彼女は何と言ったのか。
聞き間違えたわけではあるまい。
グウェンは嬉しそうに何度も頷いていた。
「はい! 厳密にはそれぞれ別の目的があったりしますが、全員があなたを食べたがっているのは確かですよ」
「なぜ私を狙うんだ」
「どうしてだと思います? せっかくなので当ててみてくださいよ」
グウェンは唇に指を添える。
楽しそうに私の答えを待っていた。
私は提示された謎について考える。
獣の生態と私自身の特異性、今まで見聞きしたものを材料に考察を深めていった。
そして一つの答えに辿り着く。
「――瘴気か」
「大正解っ! さすがは賢者さんですねぇ。クイズもお得意でしたか」
グウェンは大袈裟に拍手をした。
彼女はけらけらと大笑いする。
ひとしきり笑った後、呼吸を整えたグウェンは説明を始めた。
「ご存知みたいですが、我々の力の源は暗黒物質――瘴気に酷似したエネルギーです。これを摂取することで生きています。ついでに私達についても詳しくお話ししましょうかね」
グウェンはあっさりと打ち明けると、さらに獣の概要について語る。
前提として、外世界の獣は空の向こう――宇宙と呼ばれる領域に棲む存在であった。
宇宙に漂う暗黒物質を摂取して生きている。
獣達は各地に攻撃して暮らしていたが、近年になって宇宙に異変が起きた。
慢性的な瘴気不足に陥ったのである。
獣達は途端に困窮した。
力の強い個体は死なないものの、徐々に弱っていく。
「暗黒物質の枯渇。この緊急事態を受けて、我々は解決策を模索しました。そして、一つの希望を見つけたのです」
「それが私というわけか」
そのような折、宇宙を探索していたグウェンは私を発見した。
潤沢な瘴気を有する私を喰らい、衰退した力を取り戻すことに決めたのだ。
その前準備として、他の獣達に私の情報を流布したらしい。
そこからこの世界への侵略が開始したのであった。
グウェン曰く、獣達は様々な目的を抱えている。
新たな住処の確保やさらなる力の渇望、苗床を集めたいという願望もあるらしい。
様々な動機はあれど、獣達の狙いは私だった。
それによって目的達成が容易になるのである。
グウェンもその一人だった。
彼女は精神汚染を施した者を王都に派遣し、私の力量を調べようとした。
あわよくば、そのまま捕食するつもりだったという。
「ハーヴェルトさん、あなたの瘴気は素晴らしいです。最高の品質でほぼ無尽蔵に湧き出てくるんですから。どれだけの金銀財宝でも、あなたの稀少性には敵わないでしょう。だからこそ……食欲を刺激される」
グウェンは、ぎらついた眼差しになる。
その姿が立体感を喪失しかけて、寸前で元に戻った。
私が力を剥奪されたことで発動を失敗したようだ。
グウェンはくしゃみをすると、鼻をすすりながら微笑する。
「まあそういうことですね。ご自身の価値について理解できましたか?」
「ああ、理解できた」
ようやく騒動の全容が見えてきた。
グウェンの情報提供は適切で、自ずと何をすべきかも分かる。
信用ならない獣を前に、私は解決の糸口を掴みかけていた。