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第186話 賢者は大精霊と共闘する

 私は大精霊に感謝の言葉を述べる。


「すまない。助かった」


「これも防御機構の務めです」


 大精霊は涼しい調子で応じた。


 彼女は世界を守る防御機構という存在である。

 普段は滅多に行動することがなが、絶大な力の持ち主だ。

 人類からすると半ば災厄に近い。

 私も、防御機構とは敵対しないように意識してきた。


 今回は外世界の獣が相手ということもあり、方針の一致から協力体制を構築できている。

 非常に心強い味方だった。


「…………」


 沈黙する大精霊は私を注視する。

 何かに気付いた様子だった。

 彼女は感心したように話を振る。


「獣達を倒して回っているのですね。こちらこそ感謝します」


「魔王の務めだ」


 私は同じ答えを返した。

 大精霊は、私の中に含まれる獣の瘴気を感知したのだろう。

 そこから私の行動を察したに違いない。


 獣の排除は、互いの目的である。

 大精霊は理外の戦闘能力を持つが、どれだけ強かろうと個人に過ぎない。

 討伐速度にも限界がある。

 だから私の助力は欲しかったものと思われた。


 大精霊はさらに指摘を続ける。


「精神に巣食っていた者も追い払ったようですね」


「ああ、難儀したが解決できた」


 私は幽閉されるグウェンを思い出しながら答える。

 後で説明するつもりだったが、大精霊は何も言わずとも把握しているようだ。

 説明の手間が省けてよかった。


 私は感知魔術を使って、獣の反応を探す。

 領内の個体数は随分と減っていた。

 一連の戦いで死んだようだ。

 私が巡った地点が激戦区で、そこを幹部達が食い止めていた形であった。

 反応から考えると、他の地点も滞りなく勝利しているらしい。

 日頃から開発していた兵器類が活躍したのだろう。


 他国に関しては、未だに侵略を受けている。

 特殊な生態を持つ獣に苦戦しているようだった。

 国が滅亡するほどではないようだが、相当な痛手と思われる。


「まだ獣は残っているようだ」


「それでも他の区域に比べると、圧倒的な討伐速度です。魔王軍による働きが大きいでしょう。彼らのおかげで、獣達が散開せずに済んでいました。人々の被害も微小です」


 大精霊は淡々と感想を述べる。

 それは意外な言葉だった。

 彼女がそのようなことを言うとは思わなかった。


 防御機構は、あくまでも世界の存続が目的だ。

 その中に人類の命は含まれていない。

 むしろ邪魔にすら思っている節すらあった。


 そのことについて言及すると、大精霊は意見を補足する。


「わたしも不必要に犠牲を増やしたいわけではありません。世界を守るのが第一ですが、余力次第で人々も救います」


「……そうか」


 私は相槌を打ちながら驚く。

 まさかそのような回答を返されるとは予想外である。


 出会った当初の大精霊は、怒りに任せて人々を殺戮していた。

 それを除くと、非人間的な印象を抱く言動が目立っていた。

 他者を救うという行動が、どうにも想像できない。

 色々と迷った末、私は大精霊に確認する。


「行動方針を変えたのか?」


「――気のせいでしょう」


 大精霊は、私の疑問を否定する。

 何か言いかけた気がした。

 しかし、あまり無遠慮に尋ねすぎると、機嫌を損ねる恐れがある。

 私はそれ以上は触れないことにした。

 彼女にも何らかの心境の変化があったのだろう。


「大陸内の獣を殲滅します。手伝っていただけますか」


「無論だ」


 大精霊の要請に私は即答する。

 ここで畳みかけるべきだろう。

 獣達の増援が来る可能性も否めない。

 次の展開のためにも、可能なうちに向こうの戦力を削っておきたかった。

 外世界の獣を捧げることで、私の力も増幅する。

 彼らの駆逐は良いことしかない。


「では、手分けして倒していきましょう」


 踵を返した大精霊は浮かび上がり、空の彼方へと飛んでいった。

 あっという間に姿が見えなくなる距離に消えてしまう。

 会話からは読み取れなかったが、相当に張り切っているようだ。


(あまり悠長にやっていると、後で小言を言われそうだ)


 それを危惧した私は、グロムとユゥラを置いて転移する。

 現在地から離れた地点の獣のもとへと赴く。


 その後、私と大精霊は各地の獣達を襲撃し、半日ほどをかけて大陸内の個体を駆逐した。

 特に危ない場面はなく、迅速に数を減らすことができた。

 仕上げに散開していた魔王軍を戦場から転送し、獣達の死骸を残らず回収して騒動は終結させる。

 こうして大陸には、束の間の平穏が訪れたのであった。

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