表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
185/288

第185話 賢者は大陸の平穏を求める

 私は領内でも辺境に位置する地域へと赴いた。

 剥き出しの大地を覆うように、焦げた物体が散乱している。

 円柱状のそれらは人間くらいの大きさで、両端が絞られたように細くなっていた。

 奇怪な物体には、一様に羽らしきものが生えている。


 どうやらそれは生物の焼死体らしい。

 辺りに転がる数は十万を下らない。

 そして死骸からは、瘴気の残滓が感じられた。

 どうやら外世界の獣のようだ。


(既に倒されていたのか)


 私は空を見上げる。

 遥か頭上にグロムとユゥラがいた。

 二人がこの戦場の担当である。

 察するに空中戦を繰り広げたのだろう。

 その条件を鑑みて、部下を引き連れずにやって来たものと思われる。


 判断については問題ない。

 飛行能力を持つ相手に飛べない味方を同行させれば、自然と足手まといになってしまう。

 機動力と殲滅力に優れた二人だけで対処にあたるのは適切な判断だろう。


 しかし、それより気になることがあった。

 私が注目するのは、彼らのそばだ。

 そこには大精霊が浮かんでいる。


 どうやら彼女も参戦していたらしい。

 まさか魔王軍と共闘するとは思わなかった。

 彼女の性格上、単独行動になると考えていたのである。

 謁見の間にいた段階では別の地点にいたので、私が他の戦場にいる間に登場したのだろう。


(さぞ一方的な戦いになったに違いない)


 戦力的に申し分ない面子だ。

 いくら外世界の獣とは言え、まともに太刀打ちできなかったろう。


 考察しながら三人を眺めていると、グロムが私に気付いた。

 彼は一直線に落下飛行してくる。


「魔王様ァッ!」


 叫ぶグロムが地面に衝突した。

 地面が抉れて土煙が舞い上がる。

 グロムはよろめきながら立ち上がって、穴から這い上がってきた。

 そして私を見ると、膝から崩れ落ちる。


「ご、ごごご無事で何よりでございます……ぅッ!」


 グロムは声を震わせて号泣する。

 眼窩から涙が溢れ出していた。

 骨の身体で泣くことができる原理は不明だが、グロムなので違和感はない。

 彼ならば、そういった反応をしてもおかしくない印象があった。


 私はグロムの全身を見やる。

 細かな損傷が残っていた。

 獣達との戦いで付いたものだろう。


「怪我をしているな。すぐに治そう」


「いやいや! この程度の負傷など、何の問題もありませぬぞ! 魔王様のお手を煩わせるほどではございません」


 グロムは激しく首を振る。

 私を気遣って遠慮しているようだ。


 その時、ユゥラが目の前に着地した。

 彼女は私を目にして発言する。


「マスターの状態を確認――異常なし。帰還を嬉しく思います」


 容姿や声音から感情が読みにくいユゥラだが、素直に喜んでいる様子だった。

 私は二人に頭を下げる。


「苦労をかけたな。感謝する」


「何をおっしゃいますやら! 魔王様の手先として戦うことなど、我々にとっては至極当然のことですぞ」


 グロムは誇らしげに言ってみせた。

 ユゥラは同意するように頷くも、直後に新たな事実を付け加える。


「マスターに報告――個体名グロムはマスターの不在を悲しむあまり、一人だけ出撃が遅れていました。個体名ルシアナに叱咤されることでようやく――」


「ユ、ユゥラ! それ以上は言うなッ! 守秘事項と念押ししたであろう!」


 焦るグロムは、慌ててユゥラの口を塞ごうとした。

 しかし、ユゥラは迫る腕をすり抜けて距離を取る。

 そこから彼女は、冷淡な調子で述べた。


「個体名グロムに反論――報告対象はマスターです。あなたはマスターに隠し事をしろと言うのですか」


「ぐ、ぐぬぬ……」


 グロムは悔しげに呻くばかりだった。

 返す言葉がないようだ。

 私個人としては些事に過ぎないのだが、なかなかに熾烈な言い争いである。

 口を挟めずに見守っていると、背後に大精霊が降り立った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ