表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/288

第174話 賢者は魔王の本領を見せる

 眼下の砂漠では、ジョンとバルクが復活していた。

 彼らは最寄りの戦車に乗り込もうとしている。

 その間に他の兵器群が稼働し、私に向けて一斉砲撃を開始した。


(見飽きたやり方だ)


 私は冷徹に評する。

 そして迫る砲撃の雨を、空間魔術の穴で吸引した。

 出口はジョンとバルクの頭上だ。

 圧倒的な大火力は、そのまま彼らへと襲いかかる。


 空間を飛び越えた砲撃の連打により、砂漠が大爆発を起こした。

 炸裂地点に大きな穴が開いて、中心にいたジョンとバルクと戦車は跡形もなく消失している。


 今のは、かつて戦った亜神の技だ。

 それを模倣及び改良した術である。

 時間差を生まずに防御と反撃ができるので、非常に使い勝手が良い。


 少し離れた場所に現れたジョンとバルクは、小型の船に乗り込んで発進した。

 私から離れるような方角だ。

 目視可能な間合いは危険だと判断したらしい。

 直前の空間魔術で痛感したのだろう。


 今までは防御魔術や魔力剣による対処がほとんどで、反則じみた術は使わないように意識してきた。

 そうして彼らが焦り始めたところに、空間魔術による絶対的な反撃を繰り出した。

 精神的な衝撃は大きいだろう。

 実際に戦意を削ぎ、消極的な立ち回りを選ばせるだけの効果が出ている。

 ここまで温存してきた甲斐があったようだ。


(畳みかける好機だな)


 そう判断した私は、ジョン達を追跡しようとする。

 しかし、無人の兵器が行く手に立ちはだかり、砲身を旋回させて攻撃を浴びせてきた。

 私は魔力剣を握ると、あの人の剣技を以て、砲撃を残らず斬り伏せていく。


 多種多様な異世界の兵器は、いずれも私を殺して余りあるほどの威力を秘めている。

 こうして長時間に渡って戦うことで、その文明度を朧げながらも理解できた。


 異世界は、この世界よりも遥かに発展しているのだろう。

 どれだけ非力な人間でも、兵器の扱い方さえ分かれば強大な力を振るえる。

 しかし、圧倒的な個人の前では、それも無意味に等しい。


 兵器など所詮は鋼鉄の玩具だ。

 設計以上の性能は出せず、そこが限界である。

 成長の余地が残されていない。

 改良すればその限りではないものの、成長とは少し違うだろう。


 対して人間とは、時に信じ難い力を発揮する。

 窮地すら成長の糧にして、常識を覆してみせるのだ。

 その底力を私は何度も味わってきた。

 英雄とは、まさに人間の可能性の象徴であった。


(彼らも限界を感じ始めているだろう)


 私は転移してジョンとバルクの前方に出現する。

 彼らは船の進路をずらして、私を避けようとしていた。

 やはり魔術による迎撃を恐れている。

 命惜しさではない。

 突貫したところで無駄だと悟っているからだ。


(だが逃がさない)


 私は砂漠から蔦を解き放ち、船に絡ませて妨害する。

 船は半ば砂中に引きずり込む形となった。

 これで動かすことはできない。

 進退窮まる中、ジョンがこちらに向けて叫ぶ。


「魔王ッ! オレ達はあんたを殺して現実世界へ行くぜ! そして世界を滅ぼしてやる! 崇高な目的なんてない。ただの嫌がらせさっ!」


 私はジョンの目に明確な悪意を察知する。

 以前のように、何かを背負って戦う者の眼差しではない。

 ただの一つの誇りも無く、私怨だけを募らせていた。


「挑発ではなく本気だよ。ドワイト、貴様の甘さで世界が滅びるのだ……!」


 バルクも続けて私を挑発する。

 似た境遇に陥った彼らは意気投合しているようだ。

 私という共通の敵を見つけて、心が通じ合うようになったらしい。

 皮肉にもそれは、私が世界に求める姿であった。

 彼らはそれを体現している。


 間もなく兵器群が、こちらに向けて砲撃を行った。

 軌道上には、ジョンとバルクもいる。

 彼らは自分達もろとも私を吹き飛ばすつもりらしい。

 相変わらずの捨て身戦法だった。


 迫る砲撃には、当然のように呪術が仕込まれている。

 直撃すれば只では済まない。

 私の意識は、二度と現実世界に戻ることはないだろう。


 それを確信しながらも、私は冷静に魔術を行使する。

 砂を汲み上げて山のように巨大なゴーレムを造ると、その身で砲撃を受け止めさせた。

 絶え間ない爆発音の連鎖に合わせて、ゴーレムが端から呪詛に侵蝕されていく。

 やがて崩壊するも、砲撃が私まで届くことはなく、巻き添えを受けたジョンとバルクだけが死亡していた。


「ここが絶好の機会だな」


 私はさらに禁呪を発動して、周囲一帯の重力を反転させる。

 居並ぶ兵器群が、砂と共に浮かび上がった。

 そのまま上空で渦巻くように回転する。


 兵器群は慌てたように砲撃を開始した。

 放たれた砲弾はしかし、強烈な重力を受けて空中で停止する。

 それ以上は進むことなく、炸裂もせずに浮遊し続けた。


 砂漠上に新たに兵器が生み出されるが、抵抗できずに浮かび上がるだけだった。

 異世界の兵器でも、私の禁呪に逆らうことはできない。

 問答無用で空に送られていくのみであった。


 夜空が兵器で埋め尽くされたところで、私は重力を一点に集中させる。

 そこはちょうど月と重なる位置だった。

 兵器群は衝突しながら寄せ集まり、軋みながら圧縮されていく。

 重力に従って、その堅牢な外装が潰れていった。

 爆発を起こしながらも一つになり、ついには砂と鉄で構成された球体が出来上がる。


(壮観だな。上手くできたものだ)


 球体を眺める私は、そこに魔力の瞬きを感じた。

 直後、発砲音と共に重力を無視して弾が飛んでくる。

 私は魔力剣を振るって弾を切断した。

 二つに分断された弾は、足元の砂に刺さる。


 ジョンとバルクは、球体の表面にいた。

 重力に引かれながらも、潰れないようにやり過ごしたらしい。


 私は彼らだけを結界に隔離し、重力の及ばない地帯に転送する。

 あの結界は、精神体の幽閉にも対応している。

 たとえ自殺したとしても、脱出は叶わない。


 結界術は、この戦闘中に編み出したものだった。

 彼らの精神に合わせて調整したので、内側からでは絶対に破れない。

 戦いながら考えるのは大変だが、なんとか成立させることができた。


「これで仕上げだ」


 私は結界内に風の刃を発生させて、ジョンとバルクを肉片になるまで切り刻む。

 続けて高熱で焼き尽くして肉体を壊した。

 さらに結界を縮小させて、最終的に手のひらに載るほどの大きさにする。


 これで復活は阻止した。

 二人は精神だけとなって閉じ込められている状態となった。

 蘇ることができない以上、私に危害も加えられない。


 彼らは一連の戦闘で手札を出し尽くしていた。

 奥の手がないのは知っている。

 兵器や呪術では、あの状況は打破できない。

 それなりに手間と時間がかかってしまったが、成功したのだから良いだろう。


 ジョンとバルクの能力は、単純だが規格外なほどに強力である。

 世界中を見渡しても、拮抗できる軍隊は皆無だ。

 魔王軍の者でも勝利を掴むのは難しい。


 しかし、所詮はそれだけだった。

 二人を上回る暴力で叩きのめせばいい。

 この長い戦闘の中で、一度も私を殺せていない時点で勝敗は決したようなものであった。


 結界を砂漠に置いた私は、グウェンのもとへと向かう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ