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第173話 賢者は反撃に転じる

 砂漠を進む鋼鉄の船が砲撃を放つ。

 高速で迫る砲弾に対し、飛行する私は身を捻って躱した。

 しかし、砲弾は背後で急旋回すると、私を狙って舞い戻ってくる。

 黒い靄が漏れていることから、呪術も仕込まれている様子だ。


 私は空中で跳ね上がるようにして宙返りして、さらに砲弾を回避した。

 そこに禁呪を打ち込み、砲弾を黒い氷で包み込む。

 機能不全を起こした砲弾は落下し、ちょうど真下にあった戦車に直撃して大爆発を起こした。


(追尾式は厄介だ……)


 炎上する戦車を見下ろしていると、横から殺気を感じた。

 鋼鉄の鳥が突進してくるところだった。

 ジョンの自慢話によると、戦闘機と呼ばれる兵器らしい。

 内部にはジョンとバルクが乗っている。

 操縦席に座る彼らは、爛々とした眼差しを向けてくる。


 戦闘機に搭載された鉄砲が火を噴いた。

 私は魔力剣で弾を弾いていく。

 魔力剣は瞬時に破壊されるも、何度でも生成するので問題ない。

 弾も十分に見切れる速度だった。


 発砲を止めた戦闘機は、そのまま突進してくる。

 止まる気配はない。

 速度に任せて衝突するつもりなのだろう。


 私は潜り込むようにして戦闘機を躱して、その底部を魔力剣で両断していった。

 通り抜けていった戦闘機は、黒煙を発しながら墜落して、空中で大破する。

 爆炎が噴き上がって砂漠へと落ちた。

 本来なら二人とも即死するところだが、すぐに付近で蘇るはずだ。

 もはや見慣れた光景なので確信している。


 戦闘が始まってから半日以上が経過した。

 私達は未だに殺し合っている。


 ジョンとバルクは何百回と死んだが、彼らは平然と復活してきた。

 そして、飽きもせずに私に突貫してくる。


 対する私は、一度も死んでいない。

 グウェンが途中で忠告してきたのだが、彼らと違って私は復活できないらしい。

 もちろん彼女の言うことなので信用できない部分があるも、おそらく本当なのだろう。

 それくらいは感覚でなんとなく分かる。


 ここは精神世界という特殊空間だ。

 自由に出入りできるグウェンや、現実の身体を持たないジョン達と異なり、私にはある程度の制約がかかってしまうのだろう。

 それこそ、現実の肉体を破壊しなければ侵入できないほどである。

 状況的な不利は否めない。


 とにかく、死ぬべきでないのは確かだった。

 だから私は、細心の注意を払って戦っている。

 おかげで窮地に追いやられることはなかった。


(ジョンとバルクの戦法は概ね把握できた)


 彼らは死を恐れずに大火力で攻撃してくる。

 捨て身で攻め続けることで、私の疲労や魔力切れを狙っているのだろう。

 非常に有効かつ堅実な策である。


 しかし、今回に限ってはその戦法に意味はない。

 彼らは私の魔王としての能力を見誤っている。


 私は死者の谷から永続的に魔力や瘴気を供給されている。

 それは精神世界でも有効であり、ほぼ無尽蔵に強力な術を放つことができる。

 つまり疲労や魔力切れは存在しないのだ。


 常に用心しておけば、彼らの攻撃で死ぬことはない。

 何度か奥の手らしき策を使われたが、いずれも対処できていた。

 手の内さえ分かれば、あとは堅実に応じるだけだ。

 戦況はこちらが優勢となりつつある。


 一方、ジョンとバルクは、明確に焦りを見せ始めていた。

 少し前から戦い方が大雑把になり、攻撃も単調になりがちだった。

 彼らも形勢の悪さを察しているらしい。


 グウェンも怪訝そうな顔で戦いの流れを観戦していた。

 見るからに不機嫌そうだが、私の視線に気付くと、わざとらしい笑顔を向けてくる。

 彼女は何かを隠しているようだ。

 その内容が気になるが、今は接触が難しい。

 ジョンとバルクの妨害がある間は、手出しすべきではないだろう。


 グウェンも今のところは参戦する気がない。

 三人が一斉に仕掛けてくると、さらに厄介なことになる。

 現状は私にとっても好都合だった。


(しかし、そろそろ仕掛けたいな)


 空中に立つ私は、兵器群の攻撃を弾きながら考える。

 ジョンとバルクの注意力が散漫となり、立ち回りも雑になってきた。

 グウェンも退屈しており、援護する様子はない。


 たとえ不死身だろうと、いくらでも手立てはある。

 魔王討伐の旅で、そういった敵との戦いを何度も経験してきた。

 彼らの戦法や戦いの癖を理解したことで、失敗する恐れも非常に少ない。

 この面倒な状況を覆すには、ちょうどいい頃合いだろう。

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