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第143話 賢者は戦乙女の底力を見る

 戦乙女が槍を振るうと、ゴーレムの首が断たれた。

 その際、小さな火花のような光が発生する。

 槍からゴーレムへと魔力が流れ込み、術式を阻害したのだ。


 それは一瞬の妨害に過ぎない。

 しかしゴーレムが形を維持できなくなり、崩れてしまうには十分な時間であった。

 槍を受けたゴーレムは、手先からただの土へと戻っていく。


「やあッ!」


 戦乙女の槍が翻り、死角にいたゴーレムの胸部を貫通した。

 またしても火花が迸り、ゴーレムは倒れて崩壊する。

 術式の再構成を試みるも、戦乙女の魔力に阻まれて失敗してしまった。


(妙な反応だ。これも英雄としての特性なのか?)


 戦乙女の持つ魔力だが、常人と少し異なっている。

 単純な質と量は大したものではない。

 その性質だけが少しだけが変わっており、魔術干渉に対する抵抗力が強かった。

 鎮魂の力が私に作用するのも、この辺りが起因しているものと思われる。

 特殊能力と評するほど尖ったものではないが、魔術を多用する私からすると厄介だった。


 とにかく戦い方は考えた方がいい。

 あまり策を弄すると、却って追い込まれる恐れがあった。

 相手の強みを使わせない流れに持ち込まなければ。


 残り僅かなゴーレムを見て、私は魔術を行使する。

 周囲一帯の地面が蠢き、土のゴーレムへと変貌していく。

 三十体ほど生成したところで、戦乙女に襲いかからせた。


 先ほどからこの繰り返しだった。

 絶え間ないゴーレムの攻撃に、戦乙女は奮闘している。

 彼女は見事な槍術の使い手だった。


 ゴーレムに魔力を流し込む技も一級品である。

 あれは厳密な分類では魔術ではない。

 しかし術式阻害の効果は、下手な魔術より優秀だった。

 たとえ鎮魂の力を抜きに評価しても、戦乙女は英雄に足る実力者である。


 一方で彼女の率いる部下達は全滅していた。

 ゴーレムの猛攻によって死んだのだ。

 ほぼ無限に生成されるゴーレムを前に、一人ずつ撲殺されていった。


 陰湿だが確実なやり方と言えよう。

 私は少し離れてゴーレムを生み出し続けるだけでいい。

 彼らはゴーレムの対応に気を取られて、私に反撃する余裕などなかった。


 そうして残るは戦乙女のみとなった。

 ただ、さすがに彼女は容易には斃れない。

 四方八方から迫るゴーレムに対し、今も互角以上の戦いを展開していた。

 体力消耗を念頭に置いた持久戦を狙っていたのだが、戦乙女の攻撃は激しさを増す一方である。


 目にも留まらぬ速さで槍が閃き、ゴーレムを的確に破壊する。

 圧巻の槍捌きは、間違いなく一級の腕だろう。

 同じ槍使いであるディエラと比較しても遜色ないほどだ。

 つまりは世界最高峰の技量と言える。


(槍術の達人とは聞いていたが、まさかこれほどとは……)


 報告では聞いていたが、実際に目撃すると覇気が違う。

 加えて彼女は盲目であった。

 他の感覚を研ぎ澄ませて戦っている。


 一体、どれほどの修練を積み重ねれば、その領域に達せるのか。

 儀式魔術は、確かに彼女を英雄として昇華させた。

 しかし、地力がなければ、このような力には至らなかったろう。


 現在の私の能力は、ほとんどが借り物である。

 私自身の努力で得た部分など、ほんの一部に過ぎない。

 故に戦乙女の強さに眩しさを覚えてしまう。

 自然と後ろめたい気持ちになる。


 もっとも、それで魔術操作に狂いが生じることはない。

 思考の大半は、戦乙女の観察に割いていた。

 大量のゴーレムを犠牲に、彼女の戦法や癖を学習していく。

 ついでに手の内を暴いておきたかった。


 最も警戒すべき展開は、未知の能力で致命傷を受けることだ。

 戦乙女は覚醒した英雄である。

 鎮魂の他にも、何か秘策があるかもしれない。

 こうしてゴーレムで追い詰めることにより、危険を冒さずに能力を披露させるのが先決だった。


(……そろそろ仕掛けるか)


 折を見て、私はおもむろに腕を上げると、そこから一筋の光線を放った。

 戦乙女はゴーレムを刺し穿つところだった。

 攻撃の瞬間をわざと狙ったのである。


「うっ……!?」


 戦乙女の回避行動が僅かに遅れる。

 光線が彼女の肩を掠め、その箇所を焼いた。

 撥ねる血飛沫。

 戦乙女は槍を落としそうになるも、なんとか耐えて後退する。

 彼女はゴーレムを蹴散らしながら距離を取った。


 私はそこへ光線を連射していく。

 戦乙女はそれを槍に絡めて受け流した。

 超絶的な技巧だ。

 普通なら命中して終わりだろう。

 彼女は魔術的な手段を用いずに対応できている。


 戦乙女は紛れもなく傑物だろう。

 殺すのが惜しいくらいである。

 無論、手を抜ける相手ではない。

 そういった油断や慢心こそ、自らの死を招く。

 最後まで確実な手段を採り続けるのだ。


 片手で光線を使いつつ、私はゴーレムを大量に発生させた。

 今度は一気に五十体である。

 それらを戦乙女に殺到させていった。


「――ほう」


 戦乙女の持つ槍の動きが露骨に加速した。

 限界を超えた連撃により、圧倒的な密度のゴーレムを打ち崩していく。


 私はそれを見ながら光線を撃った。

 ゴーレムに当たろうが気にせず、ひたすら戦乙女の命を狙って発射する。


 ゴーレムを倒す戦乙女は、一連の動きの中で光線を受け流していた。

 途中、専用機の反応が鈍くなる。

 どうやら鎮魂の力が強まったようだった。

 戦乙女は土壇場で底力を発揮している。


(悪足掻きを……)


 私は専用機の出力を上げることで対処する。

 機体に多大な負担がかかるが、そのようなことは気にしていられない。

 戦いは佳境に達している。

 出し惜しみはできなかった。


 過負荷によって損傷しながらも、専用機は光線を放ち続ける。

 戦乙女は一本の槍だけでひたすら凌ぐ。

 幾多もの攻防の末、ついには戦乙女の片脚を捉えた。

 さらに彼女の腹を貫通して風穴を開ける。


「……ッ!」


 仰け反った戦乙女の喉を、追撃の光線が貫いた。

 彼女はぱくぱくと口を開閉すると、大きくよろめいた。

 槍を杖代わりにしようとして間に合わず、前のめりに倒れていく。


(これで終わりか……)


 私は戦乙女の最期を見届けようとして、驚愕する。

 地面に衝突する寸前、彼女はいきなり片脚を踏み出した。

 光線で穴の開いた片脚だ。

 そこから地面を蹴ると、前傾姿勢で疾走してくる。


 虚を突く加速だった。

 すぐさま光線を飛ばすも、狙いがずれて戦乙女のそばを通過する。


「マ、オウ……ッ!」


 血反吐と共に掠れた声が発せられる。

 瞬間的に間合いを詰めた戦乙女は、私に向けて槍を突き放ってきた。

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