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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第五章

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第124話 賢者は先代魔王に誘われる

 およそ七十日後、共和国の全土が人間に奪還された。

 魔王領は以前と同じ大きさに戻り、周辺諸国は活気付いて勝利を喜んでいる。


 英雄の出現も大きいだろう。

 戦乙女と鋼騎士は、数々の戦場にて奮闘していた。

 聞いた話によれば一騎当千の活躍だったらしい。


 目に見える希望という存在は大きい。

 人々はこれを歓迎している。

 この流れが影響したのか、魔王が死んでいるという噂まで出ているそうだ。

 私が戦場に姿を見せないためだろう。


 これにはグロムが激怒した。

 私を侮辱されたのだと思ったらしい。

 あながち間違いではないので否定もできない。


 一時期、彼は噂の発端である国を滅ぼそうとしていた。

 それを止めるように言い聞かせるのが大変だった。


 グロムが本気になると、どの国も敵わない。

 圧倒的な力の前には、ただ死を待つのみとなる。


 人々はようやく希望を得たのだ。

 それを早々に摘み取ってしまうのは悪手であった。

 望ましいやり方ではない。


 彼らも都合のいい解釈に縋りたいのだ。

 そうでもしなければ、精神的に疲弊してしまう。

 魔王がアンデッドを使って世界を破壊する現実など、あまり受け入れたいものではない。

 元凶が死んだという噂も信じたくもなる。

 十年前、私はそういった世界を見てきた。


 此度の奪還劇だが、魔王領にとっても良いこと尽くめだった。

 そもそもが計画的な敗北である。

 支配地の縮小に伴って、監視範囲が狭くなった。

 おかげで領内の管理が容易となっている。


 共和国を丸ごと占領している状態は、明らかに過剰だった。

 状況的に仕方なかったとはいえ、こちら側の被る不利益が多かったのだ。


 余計な支配地を手放したことで、現在の魔王領は安定感を取り戻した。

 各地で独立を目論む動きが散発しているようだが、ルシアナ率いるサキュバスが暗躍することで、必要最低限の被害に抑え込んでいる。

 具体的には有力者を魅了し、魔王軍に逆らわないように暗示を施した。

 完全な傀儡にするわけではなく、あくまでも意識を少し変える程度だ。

 それでも効果は抜群だろう。


 加えていくつかの都市にアンデッドを送り込むと、暴動に発展するようなことはなくなった。

 アンデッドを始末した人々は、途端に大人しくなってしまった。

 脅威と対面したことで冷静になり、こちらの忠告が通じたようだ。


 領内の人々は、魔王軍の恐ろしさを再認識した。

 これは良いことである。

 あまり舐められると、愚かな行動に出る者が増えてしまう。

 たまには軽い忠告をすべきだろう。

 多少の騒ぎはあれど、魔王領は問題なく運営できていた。


 一方で奪還された共和国は、領土を分割された。

 此度の戦いに参加した国々が、それぞれ管理することになったそうだ。

 その分配で揉めるかと思いきや、大きな議論もなく決定したらしい。


 ただし、魔王領に接する地域に関しては、どこの国も保有を嫌がったという。

 いつ私に報復されるか分からないためだ。

 そのような危険地帯に、貴重な戦力は置きたくないらしい。


 結局、名目上は聖杖国のものになったそうだ。

 実際は軍を引き下げており、半ば放置されている。

 不安に駆られた人々は、その地域から離れて難民と化していた。


 別件だが、旧魔族領の北部がいつの間にか他国に占領されたらしい。

 聖杖国と魔巧国の共有領土となったという。

 奪還戦の最中に侵攻していたそうだ。

 共和国の領土が地続きになるようにしたかったのだろう。


 あそこは何もない荒野だが、戦略的には重要な位置である。

 二国としては、是非とも確保したかったに違いない。


 そんな旧魔族領の主であるディエラは、特に気にしていなかった。

 報復や制裁は考えていないそうだ。

 彼女としては住まいを邪魔されなければ構わないのである。

 領地の端を削られたところで、痛くも痒くもない。


 実際、ディエラは旧魔族領の土地をほとんど活用していなかった。

 彼女は未だに自宅を持たない。

 一度は建築を試みたが、雨風を受けて三日と経たずに倒壊したらしい。

 その日は魔王城でふて寝していたので印象に残っている。


 以来、彼女は荒野に残る廃墟で寝泊まりを続けていた。

 そして頻繁に魔王領を訪れている。

 別にこちらで暮らせばいいと思うのだが、ディエラはそれをしない。


 それとなく勧めたことはあるものの、彼女はいずれも固辞した。

 彼女曰く、誰かに依存する生活が嫌らしい。

 その辺りは先代魔王なりの意地だろうか。

 今の時点でかなり依存されている気がするも、彼女には彼女の判断基準があるに違いない。

 そこに触れるのはやめておいた。


 ディエラの件はともかく、各国の動きは私の思惑通りのものだった。

 損耗を抑えながら、魔王軍は今後に備えた立ち回りを完遂できている。

 一波乱乗り越えたと評してもいいだろう。


 王都に暮らす人々は、連敗の報を聞いて不安に思っているそうだが、それも軽微な規模だ。

 奪還戦を除けば、魔王軍は勝ち続けている。

 これまでの経歴も知られており、私の滅びを心配する者はいない。

 今代魔王に足るだけの実績を築くことができているようだ。


 そんなある日、私は朝から書庫にいた。

 事務作業もようやく落ち着き、気晴らしに読書でもしようかと思ったのである。

 たまにはこういう日があってもいいだろう。

 息抜きは重要な行為だ。


 書物を手に取りながら室内を巡回していると、入口で扉の開く音がした。

 このような時間帯に珍しい。

 入室できる者は限られているのだが、一体誰だろうか。


 足を止めて待っていると、二人の来訪者が姿を見せる。

 それはディエラとグロムだった。

 あまり見かけない組み合わせである。

 やり取りは見かけるが、共に行動することは滅多にないはずだ。


 我が物顔で闊歩するディエラは、親しげな調子で私に挨拶してきた。


「ドワイトよ、吾が来たぞ」


「そうか」


「魔王様、申し訳ありません。わたくしが止めたのですが、どうしても言うことを聞かず……」


 グロムが腰を低くして謝罪する。

 きっと何度も制止したに違いない。


 気の毒に思った私は、グロムを擁護する言葉をかける。


「気にするな。ディエラが相手なら仕方ない」


「吾なら仕方ないとは、どういうことじゃっ」


 ディエラは不満だと言わんばかりに拳を突き上げた。

 そこへグロムが大股で詰め寄る。

 彼は片目の炎を揺らしながら告げた。


「先代よ。貴様の残念な言動の数々に、魔王様は呆れておられるのだ」


「ぬぅ、はっきりと言うではないか……」


「ここは書庫だ。口喧嘩ならよそでやってくれ」


 私は険悪な両者に釘を刺す。

 争いが起きると、被害を受けるのは書庫だ。

 せっかくの書物を燃やされては敵わない。

 二人が動きを止めたところで、私はディエラに尋ねる。


「私のもとを訪れたということは、何か用事があるのではないか?」


「そうじゃ、すっかり忘れておった」


 ディエラは笑みを深める。

 その表情を見て、なんとなく嫌な予感がした。

 彼女は、私を指差しながら高々と宣言する。


「今宵は幹部連中で宴をするぞ。お主も強制参加じゃ」

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