第9話
「ーーー先日、行方不明となった笹本佐々ちゃんの件ですが、未だ進展なくここ最近行方不明になった園崎きなーーー」
そこまで聞こえて来た無感情なニュースキャスターの言葉を、テレビの電源を落とすと言う行動で幸は聞こえないようにした。
先日笹本佐々という少女が行方不明になったらしいが、 こちらはある少女が死んだことを知っている。アーチャー。魔法少女の一人だ。
もしかしたら、佐々とアーチャーは同一人物かもしれない。けれど、そんなことはあり得ない。きっとこれはたまたまだ。聞くところによると笹本家は資産家であり、そんな一家の娘とすると行方不明になってもおかしくはない。 そう。だからきっと、あの子だってまだ生きている。少なくとも、幸はあの子に会いに行くことができるのだ。
その為には勝ち残らないといけない。あの、ふざけたゲームに。震える体を無理やり押さえ込みながら、幸は深く息を吐く。
その時メールが届いた。びくりと体を震わせて、ゆっくりとスマホを確認するとそこに鈴鹿から、渡したいものがあるからアンダーワールドに来て欲しいという内容だった。
なんでリアルで渡さないのかと疑問に思いつつも、幸はアプリをタップする。怖くないといえば嘘になる。けれど、それを乗り越えないといけない。そのことを自分に言い聞かせながら。
◇◇◇◇◇
【ーーー魔法少女システム『ガンナー』起動しますーーー】
◇◇◇◇◇
ガードナーは何も言わずに姿を消した。急いで追いかけたがもうすでに出て行ったあとだった。
そんな後に届いたメール。アーチャーが死ぬ前に話していた内容を考えて、ガンナーは嫌な予感しかしない。けれど無視なんてできない。
「僕も甘くなったのかなぁ……でも、ほっとけないからね」
ガンナーは 自分のことを笑いながら歩く。歩きながら、頭の中に浮かべる顔は、ガードナーと願いを叶えて会いたい相手。
そういえばガードナーの願いはもう叶っていると言っていた。野次馬根性で少し気になっているガンナーは今日聞いてみようかと考えていた。
そんなことを考えていたら、漸く目的地に着いた。 いつもの広場。もう、いつものメンバーは集まらないということを考えると、心がキュッと閉まる感覚に襲われる。
思い出していく過去の記憶。シンガーが来る前は、皆仲良くとまでは言わないが、平和に暮らしていた。
「……シンガーのせいにしちゃいけないか……」
「シンガーくんがどうしたのだ?」
「……あ、ガードナー」
後ろから近づいてきた少女。ガードナーに対してガンナーは軽く手を挙げて挨拶をする。見た感じ、彼女の目は少しだけ暗いように見えるがそれ以外は特に変化はなくて、ガンナーは心の中で安心したように息を吐く。
「で、話ってなにさ?まさかまだ、殺し合いをしないって 言うわけじゃないよね?」
「まさか。その逆さ……流れた川を止めるために、元を断つ。私は戦うぞ」
ガードナーはそう言うが、その言葉にガンナーはどこか引っかかりを感じていた。ガンナー自身、言葉の重みはあまりないと思っていたが、1日で変わるものなのだろうか。
けれど、ガードナーはもう 決めてしまっているようで、なにをいっても聞いてくれない。そんな空気があった。
「んじゃ……どうするの?」
「簡単だ。ブレイカーを殺す。それだけだ」
そう言ってガードナーはニッコリとガンナーに向かって笑う。その笑顔を見て、ガンナーは身体中に寒気が走る感覚を覚えていた。
しかし。彼女を否定するわけにはいかない。この先何が起きても彼女の選択はきっと、大丈夫な筈だとガンナーは信じていた。
「……っ!ガードナー、危ないっ!」
そう言ってガンナーはガードナーの頭を掴んで一緒に地面に倒れこむ。そんな彼女たちの頭上を矢が一本飛んできた。それは一瞬にして飛んでいき、 もし直撃したら……そう考えると、ゾッとする。
「アーチャー……いや。そんなわけないっ!誰だ!!」
その声に反応するように、一人の少女がそこに立っていた。そこにいたのは黒いフードを被って、片手に槍を持っていた。
「槍……ガンナー。あれはもしや……」
「うん。おそらくランサー を殺した魔法少女……ブレイカーか?でも……彼女は……」
「誰でもいい……一度倒してからあのふざけたフードを剥ぎ取るっ。それでいい!」
ガードナーはその声とともに、槍の少女との間に大きな透明の壁のようなものが迫り上がる。槍の少女はそれを見て、少しだけ後ろに下がる。
「壁があるから、 攻撃が飛んでこないと思った?ざーんねん!【オールレンジショット】!!」
ガンナーがそう叫んだ瞬間、10発の弾丸を放つ。それは、壁を避けるように飛んでいき、槍の少女に向かって行く。
槍の少女はそれを避けるために後ろに飛ぶが、弾丸は彼女を追跡して行く。この技がどんなものか理解した 槍の少女はその弾丸を槍で弾く。しかし、何発かは彼女の体に突き刺さる。
槍の少女は片膝をつくが、すぐにまっすぐ駆け出して行く。間にあった壁を槍で破壊し、ガンナーに向かって槍を突き出した。
だが、その間にも壁がせり上がり、槍がはじかれる。そして、それで立ち止まった少女に向かって 槍の少女はその弾丸を槍で弾く。しかし、何発かは彼女の体に突き刺さる。
槍の少女は片膝をつくが、すぐにまっすぐ駆け出して行く。間にあった壁を槍で破壊し、ガンナーに向かって槍を突き出した。
だが、その間にも壁がせり上がり、槍がはじかれる。そして、それで立ち止まった少女に向かって ガンナーが銃を乱射して槍の少女に弾丸を当てる。彼女は全てを弾こうとするが、何発かは当たってしまう。
この戦い方が、ガンナーとガードナーの戦法。このままではジリ貧かと、槍の少女はそう考えていた。
「どうしたどうしたー?正体表したらどうかな!」
「…………」
「何も言わないか。まぁ、 いいや。さっきガードナーが言ったみたいに、倒してからフードの下を見せてもらうからね!」
ガンナーは地面に強く足をつける。すると、その足の下から透明な壁がせり上がり、ガンナーを大きく上に打ち上げる。
そして、ガンナーは上空から無数の弾丸を放つ。槍の少女はそれを見て、槍を力を込めて 握り締める。そして、腰を低くしてその槍を投げ飛ばす。
「ーーーえ?」
その槍を見てガンナーは間が抜けた声を出す。そしてそれが、電撃を帯びてガンナーに突っ込んでいき、それが目前に来た時ガンナーは目の前が真っ暗になった。
◇◇◇◇◇
どこかの森の中で、切り株の上に座っている少女が、鼻歌を歌っていた。しかし、彼女の手元には巨大なトゲ付きの鉄球が置いてあった。
そんな彼女は今、手に持っているスマホで何かの動画を見ていた。どうやらヒーローものの特撮のようで、何話もの話を繰り返し見ていた。
「……やっぱりこのお話は 何度見ても、最高ですわね……とくに、このシーン」
そう言って少女は何度もスクリーンショットを繰り返した。彼女は、ブレイカーといった。いつものようなニコニコ顔は、常に保っている。
「悪役……悪役というのも、楽じゃありませんわ……けれど、これで少しは理解できていますかね……」
そう言って彼女はくすくすと笑う。それと同時だった。遠くの方から大きな爆発音が聞こえて来て、ブレイカーはそちらに視線を向ける。
光の線が走っていて、それを見たブレイカーは小さく「あら」と呟いた。衝撃でこちらにも強い風が飛んでくるが、ブレイカーは澄ました顔でスマホに視線を戻す。
スマホの中では、敵の謎の戦士の正体がヒーロー達にバレてしまうシーンで、それを見たブレイカーは、外の事から完全に気持ちをこちらに全て向けた。
後ろから聞こえて来た音は、もう完全に消え去っていた。
◇◇◇◇◇
耳をつんざく爆発音。それを間近で聞きながら、ガンナーは大きく吹き飛ばされて、壁に体を打ち付ける。
「んっ、うう……な、何がおきたんだ……?」
衝撃によって揺れる頭を抑えながら、今何が起きたかを冷静に整理しようとする。たしか、槍を持った少女が槍を投げとばしきて、そしてーーー
そうだ。ガードナーはどこに行った。今は一度体勢を立て直すべきだと言うのは、流石にあのバカでもわかるはず。そう言い聞かせながら、首を振り彼女を探す。
「ーーーあっ」
何か、視線に入ってきた。それは、腹から何かが飛び出ていて、腕が千切れていた。まるで海外のゲームの死体みたいだと、ボーっと 眺めていた。
ゆっくりと這うようにその落ちているものに近づいていく。それはピクリと動いたため、恐らくまだ息はあるのだろう。
「……ガー、ドナー……?」
違うといって欲しかった。けれど、それはその声に対してうめき声で反応を返した。その声を聞いたとき、ガンナーはそれに飛びついた。
息はしているから、まだ生きているはず。とにかくここから逃げ出さないといけない。けれど、槍の少女がどこにいるかわからない。
だが、いつのまにかその少女の気配はどこかにきえていた。まるでこれをするためだけに、現れたかのようだ。
でも今は好都合。ガンナーは彼女を抱えて走り出そうとする。 ガードナーから流れる血が、赤い道を作っていた。
「ガン、ナー……そこに、いるのか……?」
「あぁ、僕はここにいる!今から助けてやるぞ!」
「……なぁ、一つ、頼みを聞いてくれないか……難しいことじゃない……」
「……いいよ。なんだい」
ガンナーはそう言ってガードナーに向けて視線を 向けた。ガードナーの目は真っ赤な目隠しをしていて、表情はうまく読み取れなかったが、どこか安心してるように見えた。
ガンナーは、自然と銃を握る力を強くする。何を言われるか、少しわかっていたから。もう一度心のどこかで違って欲しいという彼女の願いは。
「私を、殺してくれ……」
ーーーあぁ、やっぱり。
答えは期待通りだった。だから、ガンナーは大きな声で「馬鹿か!」と叫んで、口を開ける。
「そんなことのために、僕を庇ったのか!僕を死ぬ口実に使おうと、そうしてるのか!?」
「……そう、だな……そういうことになる……」
「じゃ、殺さない。尚更、殺してたまるか! こんなくだらない理由で死のうなんて……ふざけるな!!」
「……怖いんだ……」
ガードナーのそのつぶやきに、ガンナーは口を閉じる。その声はとても震えていた。恐怖。それから逃げる選択肢が、死ぬことなのだろうか。
ガードナーの気持ちは、よくわかる。よくわかるからこそ、殺したくない。 だってそんな思いをしても『自分は死のうとしてないから』そんな理由だが、ガンナーにとってはそれはとても大きな理由だ。
けれど、怖いと呟いたガードナーは、いつものような勝気なそして、主人公のようなオーラは何処かに消えていて、まるで雨に濡れた捨て猫のように見えた。
「……怖い。 ここから先、起きることに私は……耐え切れるような気がしない。怖いんだ……明日、体が突然消滅するかもしれない……明後日、首を切り落とされるかもしれない……明々後日、殺人鬼に殺されるかもしれない……そんな生活、もう嫌なんだ……だから、私は……」
「逃げるの?生きることから、逃げるっていうのか!?そんなこと間違ってる!!」
「……死ぬのに逃げるのは、悪い事か?」
そう言われて、ガンナーはもちろんと大きな声で叫ぼうとした。間違ってる。さぁ、一緒に戦おうと。けれど、そう口は動かない。
ガードナーは赤い目隠しを少しだけどかして、こっちをじっと見ていた。 その目は、こんな時なっても優しくて、ガンナーはその目から視線を外してしまう。
「逃げるのは…悪いことじゃないさ……追い詰められて……何もできなくなって……くらい小道を歩いてる……しばらく歩くと、目の前に紐がぶら下がるんだ。その周りだけ、光が輝いてるように見えて……ようやく見つけたそれをつかむだけだ……」
「……そうか。僕には正しいかどうかなんてやっぱりわからないし、間違ってると思う。けれど……」
ガンナーはそう言ってガードナーの顔を見る。だんだんと青く染まっていうのは、彼女がその紐をなにもしなくてもつかんでいこうとしている。
その紐はとても魅力的なの だろう。どう転んでもそれを掴んでしまうならいっそーーー
そう考えながら、ガンナーは銃を構える。それをガードナーに向けて、小さく息を整えた。
「ガンナー……」
「君は……ワガママだ。自己中だ……最悪だ……」
「ごめん……」
ガードナーはそうポツリとつぶやいた。それを聞いて、ガンナーは首を横に振る。そして、息を吐いてくちをあけた。
「謝るなよ……君が悪いことしてるみたいじゃないか……」
「……そうか……だったら……ありがーーー」
その言葉を遮るように、乾いた銃声が辺りに響く。その音ともに、ガードナーの頭から血が飛び散り、それがガンナーの体につく。それを手で拭い、ガンナーは広がっていく赤い地面を見ながら、小さくつぶやいた。
「礼も言うなよ……僕がいいことしてるみたいじゃないか……」
その言葉の後、ガンナーはどさりと崩れ落ちた。今この場には他にはガードナーしかいないのに、彼女は小さな声で嗚咽を漏らし始めた。
◇◇◇◇◇
ガンナーは道を歩いていた。彼女が歩く道跡は、そこが赤い絨毯に変わっていく。
彼女は一人の命を消した。それが正しい事かはわからないが、正しいと信じないとおかしくなってしまいそうだ。
だから彼女は信じる。間違ったと先程までいっていた自分が間違っていたと、そう言い聞かせながら。 そして、銃を握る手を少しだけ緩めた。
「……どうしようかな……」
ポツリと呟く。彼女の戦う理由に一つ、姉に会いたいというのにガードナーに会いたいが追加された。この戦いが終わった後に彼女を呼んだら、それはいけない事だろうか?
わからない。だけど、とにかく会いたい。姉よりか、今は彼女に会いたい。けれど、なっぱり姉への想いは捨てられない。
そうだ。この戦いでは願いを二つ叶える方法があるではないか。ガンナーはそのことを思い出して、少しだけ笑う。
そうなればシンガーを探さないと。今セイバーがいなくて困ってるはず。そして、同盟関係になり生き残った後、痛めつけてやればいい。
しばらく歩くと目の前からおぼつかない足取りで歩いているシンガーを見つけた。その時、ガンナーは神はいると信じた。願いが叶う一歩目だ。
「やぁ、シンガー。無事かい?」
なるべく気さくに話しかける。そして、彼女の同情を買い、仲間になってもらう。そこまでのルートを思いついた彼女は、シンガー の方に歩いていく。
「実は、困ったことがあってさ。よかったら、手伝ってほしいなって……?シンガー?」
その時何かの違和感に気づいた。シンガーは目に涙をためてガクガクと震えていた。そして彼女の目はこちらに来るなと訴えているようであった。
けれどガンナーは引けない。だって引いてしまったら もう2度とチャンスは回ってこない気がするから。だからガンナーは一歩踏み込んだ。
ザクッ
何か音が聞こえた。地面の砂利を踏んだ音かなとガンナーは考えていたが、突然ふらりと後ろに倒れているのに気づいた。
その時なぜか、自分の後ろ姿が見えていた。噴水のように飛び散る血。それをただ見ていて、 怯えた顔のシンガーの手には、何か折れた剣のようなものが握られていた。
赤い絨毯は、シンガーの前で途切れてしまう。それは、唐突であった。
【メールが二通届きました】
【ガンナーとガードナーが戦い、ガンナーが勝ち、ガードナーがが死にました。残りの魔法少女は05人です】
【シンガーとガンナーが戦い、シンガーが勝ち、ガンナーが死にました。残りの魔法少女は04人です】
【第9話 いいことしてるみたいじゃないか】