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マジカル☆ロワイアル2  作者: アイスモナカ
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第8話

「……っていうことがあったの。夢だったのかしら?」‬


病院のベッドので、質素な服を着た女性がそう言葉をつぶやく。それを聞いたピンク髪の少女は「そうなんだ」と短く相槌を返した。

「でも、もう病院から抜け出さないでね?お母さん」‬


そう言ってニッコリと微笑む少女は、幸といった。‬ 母親の見舞いに来ていて、しばらく二人で談笑をしていた。‬


チラリと時計を見て、幸はゆっくりと立ち上がる。そして、母の方を見てまた今度ねと言葉を投げた。‬


「えぇ、気をつけてね。今度は、きな子ちゃん連れてきてね」‬

「……うん。わかった」‬


幸は弱々しく笑ってから病室から出ていった。‬ 扉の向こうで、幸は大きく深呼吸をした。そして、ふらふらと病院から出ていった。‬


「……絶対、生き返らせるから。その日まで、待ってね、きな子ちゃん」


その言葉を何度も繰り返しながら、幸は道を歩き出した。空には黒い雲が立ちこもり、太陽が掻き消されていた。‬



◇◇◇◇◇



少女はイライラしていた。‬


ボフンとベッドに体を投げて、力強く拳を叩きつける。優しい感触だけしか返ってこなかったが。‬


「なんで1番になる私が、あんな苦渋を舐めないといけないのよ……ふざけるなふざけるな……!」‬


少女……佐々はもう一度ベッドを強く殴る。そして、壁に寄りかかって、今度は‬ 大きく舌打ちをした。拳は強く握るが、それで何も打ち付けなかった。‬


彼女は一番になるためになんでもしていた。けれど、現実は甘くないというように、彼女は1番になれなかった。いや、彼女は一番になったことはある。‬


けれど、その時の彼女を見てくれる人はいなかった。誰も、佐々のことはいないように 扱っていた。それが悔しかった。


一番になるためにはなんだってした。けれど、気づけばいつも一人ぼっちの一番になってしまう。そんなの、嫌だ。


だから彼女の願いは一番と『皆に認められること』であり、それ以上でもそれ以下でもない、単純な願いであった。


だから、彼女は戦わなければならない。認められるためにも。1番になるためにも……‬


「また、メール……アンダーワールドに怪物、ねぇ。ここんところ多すぎないかしら?まぁ、いいわ」‬


佐々は知っていた。この化け物を倒さないと不幸が起こるというが、別に倒さなくてもいい。まさにアプリなのだこの殺し合いは。‬


ログイン。つまり、‬ ‬ アンダーワールドに少しだけ入ってしまえば、不幸は来なくなるのだ。それは何度も試して確信はしてる。誰にも教えてないが。‬


「……でも、一番ならないといけない……ブレイカーじゃないなら、やっぱりここは、ガンナーたちね……待ってなさい」‬


そう呟いた佐々はアンダーワールドに降りていく。‬ 胸にあるのは、ただ一つ。私、アーチャーが一番強い魔法少女だということだけ。それだけだ。‬



◇◇◇◇◇



雲がたくさんある空を見上げながら、幸はぼーっと小さく歌を口ずさんでいた。場所は、誰もいない教会の前だ。‬


近くにある大きな枯れ木はなんであるのだろうと考えながら、待ち人がいつくるか考えていたら、肩を誰かにポンっと叩かれた。‬


「ひへっ!?」‬

「あ、ごめんなさい驚かせっちゃって……シンガーさん、ですよね。私ですファイター……あっと。江口鈴鹿です」


そこにいたのは、あの時みた服装に身を包んだ女の子。頭の中でファイターとその子を結びつけるのに時間がかかった幸は、慌てながら手を差し出した。


「あっ……大林、幸です。よろしくおねがいします」


鈴鹿はそれを見た後、幸の手を握りしめて、にっこりと笑う。鈴鹿の手は、ほんのりと暖かかった。‬


「そうだ。私の家に来ませんか?」‬


そう言って鈴鹿は幸の手を引っ張り歩き出す。幸は申し訳ない気持ちはありながらも、鈴鹿の両親などが気になっている気持ちが勝ってしまい、されるがままになっていた。‬


しばらく歩くと、‬ ボロボロだが、そこそこ大きな和風な家があった。鈴鹿がドアを開けようとするが、立て付けが悪いのか試行錯誤を繰り返して、ようやく開けた。‬


「あっ!鈴鹿お姉ちゃん!!おかえりー!」‬


子供の声が聞こえて来た。鈴鹿より小さな子供が何人か駆け寄って来て、親しげに鈴鹿に声をかける。幸は、兄弟か‬ 何かだと思っていた。けれど、あまりにも数が多い。‬


「えっと、この子たちは……」‬

「家族です。血は繋がってませんけど」

鈴鹿の言葉に、幸は短く驚きの声をあげる。何か、複雑な事情があるのかと考えるが、深く聞かない方がいいような気がした。‬


「お母さんはいないの?」‬


鈴鹿が優しく子供の一人に‬ 聞くが、口を開けるのは一人だけじゃなかった。鈴鹿は困ったような顔をするが、すぐに言葉を読み取ったようで幸の手を引いて家に招き入れる。‬


「どうやら、お母さんは今家にいないみたいです。とりあえず上がってくださいな」‬


幸は言われるままに家の中に入る。床を踏むたびに、ギシギシと板が軋む‬ 音が嫌でも聞こえてしまい、幸は少しだけ怖かった。‬


その時、ガラリとドアが開いて一人の少年が目の前に現れて、こちらに気づく。‬


「……お、鈴鹿姉。帰って来たんだ。おかえり……隣の人は?」‬

「ただいま九郎くん。この人は、大林幸さん。少しだけお話しするから、部屋には入らないでね」


‬ そう言って鈴鹿は九郎の横を通り抜ける。九郎は、大げさすぎるほど鈴鹿の体に当たらないように横に飛ぶ。ドンっと壁にぶつかって彼は少し痛そうな顔をしていた。

「んもう。九郎くん。そんなに露骨に嫌わないでよ」‬

「いや。そんなわけじゃ……お、俺!今から遊びに行ってくるから!!」‬


九郎は‬ そう言って外に出て行く。立て付けが悪い扉は10秒以上の時間をかけてはいたが。‬


「……九郎くんって……」‬

「あ、はい。私より年上ですけど、ここに来たのは私が先なので……お姉ちゃん扱いされてます。すこし、おかしいですよね。九郎くんは、恥ずかしいのか最近ぶつかるのとか嫌がりますけど」‬


何ででしょうね?と、鈴鹿は幸に問いかける。何となく答えがわかっている幸は、何も言わずに苦笑いを浮かべた。‬


そして、鈴鹿は少しだけ綺麗な部屋の前に立ち、ドアを開ける。そして、幸を中に招き入れた。‬


「あの……鈴鹿ちゃん、ここって……」‬


幸が辺りをキョロキョロと見渡して口を開ける。‬ 掃除は行き届いているが、壁紙は剥がれ、やはり床はキシキシと軋んでいる。

「……まぁはい。ここは、私達の家……所謂、児童養護施設みたいなところです」‬


そう言われて幸はハッとする。残される側の辛さがわかるというのは、彼女自身が残された側という事か。

「そういえば江口って……も、‬ もしかして……」


幸の言葉を聞いて、鈴鹿は辛そうな顔をする。けれどすぐにわざとすぎるくらいニコリと笑って口を開けた。


「はい。私は荒川京子の事件によって親と兄を殺され、唯一の生き残りになった……江口、鈴鹿です」

「だ、だから……荒川京子を探してたんだ」


そう幸が言うと、鈴鹿はゆっくりと頷く。その時の顔は悲しそうに見えた。


この時幸は迷っていた。ブレイカーの正体を伝えるか否か。もし、ブレイカーが荒川京子だとわかってしまったら、彼女は何をしようするから容易に想像できた。


けれど。同盟を組んだ以上、伝えるべき事柄なのだろう。ただ、軽率なことをして鈴鹿を失いたくはない。慎重に動くこと。それが幸がするべき行為であった。‬


「……荒川京子。私は彼女を殺さなければならない。だから、私は生き残る……まぁ、願いは荒川京子関係ありませんが」‬

「えっ。そうなの?」‬

「はい。私の願いは……私の家を建て直したい。そんな願いです」‬


そう言って、鈴鹿は突然立ち上がる。飲み物を持って来ますとだけ言って、彼女は部屋から出ていった。‬


幸は、そんな彼女を見送りホッと息をつく。鈴鹿はどこか子供場慣れしてるような気がして、緊張が続いていたのだ。‬


「もし、荒川京子がブレイカーだって伝えたら、鈴鹿ちゃん本当に戦いに行くのかな……なんか、そこまで‬ ‬ 子供じゃない気がして来た……私より、大人でしょう」‬


そう呟いて、大きく伸びをした。その言葉に賛成するかのように、スマホがピコンと小さく光ったが、幸は気づかなかった。‬



◇◇◇◇◇


【ーーー魔法少女システム『アーチャー』起動しますーーー】‬


◇◇◇◇◇



トンっ‬


「さぁて……だいたい5分くらいいたらいいかしらね」‬


エルフ耳の少女。アーチャーがそういいながら、アンダーワールドをとことこ歩く。地面を踏みしめる音が、あたりに虚しく響いていた。‬


しかしふと、アーチャーは足を止めて、目を凝らして遠くにいる影を見る。それは、人の形をしては‬ いるが、黒いフードをかぶっていてどんな顔かは全く見えなかった。‬


だが、ここにいる人間ということは、魔法少女てきということである。そして、彼女が持っている武器を見てあっと驚きの声をあげた。‬


槍だ。あの魔法少女は槍を握っている。つまり、ランサーを殺した魔法少女がそこにいるという事‬ だ。アーチャーの弓を握る手が自然に強くなる。‬


(……つまり、あの魔法少女を殺せば、みんな私を見てくれる……そして、現実じゃ無理でも、私が全ての人間のトップに立てる)‬


そう考えてからはアーチャーは速かった。音を立てずに後ろに飛び、槍の少女との距離を離す。そして、ゆっくりの弓を構えて‬ 標準を合わせる。‬


この距離は、普通の弓矢は届かない。けれど、彼女は『普通じゃない』弓矢を放つことができる。‬


強く力を握ると、矢の周りに淡い光が発生する。そして、アーチャーはさらに弓を弦を大きく張った。‬


ギリギリと軋む音が聞こえても、彼女はやめない。そして、広がる限界まできた時、‬ 彼女は勢いよく手を離した。‬


「ストライクショットッ!」‬


放たれた弓矢はレーザーのようにまっすぐ突き進む。それは光に等しい速さであり、遠くからの攻撃でそれを避けるのは不可能だ。だから、アーチャーは勝利を確信していた。‬


けれど、その矢は槍の少女の前を素通りしていき、どこまでも愚直に‬ 突き進んでいく。そして、槍の少女がこちらに顔を向ける。‬


アーチャーは慌てて物陰に隠れる。まさかこのタイミングで外すとは。けれど、距離は遠い。ここから逃げて態勢を立て直す。そう考えながら、アーチャーは急いでスマホを触ろうとした。‬


そしてスマホに手を出した時、横から視線を感じた。‬ アーチャーがそこを向こうとした時、なにかが横から迫ってきた。‬


「っーーー!?」‬


アーチャーは慌ててしゃがむ。上を見ると、彼女の頭上には槍があった。槍の少女はあの一瞬でここまで距離を詰めていたのだ。‬


内心舌打ちをしながら、弓を構えつつ後ろに飛ぶ。そして、何発もの矢を槍の少女に向けて‬ 撃ち放つ。‬


どれも狙いは完璧だった。けれど、その攻撃はなに一つ当てたいところには当たらずに、槍で弾き飛ばされる。‬


「なんっなのよ、あんた!!私に構うなっ!!」‬


アーチャーは地面に着地した瞬間、後ろ向きに大きく飛んでからそのまま槍の少女とは逆の方に走り出す。今は逃げるのが先決と、アーチャーは考えていた。‬


その後ろ姿を見ていた槍の少女は、片足を大きく後ろに下げる。そして、勢いよく先ほど弾いた矢の一本をアーチャーに投げ飛ばした。‬


風を斬りながら進むそれは、まっすぐとアーチャーに飛んでいき、彼女の右肩に深く突き刺さる。突如きた痛みに、アーチャーは思わず片膝を‬ついてしまう。後ろを振り向くと、もう目の前に槍の少女が立っていた。


「ちかっ……!!」


アーチャーが驚くよりも早く、槍の少女は槍でアーチャーを上に弾く。体が空中に舞っていく感覚を覚えながら、彼女は大きく飛んでいく。


体を地面に打ち付けて、アーチャーは唾を吐く。ふらつきながらも立ち上がるが、彼女の体はもうボロボロだった。‬


「……なんなのよ……あんたっ!なんなのよ!!」‬


突如吠えたアーチャーの声を、槍の少女は涼しい顔で聞いていた。それが癪に触ったアーチャーはさらに声を荒げる。‬


「私はね!1番にならないといけないのよ!この世界なら一番になれると思った‬ のに……なんでみんな邪魔するのよ!?普通に一番になってもパパもママもお姉ちゃんもクラスのみんなも誰も私を見てくれない……私が何したって言うの!?もっと私を褒めてよ!認めてよ!!愛してよ!!」‬


アーチャーはそこまで叫び、弓を構える。そして、叫び声を上げつつまた弓を限界まで張る。‬ そして、もう一度大きく技名を叫んだ。‬


「ストライクショット!!」‬


先程より近い距離で放たれた。これは確実に急所を貫くとアーチャーは分かっていた。‬


けれど、それすらも槍の少女はいともたやすく避ける。それは天に伸びていき、アーチャーは小さく引きつった笑いを浮かべそれを見つめていた。‬


グシャ


「あっ、がぁ……」‬


胸に、深く突き刺さる槍はだんだんとアーチャーの体を通り、大きな穴を開けようとする。痛み。それは今まで受けたものよりか遥かに大きく、これが死への一歩なのかと、アーチャーはどこか他人事のように考えていた。‬


死ぬ。それはきっと、彼女の物語はここで終わるということ。‬ 誰にも見られないこんなところで、死ぬ。そんなのはーーー‬


「ーーー嫌に、決まってるでしょう!」‬


アーチャーは叫んだ。そして己の力を全て使い、槍の少女を蹴り飛ばす。突然のことで対処できなかったのか、少女は大きく飛んでいく。‬


アーチャーは槍を体から引っ張り抜きそれをどこかに投げ捨てる。‬ 体からとめどなく血は流れるが、アーチャーはそんなことを気にしないというように、一目散に走り去る。‬


槍の少女はアーチャーを追いかけることはなく、ただじっと彼女の後ろ姿を見つめていた。いつまでも、いつまでも……‬



◇◇◇◇◇



どこかの森の中。海賊のような衣装に身を包んだ少女が、切り株の上に座り込んでいた。彼女、ガンナーはここで人を待っていた。‬


いっそ帰ろうかと思った時ちょうどに、一人の少女が彼女に声をかけた。ガンナーは鬱陶しそうな声を出すように気をつけながら、口を開ける。‬


「遅いよガードナー。‬ そろそろ帰ろうかと思ってた」‬

「いや、すまない……色々と考え事をしていてな」‬


そう言ってガードナーは頭を下げる。ガンナーはそんな彼女の頭をペシンと一度叩く。‬


「で?話って何?まさかここで不快な思いをさせるためだけに呼んだ訳じゃないよね?」‬

「……話は、今後についてだ。殺し合い……‬ これを止める方法について、考えたい」‬

「……この前、荒川京子がセイバーを殺したもんね……」‬


そういうと、ガードナーは途端に暗い顔になる。こんなところまで彼女は主人公なのだなと、ガンナーは考えていた。‬


こんな人が自分の姉なら、もしかしたら自分は幸せなのかもしれない。そんなことをふと‬ 考えて、すぐにかぶりを振る。たまに一緒ならいいが、常に一緒にいるとこちらが疲れてしまいそうだ。‬


「なにか、いい案はないか?……私はもう、誰も傷ついて欲しくない。誰も、死んで欲しくない……」‬

「そう、だね……でも多分、それは無理だよ」‬


ガンナーがそういうと、ガードナーは「は?」と言葉を漏らした。‬ もしかしたら地雷踏んだかもな。ガンナーはそう察するが、あえて強気に口を開ける。‬


「この戦いにきてる人は、みんな叶えたい願いがあるんだよ?それは、人を殺してでも叶えたい……ねぇ?ガードナーにもあるでしょ、そんな願い」‬

「……私の願いは、もう叶ってしまった。だからーーー」‬

「馬鹿?‬ 君の願いは叶っていても、他のみんなはそうはいかないでしょ?だからみんな必死に殺しあう。そういうことだから、止めるのは無理。止めるには、勝ち残るしかないの」‬


ガードナーはその言葉を黙って聞いていた。ガンナーは彼女の次の行動を考えてヒヤヒヤしていたが、彼女が短く「わかった」と呟いて‬ 小さく笑ったのを見て、ガンナーはホッとする。‬


「ならば、君が私を殺してくれ」‬

「ーーーは?」‬


今度は、ガンナーがそう聞き返してしまった。いまなんと言ったかを必死に整理して、気付いた時、ガンナーは立ち上がる。‬


「ば、馬鹿なの君は!?生き残ればいいのに、なんでここで死のうとするんだっ!‬ それになんで僕が君を殺さないとーーー」‬

「君なら、私は殺されてもいい。それじゃダメか?」‬


そういう彼女の目は、真剣そのものであり、冗談を言っているようには見えなかった。‬


ゴクリとガンナーは生唾を飲み込む。こちらを見つめてくるガードナーがとても美しく見えて、今ここで殺さないと‬ 一生後悔をしてしまいそうだったから。そこまで考えて、自分に対して「馬鹿か」と呟く。‬


「まぁ、覚えておくよ。君が死にそうになったら、殺してあげる」‬

「……そうか。なら、戦わないとな」‬


ガンナーの言葉にガードナーは納得したようなしてないような顔を浮かべて、深呼吸を繰り返す。‬ 一呼吸一呼吸を噛み締めながら。‬


ガンナーはそんな彼女と自分の手にある銃を交互に見ながら、また小さく「馬鹿か」と呟いて、大きく溜息を吐いた。‬



◇◇◇◇◇



「っ、くぅ……」‬


ふらふらとした足取りでアーチャーは歩いていた。槍の少女から逃げたはいいが、安全に逃げれる場所を探さないと、いつ殺されるかわからない。‬


「なんで、私というものが……こんな目に……1番にならないと、いけないのに、なんで……!!」‬


アーチャーは視界がぼやけていくのを‬ 感じていた。このまま死ぬなんて嫌だとは頭では言ってはいるが、体が言うことを聞かない。

ずるりと自分の血でアーチャーは倒れる。あたりに自分の血が飛んでいくのを、ぼーっと見つめていた。‬


その時。自分の血の先に何かの人影が見えた。もしかして迎えに来た天使かと思っていたが、その影の形が‬ だんだんとくっきりと見えてくると、アーチャーの体に強い寒さが襲いかかる。‬


(なんでここにブレイカーが!?)‬


天使じゃない。悪魔がそこにいた。彼女はキョロキョロと何かを探して歩いていた。まさか獲物を探しているのかと考えたアーチャーは体が震えていくのに気づいた。‬


それを感じた‬ アーチャーは安堵した。自分はまだ生きようとしている。なら、それに賭けてみるしかない。大丈夫だ。だって私はーーー‬


(1番に、なるんだから……!)‬


アーチャーは音を立てずに這って移動し始める。ブレイカーはまだこちらに気づいていない。素早く、そして気付かれないようにしなければ。‬


しばらく動くと、小さな二階建ての家を見つけた。アーチャーは己の幸運に感謝して、その家の中に転がり込む。‬


そして走りながら二階に駆け上り、大きく息を吐く。やはり自分は一番になる人間だと、考えつつスマホのアプリを操作して変身をとく。‬


「すいませーん。誰かいませんかー?」‬


ブレイカーの優しそうな声が部屋中に響き渡る。佐々は叫びそうになるのを下唇を噛むことで止めようとした。口から血が垂れるがそんなのはもう些細な量だ。‬


「誰もいませんのね。んーじゃ、いいですわ」‬


そんな声とともに、ドアが閉まる音が聞こえて来た。それを聞いた時、佐々は心の底から深い‬ 安堵の息を吐いた。自分は生き延びた。そんなよろこびを噛み締めていた。ふと気づくと、自分の頬に水のようなものが流れているのに気づく。


涙を流していた。いつもの自分なら、ありえないと一蹴するところだが、佐々は受けいれていた。


「帰ろう……速く、速くっ!」


佐々はそう言ってスマホのアプリを操作して、帰路につこうとした。‬


私は一番であり、ここで死ぬわけがないと自分にいい聞かせてながら。‬



◇◇◇◇◇



「グラビティ・ハンマー」‬


目の前で二階建ての家が崩壊していくのを見ながら、ブレイカーは小さく息を吐いた。前回セイバーにやられた腕はなぜか生えて来たが、そのリハビリと必殺技の練習を兼ねて家を破壊していこうと考えていた。

なるべく誰もいないところを探していた。さっきの家は、誰かいた‬ ような気がしたが、返事がこなかったため、おそらく誰もいなかったのだろう。いたら、違う場所を壊しにいくだけだったが。‬


その時、スマホから音が聞こえて来た。どうやらメールが届いたらしく、ブレイカーはその本文を確認した。‬


内容を読みつつ、ブレイカーは首をかしげる。けれど、特に深く考えず‬ 道を歩き出す。特に興味のない相手であったのも、手伝っていた。‬


「さぁて、もうすこし練習しますか」‬


そう呟いて、ブレイカーはくすくすと笑います。崩壊した家から、瓦礫が大きく音を立てて崩れ落ちていき、土煙が舞っていた。




【メールが一通届きました】‬

【アーチャーとブレイカーが戦い、ブレイカーが勝ち、アーチャーが死にました。残りの魔法少女は06人です】‬

【第8話 私が何したって言うの】‬


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