第4話
一人目が死んだ。
彼女は金銭に対しては強い執着を見せていたが、それ以上に周りに気を配り、そして、誰からも愛されていた。
その少女が死んだ。
二人目が死んだ。
彼女はなにを考えてるかわからないが、輪を保つために一つの約束を作り、それを破るものに罰を与えた。
その少女が死んだ。
そして、生き残った少女たちは皆が皆人を怪しんだ。誰か裏切りものがいるという事が、確定しているからだ。
ここから、平和な魔法少女たちの物語の歯車は狂い始める。ゆっくりに。そして、確実にーーー
◇◇◇◇◇
ピピピ。
スマホのアラームが規則正しくなるのを聞きながら、きな子はゆっくりと体を起こした。眠気はもう消えているが、なぜかあくびは出た。
ふと横を見ると、一人の少女がアラームの音がうるさいというような顔をしながら眠っている。彼女は大林幸といった。
きな子は少し申し訳なさそうに、幸の体を揺らして起こそうとする。彼女は数秒遅れてゆっくりと目覚めた。
「おはよう、幸ちゃん」
「ん……おふぁよう……」
幸はそう寝ぼけながらつぶやいて、どこか遠くの方をぼーっと見つめていた。
なぜ、彼女がきな子の家にいるかというと。例えばそれはパジャマパーティーなどというそんな可愛らしいものではない。恐怖。それも死への恐怖と、裏切り者がいるという恐怖だ。
先日、とある少女の死体を見つけてしまった二人。その少女はランサーといい、彼女を殺したものの名前はすぐにわかるはずだった。
しかしわからなかった。
まるで意図して消したかのように名前の欄には空白が一つあるだけであった。何故こうなったかはわからない。しかし、殺し合いをしようとしないきな子たちに対する一種の脅迫のようなものだと、彼女たちは捉えた。
だから、暫く幸はきな子と一緒にいたい。家に泊まりたいと、お願いしてきたのだ。断れるような雰囲気ではなかったため、きな子は家に彼女を招き入れた。叔父も彼女を歓迎してくれた。
そんなこんなで今に至る。ようやく目が覚めた幸と一緒にきな子と叔父は朝食をつついていた。ありきたりな、よくある朝食。目玉焼きにトースト一枚。
食事の挨拶をした時、幸が少し違和感を感じた。そして、それに気付いて、幸は口を開ける。
「ねぇ、トーストが4枚もあるよ?誰かまだいたっけ?」
「……あっ。本当だ。偶にやっちゃうんだよね……なんでだろう。ここにはずっと、私と叔父さんしか住んでないのに……」
幸の言葉にきな子は少し悲しそうな声を出しながら、焼いてしまったトーストを叔父に渡した。叔父は少し迷ったが「しょうがないわね」とだけいって、それをもらった。
「……でもね、きな子ちゃん。私も偶に思うのよ。なんだか、もう一人。忘れちゃいけない人がいたような気がするって……多分、気のせいなんでしょうけど」
「……そう、ですね。なんだか、私もそう思えてきました。もう一人、大切で大好きな人がいたような、いなかったような……」
重くなっていく空気を感じながら、もしかしたら地雷を踏んだかもしれないと考え始めた幸は、急ぎで朝食に食らいつく。
幸がばくばくと食べる姿を見たきな子達はクスリと笑い、ゆっくりと朝食を取り始めた。
それでもきな子は少しだけその事が引っかかっていた。だからもし、もしこの戦いに生き残る事ができて、願いを叶える事ができるなら、この忘れている記憶を呼び覚まして貰おうと、考えていたのであった。
◇◇◇◇◇
何処かくらい小屋のようなところで、二人の魔法少女がそこにいた。一人はガードナー。もう一人はガンナーといった。
ガードナーはスマホを使いニュースをパラパラと読んでいた。行方不明者が増えたとか、殺人犯が脱獄したとかそんな物騒なものばかりで、彼女はため息をつく。
このアンダーワールドに裏切り者はいるかもしれないが、数はおそらく一人しかいない。そう考えると現実よりこっちの方が、もしかしたら安全な世界なのかもしれないな。と、彼女はボーッと考えていた。
そんなガードナーの後ろからガンナーの声が聞こえてきた。ガードナーは返事を返して、彼女の近くまで歩く。
「ねぇ、ガードナー。この記事どう思う?」
そういって彼女が見せたのは、先ほど見た記事の一つ。殺人犯が脱獄したというニュースであり、ガードナーは首を傾げながら口を開ける。
「どう。と聞かれても……恐ろしいとしか答えれないな」
「はぁ。君は記事をちゃんと読まないの?ほらよく見て……この殺人犯。牢屋から突然姿を消したって書いてある。わかる?この意味」
「……いや、まさか……しかし……」
「まぁ、もう少しきちんと読んでみようか」
そういってガンナーはその記事を音読し始める。その殺人犯。名前は荒川京子といい、ある日彼女の友人であった江口琴音とその夫江口晴政。そして子供二人のうち息子である少年を殺害。生き残った一番下の少女は、今は何処かの孤児院にいるらしい。
そしてその京子はその後も数え切れないほど殺人などを起こし、とうとう死刑が確定していた。その京子が突然姿を消したのだ。
「……怖いことを聞くぞ、ガンナー……この、京子というやつは……」
「うん。この京子は魔法少女。そして今もまだ僕達の中にいる……確実にね」
「アンダーワールドに降りた京子はずっとこの世界にいて、願いを叶えようてしている……つまり、この前ランサーを殺したのは……」
「そこはグレー。叶えたい願いがある人がいれば多分……誰でもランサーを殺した。と、思う。こういう僕も叶えたい願いはあるからね」
「叶えたい……願い……失礼だが、聞いてもいいだろうか?」
そうガードナーに言われて、ガンナーは少しだけ嫌そうな顔をしたが、珍しいガードナーの真剣な顔を見て、仕方ないというように口を開ける。
「僕にはねお姉ちゃんがいたの……けど、僕のお姉ちゃんは僕を置いて何処かに消えた。だから僕の願いはお姉ちゃんを見つけて可能なら顔面を思い切りぶん殴りたいな」
そういってガンナーは右手で何かを殴るような動作をしていた。それはあくまで今の湿っぽい空気を壊すための動作であり、ちらりとガードナーの方を見て効果のほどを確認しようとした。
「……ごめん……」
しかし、彼女は何故か謝っていた。もしかして、願いを聞いたことに対して謝ってるのか?そう考えたガンナーは少し慌てて口を開ける。
「謝らないでよ。別に謝ることじゃないし……」
「……本当にすまなかった……私は、ただ……」
「もう!そんなに僕の願いは暗かった?こんなもんだよきっと!うん。謝ってる君の姿は見たくないし……それに、ほら、似合わない。君はもっと堂々としてて欲しいな」
「……あぁわかった。よしっ!じゃあ、頑張ろうか化け物退治!」
「えっ!?な、なんで」
「いつもの私になれと言ったのは君だろう?ならばいつもの私のように化け物退治をするまでさ。あぁ、もちろん京子に対するては打つさ。だから、さぁ!」
そう言ってガードナーはガンナーの手を握り歩き出す。いつものようにうざったい存在。だが、今はそれがなんだかホッとしてしまう自分がいた。
自然と握り返す力が強くなる。それに気づいたガードナーは小さく「ありがとう」と呟いて、いつものように。堂々とした態度で歩き出した。
◇◇◇◇◇
その後2日ほどたったある日。ガードナーのラインから皆に広場に来て欲しいとの通達があった。それに皆は素直に従い、今ここに7人の魔法少女が集まっていた。
ガードナーは、こほん。と、小さく咳をして他の魔法少女たちの顔をみはじめ、少しためらいながら口を開ける。
「君達にあつまってもらったのは他でもない……あー。裏切り者の件は君達も承知だろう。そこでだ。今後は同盟を組んでる私とガンナー。そして、シンガーくんとセイバーくん。そこに残ったブレイカーくん。アーチャーくん、ファイターくんを分けて、そしてチームを作り裏切り者が何かする可能性を少しでも潰そうという訳だ」
「裏切り者も、まさか集団行動中に何か行動を起こそうと思うほど馬鹿じゃないと思うしね。みんなどう?」
「それは素晴らしいですわ。私は大賛成です!」
真っ先に賛成の意を表したのはブレイカー。彼女はニコニコした顔でウンウンと頷いていて、それを見てガードナーは少し、ホッとしたような顔になる。提案を飲まれるかどうか心配だったのだろう。
それに合わせるように他の魔法少女達もガードナー達の意見に賛成していく。しかし、一人だけキッパリと断った魔法少女がいた。
「私、裏切り者かもしれない人と一緒のチームになるなんて考えられないわ。私は一人でやらせてもらうわ」
エルフ耳の魔法少女。アーチャーだ。彼女はキツイ顔でそう言って、ガードナー達の制止を聞かずに何処かに立ち去って行った。
ガードナーは追いかけようとするがそれをガンナーは止める。仕方なく彼女はアーチャーを外してチーム分けをすることに決めた。
「はい!私、ガードナーさんと一緒がいいです!ダメでしょうか?」
「あぁ、私は構わないが……ファイターくんは大丈夫か?」
「大丈夫です。丁度シンガーさんとお話ししたかったですし」
意外に簡単にチームメンバーが決まった。ガードナーガンナーブレイカーに、セイバーシンガーファイターの組み合わせだ。なるべく早くアーチャーをメンバーに入れたいと、ガードナーはポツリと言葉を漏らした。
「それじゃ、今日はこのメンバーで行動してくれ。では、また今度!」
そう言ってガードナー達は何処かに歩いて行った。それを見送っていたきな子はチラリとファイターの方を見る。
紫の髪に右腕と右足はサイボーグのようになっていて、そして長いマフラーを巻きジャージをきている。サイボーグの腕などを外したらまるでお金のない人が作ったヒーローのコスプレのような感じに見えた。
「えっと、改めまして。私、ファイターと言います。よろしくお願いしますね、セイバーさんにシンガーさん」
「えっ、あ、こちらこそ。よろしくお願いします、ファイターさん」
そうきな子が返すとファイターは可愛らしくクスクスと笑いだす。そして、きな子の方を向いて口をあける。
「私、現実世界じゃ12歳くらいですから、敬語なんていりませんよ。気軽に呼んでくださいな」
「えっ、と……うん。わかったよ、ファイターちゃん?」
「あはは。ちゃん付けで大丈夫ですよ」
ファイターはそう年相応の笑顔を見せる。いや、本当に12歳じゃないのかもしれないが、彼女の笑顔は子供らしかった。
しかし、それにしては落ち着いているもの腰は12歳と言われても信じれることができない。むしろきな子達より年上な気もする。
彼女も何か叶えたい願いがあり、この戦いに参加してしまったのだろうか。12歳にしてそこまでの願いというのはなんなのだろう。
しかし、そんなことを聞けるような間柄ではない。取り敢えず、3人は道を歩き続ける。
「そういえば、裏切り者は誰なんでしょうね」
「そうだね。ファイターちゃんは誰だと思う?」
きな子にそう言われてファイターは悩むそぶりを一切見せずに、人差し指を向ける。その先にはきな子がいた。
「えっ、と……?」
「私はセイバーさんが一番怪しいと思ってます」
ファイターはあくまで冷静にそういう。まさか名前を呼ばれるとは思っていなかったきな子は、少し慌てながらなぜかと尋ねた。
「確か、死因は首を切断でしたっけ。とにかくそれで死んだ……もしかしたらランサーの槍を奪い去って殺したかもしれませんがあまりにも現実味がない……そしたらセイバーさんしかいない。そう思えません?」
「じゃあ。私たちといるの怖くないの?」
幸がそういうと、ファイターは首を縦に振った。そして、自分の右手を何度も握り続ける。まるで力を確かめるように。
「怖いですよ。はっきり言って、私以外はみんな敵です。だからこそ、一番怪しい貴方達と共に行動できて運が良かった」
「つまり……一番怪しいからこそ、常に警戒ができる。という訳?」
幸の言葉に元気よくファイターは返事を返す。そうはっきりと言われるとなんだか逆に清々しい。あまり険悪なムードにならないのもファイターのある意味の凄さなのかもしれない。
また少し歩くと幸が思い出したかのように、ファイターの方を向いて口を開けた。
「そういえば私に聞きたいことって?なんか用事があるみたいだったけど……」
「……あぁ。忘れてました。えっと……荒川京子って知ってますか?」
「荒川、京子……何処かで聞いたことあるような。ないような……」
「それ確か、私に前聞いたよね。ええっと、確か殺人犯だっけ……」
きな子がそういうと、ファイターは短く「はい」と言って肯定する。しかし、その殺人犯とファイターになんの関係があるのだろうか。
そのことを聞くとファイターは悲しそうな顔をして首を横に振った。教えたくないということだろうから、これ以上聞くのはやめようとした。
その時、遠くの方から何か地響きのようなものが聞こえてきて、彼女達が立っている大地が揺れたような気がした。
「もしかしてガードナーさん達が化け物にあって戦ってるのかな」
「そうかもしれませんね。あの3人なら大丈夫かと……私たちは私たちで動きましょう」
ファイターのその言葉に二人は頷いて反応する。しかし、きな子はなぜだか嫌な予感がして今すぐにでもガードナー達に会いたいという気持ちになってきた。
しかし、前を歩く二人の姿を見ると、まぁいいかという気持ちになる。そして、慌ててきな子は二人を追いかけていったのであった。
◇◇◇◇◇
時間は少し遡る。きな子達と別れたガードナー達は途中、椅子に腰掛けて座っていた。ブレイカーが少し話をしようと提案したからだ。
「先日のランサーさんの件ですが……」
ブレイカーはそう切り出す。彼女の表情はとても悲痛なもので、そこまで思いつめていたのかと言いたくなるような顔だった。
ブレイカーは、その丁寧な言葉遣いと柔らかそうな物腰で、物騒な武器を持ってる割には皆に信頼を寄せられていた。そもそもこの武器を使ったところはほとんど見たことがない。
「……ランサーくんの件はとても辛く、そして悲しいものだった。キャスターくんもだ。この二人の犠牲を無駄にしないためにも私たちは今こそ一致団結をして、これ以上の犠牲を生まないようにしたい」
「うん。だからまぁ、まずはアーチャーをどうにかしないとね。彼女の単独行動はとてつもなく危ないから」
ガードナー達の言葉を聞いてブレイカーは嬉しそうに頷き続ける。そして、両手をパンと可愛らしく胸の前で叩きニコニコとしながら口を開ける。
「では、私はあなた達をぶち殺しますわね」
ブレイカーの突然の宣言。ガードナー達は彼女か冗談を言ったのかと思って口をぽかんと開ける。その瞬間、目の前にブレイカーの武器である巨大な棘のついた鉄球が飛んできた。
間一髪でそれを避けるガードナー。先程まで座っていた椅子は粉々に砕けていて、ガードナーはぞっと顔を青ざめる。
「な、なにをする……ブ、ブレイカーくん!!」
「うーん。失敗しましたわ……私ったらおバカさん」
そう言ってまたブレイカーは鉄球を振り回し、ガードナーの顔を狙う。ガードナーは慌てて自身の技を繰り返しながら、ガンナーの近くまで駆け寄る。
ブレイカーは変わらずくすくすと笑いながら、こちらを見ていた。しかし、いつか見たような彼女の面影はない。全くの別人と言われても信じてしまいそうだ。
「もう一度聞く。なぜこんなことを……?」
ガードナーがそう震えながらも聞くと、ブレイカーは笑みを止めて口を開けた。
「私、悪役が好きでして。もし悪役なら今やることと言ったらこの状況でのリーダー格を殺すことかな?と思いまして……」
ブレイカーはそういう。彼女の言葉を理解できないという表情でガードナーたちはきいていた。
「……君、もしかしてあの荒川京子……かな?」
「あら。よくご存知で。私はあの荒川京子ですわ。さて、無駄話は終わり……」
「まて!もう一つ聞きたいことがある!ランサーくんを殺したのは君か!?」
ガードナーの叫びを聞いて、ブレイカーはとても悲しい顔になり目を手で包む。よく見ると涙を流していて、とても悲しんでいるように見えた。
「ランサーさんは私が狙っておりましたのに!あぁ、誰が殺したのでしょう……私も殺した犯人を見つけてぶち殺して差し上げたいですわ……!!」
ブレイカーはそう言って泣き崩れる。それを見たガードナー達はゆっくりとその場を離れる為、後ずさりをし始める。
「……『グラビティ・ハンマー』」
ブレイカーがそう呟き、右手を地面につける。そうすると突然ぐらりと世界が揺れ始めた。
「……っ!?」
そしてブレイカーの言葉の後ガードナー達は何かに押しつぶされるように地面に体をぶつけてしまう。体を起き上がらせようにも自由がきかない。
「ぬっ、ぐぅ……!!な、に、を……!!」
「私の必殺技ですわ。使用できる回数は少ないですし、この技を発動中は動けませんが……まぁ、このまま押しつぶされてくださいな♡」
ブレイカーはそう言ってにこりと笑う。ガードナー達はどうにかして立ち上がろうとするが、そうするたびに内臓が潰れていく感覚に囚われて、口から大量の血を吐いてしまう。
その時ガードナーは自身の死が目の前に来ていることを悟った。死にたくない。そん感情が頭の中をぐるぐると回り始めた。
しかし、助かる方法はない。このまま死ぬまでこんな地獄のような苦しみを覚え続けなけれならないのだろうか。もし死ぬしても、こんな死に方は嫌だ。
「誰か、助けて……!!」
その時突然ブレイカーの攻撃がピタリと止まる。するとガードナー達の頭上を一本の矢が突き進んでいた。
それをブレイカーは弾く。ポキリと折れた矢は地面に落ち、ブレイカーは強く踏み潰して辺りを見渡す。
「……どこです?アーチャーさん。怖くないから出て来なさいな」
しかし、返答はない。どこかに隠れているのだろうか。ブレイカーの必殺技は使用できる回数はあまり多くない。それに使ってる間は動けないという制約もあり、どこにいるかわからない敵とはあまり相手をしたくはなかった。
ふと気づくと目の前からガードナー達の姿は消えていた。あの後すぐに逃げたのだろう。この一瞬でどこまで逃げたかわからないが、彼女は追いかける気にはならなかった。
そしてブレイカーはつまらなさそうにため息を吐いてその場からゆっくりと歩き始めた。
ブレイカーの姿が消えた後、突然パリンと割れるような音がして、ガードナーとガンナーは姿を現した。どうやらガードナーのガラスのような盾を使い反対側の景色を写して溶け込んでいたのだ。
「はぁ……はぁ……ナイス判断ガードナー。とりあえずすぐにこの場から動き出さないと……?ガードナー?」
その時初めてガンナーはガードナーの異変に気付く。別に死にかけているとかそういうものではないが、彼女の体は異様に震えていた。
そして顔から血の気が引いていき青く染まっていく。彼女は恐怖しているのだ。ブレイカーという目視が可能な『死』という存在が現れたことに気づき、恐怖に染められていく。
らしくもないガードナーを見たガンナーだが、彼女はそれを責める気にはならなかった。ただ、彼女の横に座って彼女が落ち着くのをまっていたのであった。
◇◇◇◇◇
「あ、あははは……やったわやったわやってやったわ……!!」
ガードナー達が戦っていたところからかなり遠くの場所でアーチャーはニヤニヤと笑っていた。彼女にとってブレイカーがガードナーを襲ったということはどうでもいい。
重要なのは今リーダー格のガードナー達を『助けた』という事実。それだけが一番大切で一番気にしなくてはいけないところだ。
アーチャーはスマホを確かめる。メールは1通も来てなくてそれはつまりガードナー達は無事だということを表している。
彼女達を助けたということはつまり、トップの命を救った自分が実質トップにいるようなものだ。と、アーチャーは勝手にそう考えていた。
「……ん?」
その時アーチャーはふとあることに気づく。キャスターが死んだ時のメールと、ランサーが死んだ時のメール。その2通に違和感を感じ改めて確認し始める。
そして、気づいた。最初は殺されたという文面しか読んでなかったが、よく読んでみるとおかしな点があった。
「どうして、キャスターが死んだ時とランサーが死んだ時の残り人数が『いっしょ』なのかしら……?」
彼女の疑問に返事をする存在は一つもなく、アーチャーはそれをただの打ち間違えだと考えた。
「まぁ、なんでもいいわ……どうせ、私が一番よ。私より強い魔法少女なんているわけないから……」
自分に言い聞かせるように彼女はそう何度も繰り返した。そして、ゆっくりと立ち上がり、あたりをキョロキョロと見渡しながら、歩き出し始めたのであった。
【ガードナー様よりメールが1通届きました】
【ガンナーだ。訳あってガードナーのスマホでメールを送っている。ガードナーからの伝言だ。自分のチーム以外のものとあまり関わろうとするな、だという訳。じゃ、絶対に死ぬんじゃないぞ】
【第4話 私はあなた達をぶち殺しますわね】