第11話
いつだったか。この世に生をうけたのは……
いつからだったかはわからない。一年前か、10年前か、もしかしたら、昨日なのかもしれない。
とにかく少女は目を覚ました。あたりには何もない。そんな殺風景なところに、彼女は立っていた。辺りには、誰のものかわからない赤い液体が飛び散っていた。
辺りをキョロキョロと見渡す少女の前に誰かが立っていた。顔はよく見えなかったが、それから聞こえる声で男性だと言うのはわかった。
「ふむ。やはり機械だと、化け物たちも手を出しません、か。これは次の企画に使えそうですね……持って帰りましょうか」
誰?そう声を出そうとしたが、なぜか声は出ない それどころか、だんだんと視界が暗くなっていく。
心から叫びたかった。助けてと。私をひとりにしないで。と。しかし、はて。一人にしないでとは言っても、誰と一緒だったのか。
彼女の脳裏に小さな影がポツンと浮かび上がる。それと同時に全ての意思が、消されてしまった。目を覚ますその時まで。
◇◇◇◇◇
……私は何を思い出していたのだろう。遠い記憶なのに、鮮明に覚えてる。けれど、影の正体は全くと言っていいほどわからない。
そういえばと、目の前に3人の少女がこちらを見ている図があることも思い出す。そうだ。私はさっき正体がバレてしまって、そしてーーー
「なんで、生きてるんですか……?」
彼女はシンガーか。なぜかセイバーの剣を持っているが……兎に角、彼女が質問を投げてくる。答えない意味もないので、ランサーは素早く口を開ける。
「私は、死んでません。何故なら、私はロボットですから」
「ロボット……?」
「はい。機械人形ーーー私は、与えられた役割をこなす、しがない ロボットです。ほら、腕だってこの通り」
そう言ってランサーは自分の腕を取り外してみせる。そして、手品師のようにタネも仕掛けもないと言いたげに3人にその腕を見せた。
「うふふ……ロボットなんですね。もしかして、ランサーってロボットじゃないとダメな決まりでもあります?」
「それはないかと。人間も何人もいますよ」
そう言うと、ブレイカーはつまらなそうに「あらそう」とつぶやいた。興味が消えたのだろうか、ブレイカーは空を見上げていた。
そんな中、一人の少女が立ち上がる。確かファイターという名前だったか。ランサーはそう思いながら、口を開け始めた彼女の言葉を待つ。
「質問なんですが……記録係。とはいったい……?」
それか。それは核心に迫り過ぎている。私の一存では答えることはできない。さぁどうするかと『上の者』に尋ねたら、秒で返信が返ってきた。
これは。少しだけためらうが、命令なら仕方ない。ランサーは息をゆっくりと息を吐いて、口を開けた。
「楽しい楽しいエンタテインメントです。世の中には需要があるんですよ……可愛い可愛い女の子の殺し合い」
◇◇◇◇◇
「ーーーは?」
鈴鹿は言葉を漏らした。楽しいエンタテインメントと、ランサーは言ったのか。つまり、この戦いは誰かに見られてる?
何故、誰、何処で?そんな事を鈴鹿は頭の中で整理しようとするが、答えは一つも出て来ない。
けれど、この戦いはランサーが裏で手を回していたという 事だろう。それくらいは、数秒で理解することはできた。
「……あらぁ?じゃ、私達の事は誰かが見ているのかしら?なんかの、番組か何か?」
「ええ。そうなりますね……私は、この番組を円滑に進めるためのスタッフです。えぇ。きつかったです」
「ランサーさんを殺したのは……?」
「私ですね。 というか我ながら、すぐにバレると思ったのですが……なかなかバレなくて、むしろ面白かったです」
ランサーは一つ一つ質問に答えていく。少しだけめんどくさそうな顔で、空を見上げてきた。
確かに。言われて見たらおかしな点はかなりある。それが全部ロボットだからというのでまとめていいのかは わからないが、これが現実。事実は小説よりも奇なりという事なのだろうか。
けれど、彼女は実質黒幕のような者。ならば、倒さないといけない。どちらにせよ願いを叶えるには、生き残るしかない。
鈴鹿と幸は、ランサーの方を向き構える。ランサーはため息をついて、槍を彼女達に向けた。
「うーん。こういう時は、どうすれば良いのやら……まぁでも悪役なら……こうしますわね」
ブレイカーがそう呟いた。それと同時に、手に持っているハンマーを振り、投げ飛ばした。それは真っ直ぐと『ファイター』の背中に向かって飛んでいく。
鈴鹿は間一髪それに気づき、ブレイカーのハンマー を弾き、距離をとる。前門のブレイカー。後門のランサーというわけか。そんな事を、ファイターはふと考えていた。
「おや。ブレイカーさんはてっきり私と対立するものかと……」
「いやいや、対立してますわよ。後でもちろん貴方をぶち殺します。だからほら、どうせみんなぶち殺すのが悪役なのだから シンガーさんもファイターさんもランサーさんも……ぶち殺しますわ」
ブレイカーはそう言って笑う。子供っぽいその顔は、今から友達と遊ぶ時のように見える。いや、ブレイカーにとってはそうなのだろう。遊ぶように、殺すのか。
「シンガーさん、どうしましょう……」
「……簡単。みんな、殺す。 それでいい……」
幸はそう言ってランサーに向かって駆け出していく。鈴鹿は彼女を追いかけようとしたが、後ろから強い視線を感じてしまった。
ゆっくりと振り向くと、そこには楽しそうにしているブレイカーがいた。鈴鹿は一瞬萎縮するが、すぐにあの時の目的を思い出す。
「…… ブレイカー。いや、荒川京子……」
「ええ、何ですか?えっと……ファイターさん?」
「仕切り直しだーーー!」
鈴鹿はブレイカーに向かって駆け出す。拳、蹴り、全ての攻撃を、彼女の命を削るためにぶつけていくが、ブレイカーはその全てを受け流していく。
片手が使えないはずなのに、 彼女は何故か鈴鹿以上に動けている気がしてしまう。それによる焦りが、全て鈴鹿の動きを阻害してることに、彼女は気づいてない。
だから、一発一発。弾かれるごとに、鈴鹿は彼女に押されていく。本当の悪魔を相手にした時、できるのはガタガタ震えることしかないのかーーー!
いいや、そんなはずはない。私は、悪魔を倒す。それが、人間の仕事だーーー
「はぁあぁああぁぁぁああぁぁ!!」
ゴギッ!!鈴鹿の拳がブレイカーの腹に突き刺さる。ブレイカーは口から血を出しながら、大きく吹き飛んでいく。
ゴロゴロと転がりながら、ブレイカーは鈴鹿から距離を取る。 彼女の顔は笑っている。反撃にあったと考えてないのか。いや、違う彼女はそういう人間ではない。反撃にあってしまったから笑うのではなく、反撃に合うから笑うのだ。
「いいですね……簡単に終わると、つまりませんですよね」
「うるさい……私は簡単には終われません……!!」
息を吐く。 ただ、それだけでいい。普段の私になれ。普段の私を演じろ。目の前にいるのものに、惑わされるな。
拳を構える。ただ、それだけでいい。倒せ。突破しろ。目の前にいるのは、仇。それ以上でもそれ以下でもない。
前を向け。ただ、それだけでいい。後ろを向くな。進め、進み続けろ。それが、私だ。だから、だから。
「…………」
「覚悟を決めた顔。ですわね。うふふふ。よろしい……さぁ、かかってきなさい?」
だから、走れーーー!
◇◇◇◇◇
ガキン
金属と金属がぶつかり合う音が辺りに響く。槍と剣。二つの得物がお互いを斬り捨てんとするように、二重奏を奏でていた。
幸は深く踏み込んで、ランサーの懐に入ろうとするが、折れた剣では槍のリーチに勝てるわけがなく、踏み込む前に弾かれる。
「くっ……!!」
「あまり、暇じゃないのですけど……諦めてくれません?」
「諦めたら、どうせ死ぬ……なら、ここで倒す……!!」
幸は深く息を吐く。ランサーも参加者である以上、いつか倒さないといえない相手であり、いつか倒されてしまうかもしれない相手だ。
彼女の技は、射程が長い。つまり、闇討ちされる危険性が 高く、尚且つほぼ即死級の威力だ。それは、目の前で見たことがあり、体に染み付いている。
逃げるわけにもいかない。逃すわけにもいかない。だから、ここで倒すしかない。幸は覚悟を決めるために、折れた剣を握る手に力を込めた。
ザッ。足を後ろに引き、構えを取る。後ろできな子の戦いを見たとき、 なんとなく覚えた構え。それをすると、彼女に応援されてるような気がして、心が軽くなる。
一歩、踏み込み、そして駆け出す。目の前にいる敵に向かってただ、剣を突き刺そうとした。
ランサーはそれを見ても冷静に対処をした。剣先を槍で弾き、そのまま幸に向かって槍を突き刺した。それは真っ直ぐと 彼女の右肩を貫き、赤い血をあたりに飛ばす。
それを化粧としながら、ランサーは槍を振り回した。それは、幸の体に痕跡を残していく。
「くぅ……!!」
「まだやりますか?一旦引けば、しばらくは延命できますよ……?」
「そういうわけには、行かない。願いを、叶えないといけないから……!!」
「願い願い願い……そればかりですね。本当のことも知らないで……」
「本当のこと……?」
「あ、いや。これは失言でした。私もまだまだです、ね」
ランサーはそう言って体勢を低くする。その構えは、あの時の構え。幸は危機を察して、後ろに大きく飛んだ。
けれど、ランサーの必殺技の射程は おそらく彼女の把握できる範囲。つまり、視線の先にいる限り、避けられないーーー!
「じゃ、こうーーー!」
幸はそう言って、逃げる足を逆にしてランサーのもとに走る。あまりにも危険な攻撃は、自分に危害が加わる距離じゃ、発動できない。
ランサーは眼前に迫る幸の顔を見て、フッと小さく 笑った。そして、その構えのまま槍をまっすぐ突き刺した。
広がる爆発音。それだけで、幸の体に多大なるダメージが起きたことはわかり、さらにその衝撃は、ランサーの体にも傷が入っていく。それを見た幸は痛みと困惑で声を漏らす。
「なっ、がぁ……!?」
「私、ロボットですよ。多少のダメージなら無視します。この距離でグングニルは……」
死の一撃。そんなことはわかっている。幸の体に走る電撃と痛み。それは、幸に死を悟らせる。
「ぬっぐ……あぁああぁぁぁああ!!!」
幸は叫んだ。痛み、苦しみ。これは、あの子も感じたものなのだろうか?だったら、耐えないといけない。絶えてはいけない。
耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ
死ぬな死ぬな死ぬな死ぬな死ぬな
頭の中で繰り返すその言葉。幸は目に涙を溜めながら、槍をつかんだ。その槍からも雷に打たれたような衝撃が走る。
けれど、逃げない。逆に向かい入れてやる。幸は、そう思い心の中の思いを大声で叫び続けた。
肩に刺さっていた槍が勢いよく下に降ろされた。吹き飛んでいく、自分の肩を見ながら、幸は震える体に鞭を打つのには限界を感じていた。
止まっちゃいけない。わかってるのに、足は動かない。あぁ、ここで終わるのか。そんなことを考えながら、幸はランサーの方を見ていた。
「さて、そろそろ終わりにしましょーーー」
そこでランサーの言葉が途切れる。幸は霞んでいく視線でランサーを見ると、彼女の顔には深々とハンマーが突き刺さっていた。
「な、なにをーーー?」
「気が変わった……訳じゃありません。ただ、最初から私はあなたを殺したかったのですよ」
足音が聞こえてくる。ブレイカーが鈴鹿の首根っこを掴みながら、こっちに歩いてきた。そして、ゴミを捨てるように鈴鹿を投げて、ランサーに近づく。
「んなっ、なぜ……!!」
「強いていうなら、最初に殺そうとした相手。だからでしょうか?……ふふ。恨まないでくださいね」
ブレイカーの声とランサーの焦ったような声。その二つが聞こえたが、幸の体は動かなかった。
そのまま、彼女は深い意識の底に落ちていく。次に眼を覚ます時にはもう、死んでるのかもしれない。そんなことを考えながら。
【メールが一通届きました】
【ブレイカーとランサーが戦い、ブレイカーが勝ち、ランサーが負けました。残りの魔法少女は03人です】
【第十一話 楽しい楽しいエンタティメントです】




