第1話
【おめでとうございます!貴方は今回の魔法少女の一人に選ばれました!!】
自分の部屋の中で、スマホに表示されるそんなふざけている文章を見ながら、ポニーテールの少女はため息をつく。
ベッドの上に転がりながら、そのメール文を下にスライドするが、途中で嫌になり戻るボタンをタップした。
彼女は何の変哲も無いセーラー服を着ており、そして白いポニーテールを揺らしている。
この少女は『園崎きな子』と言った。年齢は14で、今は夏休みゆえに平日なのに家にいる。セーラー服なのは、これなら誰にも文句を言われないからだ。
「……このメールがきた時点で、私はもう逃げられないのかな」
きな子はそう言って、一つのアプリを表示する。そして流れるようにそのアプリをタップしる。
そうすると、彼女の体が光り始めて、そして消えていく。そこに残されたのは、少しだけ暖かくなっているベッドだけだった。
◇◇◇◇◇
【ーーー魔法少女システム『セイバー』起動しますーーー】
◇◇◇◇◇◇
「よっ、と」
まるで一昔前の番長のような格好をし、巨大な剣を携えた少女がどこかからか現れた。その少女は辺りをキョロキョロと見渡して、タンっと窓から飛び降りる。
カランコロンと、下駄を鳴らしながら彼女はしばらく歩いていく。周りの景色は、いつもの町並みと変わらないが、人の気配は全くない。そう考えてたら、目の前に突然少女が飛び出してきて、こちらに気づいて手を軽くあげる。
「やぁ、セイバーくんじゃないか!今日も化け物退治か?精が出るな!」
「ん、こんにちはガードナーさん」
ガードナーと呼ばれた少女は鎧と兜をかぶり、さながら中世の戦士のようであった。
彼女たち2人は姿こそ違えど、同じ魔法少女である。そして、セイバーの正体は先程までベッドで寝ていたきな子その本人であり、さらに今この場所はアンダーワールドという別世界である。
「アンダーワールドにいる化け物を倒さないと、現実世界に影響がある……うん。素晴らしい心がけだ!」
「ガードナーさんも……戦う力が全くないのに、ここにきて……最悪殺されてしまうかもしれないのに」
きな子のその言葉を聞いてガードナーは顔を曇らせるが、すぐにきな子の肩を叩き、ニカッと笑う。
「誰かに襲われた時はお互いに身を守ろうではないか!私にくる災難を君がその剣で振り払い、君にくる災難は私が身を呈してでも守りきってみせる!では共に行こう!」
「えっ……あ、はい」
成り行きでガードナ共に行動することになって、きな子は心の中でため息をつく。しかし、もし一歩歩いた瞬間に死ぬかもしれないこの世界で、同行者は多いほうがいいかもしれない。
きな子は改めてガードナーの後ろ姿をじっと見る。彼女は、正義感も責任感も強く、この世界では一番まともな人間に見える。
(まるで、主人公みたい……私にはなれないな)
「ん?どうかしたか?」
声が漏れてたかと思い、きな子は慌てて何でもないと呟し、ガードナーは少し不思議そうな顔をする。すると突然、ガードナーが立ち止まった。
彼女の視線の先には人間の形をしてはいるが、黒くて、まるで巨大な影のようなものがウロウロと歩いてるのが視線に入る。
「……居ましたね。どうします?」
「どうしたもこうしたもないっ!準備はいいかセイバーくんっ!」
「えっ、あ、待ってください!」
ガードナーが走り出したのをみてきな子は慌てな彼女を追いかける。その足音を聞いたからか、化け物がこちらに気づいた。
化け物の黒い目は、とても深くて底がないように見えた。その目を見るのは、きな子は未だになれない。
「でいやぁ!!」
きな子は化け物に向かって剣を振り下ろす。重く、鋭い一撃は化け物の片腕を切り落とすことに成功する。
しかし、化け物は残った方の腕できな子の顔を狙う。命を刈り取らんと真っ直ぐと突き出されて、きな子は避けれることができない。
「セイバーくんはやらせんぞ!【絶対防御壁】!」
ガードナーの声が聞こえたかと思うと、きな子と化け物の間に薄く、透明な壁がせり上がってきた。それは化け物の攻撃を受け止めて、パリンとガラスのように割れる。
壁の破片が地面に落ちていき、あたりに散らばる。きな子はそれをみて、一度後ろに大きく飛んで距離をとる。
「助かりました、ガードナーさん」
「なぁに。セイバーくんが倒れたら他の皆に示しがつかんからな……まだいけるか?」
「勿論です。倒しましょう、あの化け物を」
きな子はそう言って息を吐く。そして、ダンっと大きく音を出して駆け出す。今度は化け物の腕ではなく、体全身を狙って。
化け物も黙ってやられるわけがない。応戦しようと腕を突き出すが、それもまたガードナーの魔法によってきな子に当たることはなかった。
「えいやぁぁぁあぁあ!」
自分に何かを言い聞かせるようにきな子は叫んで、一刀両断する。化け物はきな子とは違い何も声を上げることなく、煙のように消えていった。
「ふぅ……終わりましたね、ガードナーさん」
きな子がそういってガードナーの方に歩いて行く。しかしそのとき、ガードナーが大声で「セイバー!!」と叫ぶ。きな子はハッとして後ろを振り向いた。
「なっ……もういっーーー!?」
後ろに影があった。きな子がそれを認識するのと同時にその影の化け物はきな子を殴り飛ばす。
体を地面に何度もぶつけながら、きな子は転がって行く。慌てて立ち上がるがもうすでに目の前に化け物は迫ってきていて、きな子は目を瞑る。
(い、いや……!!)
死というものが、きな子の目の前に立っている。それだけで14歳の幼い彼女の戦意を消すのには十分すぎるほどだった。
しかし、しばらく経っても化け物の攻撃はきな子には当たらなかった。彼女は恐る恐る目を開けて見ると、そこには煙のように消えて行く化け物と、その近くに杖を構えた少女が立っていた。
「ちょいちょい。もうちょっとあたりに気を配りなって。じゃないと死んじゃうよ?」
「は、はい……」
杖を持っている少女は、きな子のその言葉に満足したように頷いて、コツンと軽くきな子の頭を杖で叩いた。
「セイバーくん無事だったか!?す、すまない。私がいながら……おや、君は……誰かと思えばキャスターくんじゃないか。君が助けてくれたのか?」
「そうよ。まったく、貴女がいるのに、なんと情けない!」
「うっ、返す言葉がない……って、さっきなんか変なルビが振られたような気がするのだが」
ガードナーがそういうがキャスターはそんな言葉を聞いてないというように、ダンっと彼女に詰め寄る。そして、ガードナーの耳元に口を近づけた。
「もし私が助けなかったら今頃彼女は死んでるわよ?そして私は命の恩人……何をすればいいかわかる?」
「ぬ、ぬぅ……しかし、私ももうあまり余裕がなくて……いや。そんなことを言える立場ではないか……わかった。今回の件は私に責任がある。今度、持ってくるよ」
「まいどあり〜♪」
キャスターはそう言って手を振りながらどこかに去っていく。きな子はチラリとガードナーの方を見る。彼女は、ため息を吐いていたが、見られてることに気づくと咳払いを一つして、きな子に右手を差し出す。
そして、ガードナーは少し下をうつむきながら、何かボソボソと言葉を発していた。それを見てきな子はその右手を握り、にこりと笑う。
「もしかしたら気にしてるのかもしれませんけど、今私は生きてます。だから、大丈夫です」
「そうか……うん。ありがとうセイバーくん!お詫びに同盟を……あ、いや。すまない。同盟は無理だった……」
「ええ。確か、ガンナーさんと結んでるんですよね?ガードナーさん、あの子のこと大好きですものね」
きな子がそういうとガードナーは照れたような顔をして、モゴモゴと何か口走っていた。しかしすぐに、こほん。と咳払いをしてきな子の方を見る。
「今日は、付き合ってくれてありがとう。こんな日がずっと続けばいいのだが……」
ガードナーはそのとき、とても暗い顔をした。きな子はそれを見たくないというように目をそらした。
「……あ、私、もう帰ります」
きな子はそう言って逃げるようにその場を後にする。後ろからガードナーがまだお礼を言う声が聞こえて、きな子は少しだけ、ホッとした。
◇◇◇◇◇
いつからだろう。彼女が魔法少女として活動を始めたのは。確か、この前の冬休みの時だったような気がする。
最初はいたずらメールと思えたその内容は、いたずらにしてはしっかりとした文章であった。内容は
1.貴方は願いを叶えるために殺しあう魔法少女に選ばれた。
2.魔法少女は「セイバー」「ランサー」「アーチャー」「ファイター」「ガンナー」「ブレイカー」六人の戦う魔法少女。そして「シンガー」「ガードナー」「キャスター」三人の補助の魔法少女。合計九人いる。
3.シンガー達三人は、戦う魔法少女と同盟を結べ、結んで勝ち残った場合願いは二つ叶えられる。
4.戦う所は現実世界ではなく、アンダーワールドという異世界。そこにはアプリで自由に行ける。
5.戦いで死ねば殺された魔法少女と、殺した魔法少女の名前を記したメールを参加者全てに送信する。
6.アンダーワールドには化け物がおり、彼らを倒さないと現実世界に悪影響を及ぼして行く。
……と、だいたいこのようなことが書かれていた。いたずらかと思ったそのメールは悪質なことにいたずらではなくて、現実であった。
これから起こるかもしれない殺し合い。そんなことを思うときな子はとても恐ろしく、そして今すぐ逃げ出したい気持ちになった。そんな時、一通のメールが届いた。
【シンガーが不慮の事故で死亡しました。あまりにも早いため、次のシンガーを探させていただきます。なので、誠に残念ながら殺し合いはしばらく中断とさせていただきます】
そのメールを見てきな子はホッとした。シンガーには悪いが、今すぐに死ぬということはなくなったのだ。それだけで十分すぎるほどきな子は安心した。
それからアンダーワールドに行くと、同じような考えを持った人がたくさんいた。皆、何も言わなかったが、今の現状に満足しようとしていたのだ。
だから、きな子もこのままシンガーが決まらずに永遠に時間が経って欲しいと願った。しかし今ならこう言える。きっとシンガーが来ても誰も殺し合いをしようとする魔法少女なんていないはずだ。と。
しかし、実際はそう思わないと気が狂いそうなだけであるが、きな子はわざと気づかないふりをしていただけであった。
◇◇◇◇◇
「寝てた……」
ベッドの上で重い上体を起こして、瞼をこすりながらきな子は呟く。アンダーワールドに行くと、なぜか体が妙に疲れる。
今からどうしようかと、窓から吹き込んでくる風に質問してみるが、答えは帰ってこなかった。
その時、遠慮がちにドアをノックする音が聞こえて、1人の男性が顔をのぞかせる。この男性はきな子の叔父にあたる人物で、人はいいのだが何故かオネェ口調で喋る。理由は尋ねたことがあるが、答えははぐらかされた。
「きな子ちゃん。お友達きてるわよ」
「……あー。忘れてました。すいません、すぐにおります」
そういえば今日は友人と遊ぶ約束をしていた。もしかしたら怒られるかもなぁと思いながら、きな子はベッドの上から降りる。すると、床に足をつけた瞬間、何かが飛びかかってきた。
バフン。大きく音を立ててベッドに倒れこむきな子と何か。しかし、こんな破天荒なことをするのは1人しか知らない。きな子は苦笑しつつ、飛び込んできた何かに声をかけた。
「もう……危ないよ、幸ちゃん」
幸と呼ばれた少女は、黄色い紙を揺らしながら、ニコッと笑う。そして、きな子の頭を軽く小突いてから、くちをあけた。
「もう、遅いよきな子ちゃん!まさか、今日遊びに行くの忘れてたの?」
「あはは……ごめん、忘れてたよ……許してくれない?」
「んー夏休みの宿題見せてくれたら許してあげる!」
「えー……わかった。それで許してくれるなら安いよ」
そんなやりとりをしていたせいか、叔父は彼女らに気を利かせていつのまにかいなくなっていた。
幸は、きな子と大親友といってもいい間柄で、この近辺に引っ越してきて初めてきな子に声をかけたのは幸であった。そこから2人は仲良くなっていった。
(……そういえばなんで私はここに引っ越してきたんだろう。何か、理由があったのかなぁ……)
きな子はそんなことを考えていたが、幸はそんなの御構い無しというように、手をきな子に突き出した。その手を見て、きな子は夏休みの宿題をポンっとおいた。
「ありがとー!これでようやく宿題を進めれるよ!」
まだやってなかったのか。と、きな子は突っ込もうとしたが、その時幸のスマホが鳴り響く。
幸は少しめんどくさそうな顔をしてスマホの画面を見た。どうやらメールが来ていたらしいが、すぐに顔を傾げてそのメールを読んでいた。
「んー?ねぇ、きな子ちゃん。このメールなんだと思うー?」
幸はそう言ってきな子にメールを見せる。だがその時、きな子はそのメールを読んではいけないと、感じてしまった。だが、思う心とは裏腹に、きな子はそのメールに目が吸い寄せられて行く。
メールの全文を読み終わり、きな子は小さな乾いた笑みを零した。そして、それと同時にきな子のスマホが大きな音を立ててなり、メールが1通届く。
きな子はそのメールを読んで、どさりと膝から崩れ落ちる。日常というのは、こうも突然崩れはるのか。と、きな子は感じていた。
あぁーーー始まるのかーーー
それを理解した瞬間、きな子は猛烈な吐き気に襲われた。そして、きな子は大粒の脂汗をかいてうずくまる。それを見た幸は慌てて駆け寄りきな子に大丈夫かと尋ねる。
きな子は弱々しく笑ったのちに、自分の意識が消えて行くのを覚えた。そのまま、彼女はパタリと倒れてしまった。
風はいつのまにか激しく吹いていて、窓を壊してしまうような勢いであり、その音だけだ彼女の部屋に虚しく響いていた。
【メールが2通届きました】
【大林 幸様。貴方は審査の結果今回の魔法少女の1人として選ばれました】
【シンガーが決まったため明日より殺し合いを再開とさせていただきます】
第一話 【貴方は今回の魔法少女の一人に選ばれました!!】