005 それぞれの思い
前日宿へ帰る前に奴隷の存在を知った工藤は自分に必要な存在かも知れないと思い奴隷の館を訪れる事にした。其処で見かけた五人の中に彼が求める人材は見つかるのだろうか?重い口を開いて館の主『ベルン』が最後の女性の話を語り出す。
「マギーはダークエルフです。希少性がかなり高く前衛・後衛とオールラウンドで戦えます。冒険者としての経験も豊富です通常ですと1万$は下りません。ですが彼女は少々訳アリでして出来れば、この町以外での活躍を希望してる次第です」
「その訳は?」
「実は昨日少々問題がありまして……お気付きでしょうが現在彼女は怪我を負って居ます。完治は間違いないのですが、少々貴族様の不評を買ってしまい、昨夜当館に払い戻されたのです」
「あぁ~昨日の騒ぎの女性でしたか。道理で見た記憶が在ったんだ」
「ご存知でしたか。決して悪い逸材では無いのです。昨日の件も事故なのですが、今回相手が悪うございました。彼女の主人も手放す気は無かったのですが、難癖を付けた方が上位爵で逆らえないのです。万一この町で彼女を連れているのを見られてしまいますとイザコザが在るやもしれません」
そんな問題を抱えた人を押し付けるのかと思ったが、工藤自身がこの町を出る予定だから問題は起こらないのか。曲がりなりにも工藤は勇者一行の知り合いで在り王家とも顔繋がりは在る。虎の威を借る狐では無いが難癖は回避できるのではないかと彼は思った。マギーの持つ経験は、工藤に有り余る程魅力的に思える。
「彼女の価格は如何程ですか?」
「魔法で完治するのに三日。その後は出来るだけ王都を離れて頂く条件を飲んで下されば……1千$金貨10枚で如何でしょう!?」」
一瞬自分の耳を疑った。再度確認しても1千$に間違いは無い。自分が治療すれば、神聖魔法の訓練にも繋がる。今日は下見のツモリだったがコレは天啓なのではとさえ工藤は思えた。
「初級ですが神聖魔法が使えます。彼女の手当てを私がしても構いませんか?」
「それはマギーを引き取ると言う事でしょうか?」
「言葉があべこべでしたね。ええ。彼女の同意が得られるのであれば、そうしたい。治療は私でも宜しいか?」
「ふふっ。実に面白い事を言われる方です。治療は一向に構いません。此方としても有難い話です。ではマギーを呼び寄せる事にしましょう」
呼び鈴を鳴らし店員を呼び寄せマギーを入室させた。怪我を負ってる彼女に何度も足を運ばせたのは忍びないが、コレも縁だ少し我慢して貰う他無かった。
「マギー。此方はお前を気に入って下さった『クドウ様』だ。偶然にも昨日の出来事をご覧に成ってたそうだよ。それでも引き取るそうだ有難い話だと思わないか」
ベルンの言葉にハッとしたマギーが初めて工藤の顔を見詰た。何かを訴える様な目付きの彼女だったが感情を押し殺し小さな声で工藤に発する。
「心得不足の者です。それでも本当に宜しいのでしょう?」
「アレは事故だと聞いてる。事故に遭った家族には不憫だと思うが、君が責任の全てを追うのも如何なものかと俺は思う。経験豊かな君に教えを請いながら旅をしたいと思ってるのだが、どうだろうか?」
工藤の言葉に戸惑いながらマギーはベルンの様子を伺って居る。ベルンは万遍な笑みでソレを返す。アレ?自分は可笑しなことを言ったのだろうか!?と工藤は自分の台詞を振り返ってみた。
「『クドウ様』おひとつ忠告致しましょう。この世界の人間は決して奴隷の者に、お伺いは立てないモノです。例え自国の王族であってもです。一度奴隷の身と成れば、その身分が回復されるまで、どんな者でも奴隷は奴隷として扱われるモノなのですよ。それがこの世界に生まれた者の定めで御座います」
「あぁ~……成程。ベルンさんはいつから気付いてました?」
「正直に申しますと最初からで御座います」
どの辺りと考えたが無駄だと感じた工藤は素直に白旗を上げる他無い。根本的な考えの違いは簡単に埋まらないと言う事だ。そう考えだすとマギーを選ぶ確率が高いと初めからベルンは思ったのかもしれない。後の四人は本当の後学の意味としての兼ね合いが高いんだと工藤は悟った。
一人取り残されたマギーだが、説明は後でも構わないだろう。其れより彼女の傷を何処まで治せるかがカギだ。
「マギー。クドウ様は神聖魔法をお使い出来るそうだ。お前の傷もご自分で直されたいとの事だから有難く受けると良い」
突然ベルン氏は、マギーに告げると後はお願いしますと部屋から退出した。工藤は初めて使う魔法に戸惑う中、マギーは頭を下げると徐に肌着を自身の足元に脱ぎ棄て褐色の肌を彼の目の前に晒す。
健康的な小麦肌のキャンペーンガールよりも綺麗に思えたマギーの身体は曲線美が醸し出す芸術品の様だ。パッチリとした目元にクッキリとした二重。グレーな瞳が工藤を見詰める。銀色の髪に鼻筋の通った均整の取れた顔。片手では余る胸の膨らみには綺麗な桃色が際立った。鋭いS時ラインは女性特有の柔らかさを映し出し、申し訳ない程度に髪の毛と同じ銀色の茂みが視界に入って来た。長くて細い手足はモデル並みのしなやかさが男としての工藤を迷わせた。だからこそ、マギーの身体全身に走る傷跡が痛々しい……。
「宜しくお願い致します」
「あぁ……うん。何分初めて何で巧く行かなかったら許してくれ」
彼女の言葉で我に返った工藤は前置きをしながら両手を彼女に向けると念じる様に頭の中で呪文を唱え出す。何かがごっそりと抜け出た感覚が工藤を襲うが、じんわりと彼の両手の掌に集まるのが感じられた。
「くっ!これが癒しの力か……」
初めは小さく、そして次第に大きく感じる何かが光を放ちだし軈てマギーの全身を包み込んだ。
「……あぁ……」
執務室が光で満たされるとマギーから何とも言えない声が漏れた……そして光がゆっくりと収まると傷一つ無いマギーの姿が其処には在った。
コンコンとノックが鳴り響くとマギーは慌てて肌着を着込んだ。正直彼女の裸体を、もっと眺めていたいと工藤は思ったが此処は他人の執務室。致し方無いと諦める他無い。
「どうぞ」
工藤の返事に合わせてベルンが再び部屋を訪れて魔法の成果を確かめた。
「コレは凄い」
「ハイ。私も今迄何度も『ヒール』を受けましたが、此処まで強力で心温まるのは初めてです。御主人様は有力な回復師様なのですね」
マギーの言葉に工藤とベルンがフフッと笑って答えた。
傷は癒しても失った体力までは回復せず、疲れているマギーをソファーに座らせたまま奴隷契約を交わす。
「コレにて契約は終了しました。おめでとうございます。クドウ様は初めての奴隷購入で御座いますよね!?」
然もありん。此処へは後学の為に訪れた事を忘れる筈が無いだろうと彼を見詰るとベルンはニヤリと笑い言葉を続ける。
「今回限りでは御座いますが、此方の品々を当館から御贈りさせて頂きます」
そう言って差し出されたのは黒色に染められた革鎧の一式と細剣。仕立ての良い服が数着だった。異世界人の工藤が見ても総額金貨20枚以上の価値は在るだろう……コレでは契約に払った金貨より高いと工藤は思ったが、これらの品がベルンでは無く前の主人からの品なのではと感じた。
「有難く受け取らせて頂きます。マギー此処を出る際にはこれらを纏うと良いよ」
「後、コレもお納めください」
差し出されたのは頭と顔を隠す様な生地だ。アラブ系の女性が付けるニカーブと似たモノ。多分コレがベルンからの贈り物だ。そして意味する所は貴族から知られない……為かと工藤は理解した。
如何でしたか?