004 奴隷商
本日の二話目です
異世界三日目の朝を向えた。昨日買った魔法の巻物は全部で五つ。回復用に『神聖魔法・初級』付帯効果の為の『促進・初級』旅のお供に『鑑定・初級』と『気配・初級』それと護身用攻撃に『土属性・初級』それとプレゼントされた『生活魔法・初級』。身に付けた魔法のお蔭か今朝は頗る調子が良い。何か良い事が在りそうな気分と成る工藤である。
「さて、日用雑貨を買う予定だけど奴隷持つのもアリだよな」
元の世界で奴隷と言えばイメージが悪い。だが、知識が無いままこの世界で生活するのには分が悪い。工藤にとって奴隷制度は有難い制度なのかもしれない。
自分の存在を隠す。この世界の理を惜しげも無く学べる。生活の為のパートナー。要は接し方次第で悪にも成れば善にも成る。一方的な考えだが、双方に信頼関係が結べた後ならば、解放も吝かでは無いと考える辺りが彼らしい思いなのだろう。
「よし!日用雑貨の買い出しは後回しだ!先ずは奴隷商を覗くとしよう」
行動は決まった。念の為、宿の主に奴隷の扱いを訪ねると特に規定は無い。好きしろとの事だ。万一購入しても問題は無い事が判った工藤である。
購入を視野に入れるモノの、おいそれと奴隷商は何処だとも聞けず、彼は館を探す事に苦労した。散々町を散策し館にたどり着いたのは陽がかなり真上に近付いた頃だった。
「訊ねるが此処は奴隷商で間違いないだろうか?」
館の前には強面の店員が一人立っていた。恐る恐る尋ねると強面の店員が工藤を品定めをするかの様に眺めた後、『そうです』と返して来た。
「後学の為に少し店内を覗きたいのだが宜しいか?」
「どうぞ」
店員と言うより用心棒っぽい。オマケに口数少なくて怖い感じだ。
「お客様お一人ご案内です」
ドスの効いた低い声が唸る。すると奥から身なりの良い男性が工藤の前に現れた。
「ようこそ御出で下さいました。館の主『ベルン』でございます」
「私は工藤と居ます。後学の為にお邪魔しました。少々奴隷売買に付いてご教授願えますか」
「構いませんよ。お客様の様に知識を得て奴隷を購入と成れば、あの者達も救われる事でしょう。ささっ!どうぞ奥の部屋へ」
抱いていたイメージは暗くて悪質な店内だが、実際は明るい感じの店内に掃除が行き届いた雰囲気の店構えである。良く言えば高級ブティックに見えなくも無い。
「それで、お客様は奴隷の購入は初めてですか?」
「ですね。と言うか制度自体に詳しくは有りません」
工藤の言葉に一瞬館の主は顔色を変えるが、工藤は気付きもしない。
奴隷とは終身雇用の一種で問題なのは契約内容が曖昧なのだ。契約に保証と義務が確立していない事が問題なのだろう。つまり軽作業と言って契約を交わしても、実際は重労働だったとしても奴隷側から苦情は聞き入れられない。家政婦と契約しても、実際は性奴隷でもだ……これは主観の問題である。特に主人側の判断で如何とでも言い逃れが出来るからだ。当然売り手側である奴隷もその事を理解しているから問題にもならないのが実情らしい。
ただ、絶対的に不利なのが奴隷側なのは間違いない。それでも制度自体が廃止に成らないのは、この世界が抱える問題が根深いのだろう。
「それで、お客様はどの様な条件をお求めですか?」
「出来れば、物知りで戦闘力も有るのが望ましいですね」
「他にご希望は?」
「宿暮らしですが、近々旅に出るでツモリです。旅慣れた方が良いですね」
「そうなりますと……冒険者上りがお薦めでしょうね。御予算は?」
「一番は其れでしょうか!?正直私では見当も付かないのですが……」
「では、後学の為に私が見繕ってみましょう。後に価格とアドバイスを告げるで宜しいですか?」
「其れは有難い。是非お願いします」
一旦一人部屋に取り残され工藤は心許無く茶を啜る。やがて部屋にノックが響くと主が数人の人影と共に戻って来た。
屈強な身体を持つ男の名は『マイケル』20歳。やや顔が出っ張って居る。頭の先から肩に掛けて青い毛が繋がる様に生えて居た。獣人族・人狼族の戦士。力こぶを自慢しパワーを工藤に見せつけている。
カールヘアーの金髪女性の名は『リンダ』歳は19歳。色白で痩せ細った身体だ。大陸の中央に在った亡国の魔導士。深々と頭を下げ従順な態度を示して来た。
褐色肌に銀色の髪はショートヘアーにカットした女性の名は『マギー』19歳。体の彼方此方に生々しい傷跡が見え隠れする。両耳が長く思えた。手足が長く女性らしいラインが目立つだけに傷が痛々しい。剣と魔法を使えるオールマイティーが売りらしいが、控えめな挨拶だけだった。
少々幼過ぎないかと思える少女の名は『フルフル』はドワーフの娘だと言われた。コレでも立派な成人女性で驚きの23歳らしく力自慢が売りらしく、愛くるしさをアピールして見せる。
視線が一番熱かったのが、頭の上にピコピコと動く耳とクネクネ動く尻尾を持つ女性は『アイン』獣人族・人猫族の女性は機敏性が高く攻撃力が在るのが自慢らしいが、気分屋な性格が多いらしい。
と五人の奴隷を紹介されたが正直どんな言葉が適切なのかも浮かばなかった。何故なら工藤が描いていた奴隷とは掛離れていたからだ。誰もが前向きで工藤に売り込みを掛けて来たのは何故だろうと彼は考える。
一旦五人を部屋から退出させると再び館の主『ベルン』と会話を交わす事と成る。
「獣人族は力自慢が多いですので、戦闘には打って付でしょう。但し融通が利かないモノや気分やが多いのも事実です。ですので選ぶとしたら人狼族もしくは人犬族を選ぶのがお薦めです」
「彼は確か人狼族でしたね」
「他にも獣人族は居ますが、お薦めは彼です。価格は5万$金貨五十枚です」
男性で戦闘能力が高いのは好材料だ。後は金貨五十枚をどう判断するかだ。
「リンダは数少ない魔導士です。亡国で魔導部隊に配属と同時に敗戦と成り此方に着た次第ですので実戦経験は在りません。風属性持ちは買いですが、前衛が居なければ危ぶまれる所かもしれません。価格は10万2千$金貨百二十枚と成ります」
魔法を教わるならばリンダは買いなのか?工藤が目指すのが魔導士って訳でも無ければ、資金も無い。今回はパスだ。
「ドワーフをお求めなら女性オンリーでしょう。フルフルは力自慢に加えて、あの愛くるしさは買いでしょう。武器や防具のメンテナンスも万全となります。経験を積めば鍛冶場を任せてみるのも一興かと思います。七万$金貨七十枚です」
独り飛ばされた気もするが、まぁ~良い明らかに訳アリな感じだ。それにしても、この世界ではロリは合法なのか!?否、実際彼女は成人なんだしロリでは無いのだ。それでも疑似ロリとして人気が高いと言う事か……恐るべし異世界。
馬鹿な考えは置いておいて鍛冶場経営か……視野には無かったが有りなのかもしれないが、今の現状では少し資金面で厳しい。
「人猫族のアインは、ただ一言床上手で御座います。戦闘能力は獣人ですので申し分ありません。問題は気分屋が過ぎる点ですが、それを上回る程の愛情が強い種族と言われています。価格は5万$金貨五十枚です」
雅かの台詞が飛び込んで来た。まぁ女性が多かった事からそれも在るんだとは思っていたが、売りが其れだとは驚きだ。工藤は聖人君子では無い。確かに熱い視線も悪い気もしなかった。だけれども、それで良いのか!?職も決まって無い内から溺れるのもどうかと思う。今回は泣く泣く諦める方が無難だろう。
そして一人説明が残って居た女性に関して館の主『ベルン』は重い口を開き彼女の話を工藤に語ったのだ。
如何でしたか?