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003 買い物

本日二話投稿予定

 道端を歩くのに腰に剣をぶら下げても此処では罪に成らない。異世界では銃刀法違反なんて事は無いのだ。逆に護身用の武器や鎧を揃えないのは不用心であり怠慢とされた。

で、工藤が辿り着いたのは一軒の武器屋である。巻物屋と違って此方は店の奥からトンチンカンと活気のある音がさっきから響いていた。つまり工房兼店舗なのだ。

町には各地から集めた品を販売するセレクトショップと工房を構えたオリジナルブランド店の二種類が存在する。何方も特色はあるが、前者はどちらかと言えば有名ブランドで後者は実用者向けのショップと言う所だろうか。当然工藤は資金面に加えて素人なのだから後者である工房兼店舗なこの店へと足を運んだのだ。


「刃渡りはコレ位で、柄の長さを加えてコレと同じ位のって有ります?」

「特殊な形だの?何でそんな物が欲しんじゃ?」


 工藤とやり取りをしているのは、店主であり親方。そして彼が望んだ物は槍だ。


「剣は腕が必要と聞きます。それに斬ると言うより叩くに近いですよね!?」

「そうじゃ。両刃の剣に求められるのは丈夫さであり重さが肝だ」

「私の知ってる剣技は斬る事ですし、非力ですからね加えて理論は知ってますが、実戦経験は皆無です。であれば、剣より槍か棍棒が良いかと思いまして」

「確かに素人が持つには剣は難しいじゃろう。だが、その歳で実戦経験が無いとは驚きじゃな」

「あっははは……平和ボケした町でしたから」

「そんな街聞いた事も無いが……まぁ~良い。それで槍や棍棒を求める割に槍先が大きいのは何でじゃ?」

「突くばかりでは手が限られますよね!?当然振り回す事も有るでしょう?斬る事が出来る槍先が有っても良いかと思いまして……」

「……なる程。確かに実践は無くても心得は有ると言う事か。だが、お前さんが求める様な物は無い。必要であれば作るしかないが予算は幾らだ?」

「逆に価格を知りたいですね」


 槍先は大型ナイフ並で薄くて刺す事と斬る事に重きを置き、柄は軽くて丈夫さを求めた。石突は硬さとバランスを考え、全体の長さは工藤の身長よりやや短めの150センチ程の長さとしたオリジナルだ。


柄は戦いの中で打ち合いが行われる場所である。だから硬くて粘りが有る物が良い。異世界にも枇杷に似た樹木が有り、硬さと粘りも同じ位に有る一級品だ。槍先と成る部分は親方自慢の両刃の直刀ナイフとし、接合部分にネジ式を採用。石突には鋼鉄石なる硬い石を、鞘には硬皮製とし鎖で繋ぐ事を親方と話し合って決めた。


「面白い。ワシも長年鍛冶に携わってきたが、まだまだ修行が足りんと言う事か」


 工藤のアイデアに脱帽と言った感じの親方は勉強代だと言って少し値引をしてくれた。金額にして5千$金貨五枚コレが安いのかは彼には判らなかったが、良い買い物をしたと思う。出来上がりに二日、明後日の昼以降に顔を出す約束を交わし、序でにお薦めの防具屋を教えて貰い店を後にする。

通りを一本隔てると、そこは服と生地と防具屋が店を並べる通りだった。親方お薦めの防具屋は通りの真ん中辺りの小さな間口の店構えだった。


「すみません。武器屋の親方の紹介で来た者ですが……」

「は~い」


 声と一緒に出て来たのは、工藤より気持ち若目の女性だった。武器屋の親方とは、死んだ旦那の親友と言う事で彼此十年以上の付き合いらしい。


「あらあら、すみませんねお客さん。無理をしないで気に入った物が無かったら遠慮なく他所で買って下さいよ」


 商売下手な女店主に少しでも協力したいと思う親方の行動は義理を重んてか、それとも恋心からか……多分後者だろう。何気に雰囲気が良い女店主だもんな。


「ええ。此方も身の危険を考えての買物ですから遠慮なく選ばせて頂きます」


 とは言ったモノの工藤は此処でも何を選んで良いのか解からない。結局女店主の解説を聴きながら選ぶ事と成る。


「確かに軽くて丈夫そうですね」

「『赤蜥蜴』の硬皮部分を使ってますからね。裁縫にも独特の手法が要るんです。その分少しお高いんですけど……」

「因みに如何程ですか?」

「その袖なしコートで4千$金貨四枚です」

「コッチの篭手も同じ色ですよね!?」

「ええ。他に脛当てが有りましてセットで揃えると映えますよ」


 試しにセットで試着すると見栄えは良いが少し派手に感じる工藤だったが、女店主は甚く気に召した感じでべた褒めするのだった。


「少し派手じゃないですかね?」

「そうですか?そんな事も無いと思いますケド……お似合いですよ」

「えっと……コレだと中の服だと何色が良いですかね!?」

「草木染か思い切ってオレンジ色も良いかもしれませんね!」


 流石にオレンジ色は恥ずかし過ぎると感じた工藤。元々服には無頓着な彼は為すがままのスタイルで女店主に進められる服と共に購入する事にした。


「本当に宜しいんですか?」

「か、構いませんよ。序に服も買う予定でしたし。合計で7千5百$金貨七枚と銀貨五枚ですかね!?」

「調子に乗ってご予算も聞かずに勧めちゃって……本当にごめんなさい」

「嫌々!良い買い物させて貰いました」


 女性の勧めに弱い工藤である。元々予算を知らない彼では在るが、年甲斐も無く少々派手な格好に成った事を恥乍らも揃えた物には満足する彼である。


「後は……日用品を揃えるだけだけど、そっちは明日にするか」


 服の買物等、結婚以来妻に任せっきりだった彼は少々お疲れだ。他にも買い揃える物もあるのだが、気疲れした彼は此のまま宿へ帰る事にしたのだが途中で野次馬の群れと鉢合わせとなった。


 野次馬の隙間から見えたのは数人の傷付いた集団。その中で傷付き膝を崩している女性と、その女性に罵声を浴びせる貴賓を漂わせる女性の姿だ。周囲にも傷付いた姿の男性の姿も見えるが、誰もが黙って彼女達のやり取りに視線を外していた。


「何が在ったんですか?」


 ありゃ~あんまりだぜ、とボヤク二人組の男達に工藤は訊ねてみる。


「怒鳴ってるの女が死んだ男の恋人らしくてな、怒鳴られてるのが、その家族の奴隷なんだとさ。で、主人を守れず奴隷が生き残ったんで罵られてるって事だ」

「……理不尽な話ですね」

「まぁ主人を守るのが奴隷の役目だしな、コレばっかりは時の運だ。だけどもよ、奴隷が何で生きてるんだ?普通、主が死ねば奴隷も死ぬのが一般的な契約だぜ!?とすりゃ~奴隷の主じゃ無いって事か!?尚更、理不尽と言えば理不尽な話だね」


 奴隷制度が在る事に驚いたのも事実だけど、主人を残した奴隷を罵る体勢もどうなんだとも思う。加えて言えば、死んだ男性には悪いが、罵声を受けている女性の主で無いのなら怒鳴られ損だと思う工藤である。


 やがて騒ぎは静まり野次馬達は去って行く。傷ついた兵士達と膝を屈していた女性もいつの間にか姿が消えている。貴族制度の歪みを感じた工藤も、その場を後にし宿へと向かった。


 異世界二日目の夜、少々嫌な場面に出くわしたと感じながらも工藤は買った巻物を全部紐解き、その夜幾つかの魔法を身に付けたのだった。



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