017 懐柔
散々悩み続けた料理の案は焼肉を巻き付ける案で目処が付いた。一つ山を越えると調子付くのが工藤であり、彼はポンポンと案が浮かび上がる。
「コレもまたカリッとしてホクホクの熱々ですね」
「だろ~」
「此方はサクッとしてホクホクの熱々です。幾らでも食べられる気がします。何方も美味しくて食感が楽しいですね」
マギーが試食しているのはモロコの粉を練って細長く成形したフライドポテト風『ポレンタもどき』と猪肉を粗みじんにしてモロコの粉を繋ぎに使った『ナゲット』だ。どちらもファーストフードの定番メニューだが、此処は異世界訴えられる事も無いだろう。
「どうだい?どっちも片手で食べられるだろ」
「ハイ。これ等もエイジ様の国元に在った料理の品々なのですね!?」
「そうだね~ハマった時には毎日食べてたよ」
「羨ましいお話ですね」
フライドポレンタとナゲットと名付けて販売アイテムに組み込んだ。『肉巻きおにぎり』『ナゲット』『ポップコーン』『フライドポレンタ』後は、ホイップを使った『クレープ』と甘い卵焼きの改良版で『プリン』の六品が完成する事に成る。
「其れでこれらを全部売るのですか?」
「作り置きの出来る奴とその場で調理する品とが在るんだよな、如何しよう?」
「プリンは冷やした方が良いですよね!」
「だよな~となると、幾つか種類訳をするしか無いか……売り子が足りないな」
品別に屋台を作ったとしてもロミ達の人数は五人だ。作業する者・売り子をする者と考えれば屋台一台に最低二人は欲しい。とすれば、稼働できる屋台の数は二台と自ずと決まる。そこで何を売るかが悩む所であった。
「其れで悩んでウチに来たって訳ですか?」
「あぁ~困った時にはマレーに相談が俺の決まり事だからな」
「そりゃ~頼られるのは嬉しいですけど、正直そんな話は困るんですよモォ~!」
工藤は何時もの様にミンシュクの女将マレーに相談を持ち掛けた。何やかんやと言ってもマレーも頼られれば嫌とは言えない性分と工藤は判って居たからだ。
「『おにぎり』と『ナゲット』は作り置きできますよね」
「正確に言えば『クレープ』以外は作り置き可能だな。『フライドポレンタ』と『ポップコーン』はその場で作った方が上手いし客寄せには成るけどね」
「じゃ~屋台では手を加えるって感じで良いんですか……」
「後、系統も少し違うんだよな?」
「系統?あぁ~食事系・小腹系・おやつ系って事ですね。いっその事時間帯で売るじゃダメですか?」
「時間帯!?」
「そうですよ。ウチの宿も宿の客は朝食後出て行くし、昼は休みで夜は飲食を商いしてるでしょ」
「なるほど!飯時に『おにぎり』残りはその後って訳か」
「まぁ~女性客はプリンとか飯時序に買いそうですけどね」
それでも時間帯を分けて販売すれば、売り子の数は抑えられる。屋台の数だけ多めに作って置いて入れ替えで商売すれば五人でも商いは出来るだろう。
「其の案採用だ。後は、仕込みの人間だが……ブエルに手伝って貰えないかな?」
「そりゃ~構わないとは思いますが……条件付きですね」
女将の出した条件はミンシュクでも販売できる事だ。話し合いの結果。屋台で売れ残った分は半額で買取り。夜の商いで全商品の販売を認める事で話は纏まった。
「後は屋台での価格ですが旦那は如何程を考えてます?」
「肉は俺とマギーが狩りから良いし、ライズとモロコの仕入れも安いし、値が張るのは卵だけだな」
「そうそう!『フライドポレンタ』と『ナゲット』って揚げ物なのに時間が経ってもカリッとしてるの何故なんですか?」
「あぁ~アレは繋ぎに溶いた水に『お酢』を加えるんだ。『お酢』の効果で水分を飛ばす効果が在ってサクサク感が持続するのさ」
「へぇ~今度うちでも試させてみますよ。それにしても旦那って魔物を倒すばかりじゃ無く本当に物知りですよね」
話がそれたけど価格設定に関しては、周囲の屋台の価格を参考する事で一旦束上げとした。一番の問題だった。人手不足は女将の発案の時間差で販売する事で様子見って事で決まった。後はロミ達の勉強と屋台の制作次第と言う事で、工藤は久し振りに狩りに専念する事となり早々に家に帰る事に成った。
「エイジ様。既に町の東側では訓練にも成りません、何処で狩りをしますか?」
「そうは言っても兎と猪の肉はこれからも必要だからな……」
「でしたら、北東の方は如何でしょう?猪も兎も居ると聞きます。オークやオーガも見かけるとの話ですよ」
オーガとは鬼の類だ。オークより大きくて力も強い。工藤は戦士に成る訳でも無いので、余り強い奴と戦うつもりはないのだが、何故かマギーの鬼軍曹スイッチが入ってしまったようである。
「俺は強く成るツモリは無いんだけど……ソレでも行くのか?」
「エイジ様は高みに登られる方です。オーガ如きで立ち止まる訳には行きません」
「……」
意見の相違の所為で、珍しく夕食が静かなモノとなる。マギーはどうしても工藤を、より強くしたい気持ちが有り逆に工藤は危険な事を望んで進む気が無いのだから互いの思いが平行線なのも仕方が無い話だ。
食後のまったりとした時間がギスギスとした時間と成ったのは、マギーと共に暮らす様になって初めての出来事だと工藤は気付く。
「エイジ様お風呂が沸きました」
逃げる様に風呂場へと向かう工藤。『はぁ~』と溜息が漏れる。『ザバッー』とお湯を掛けると後ろの方からドアが開く音が響く。風呂場に人が入る気配がする。この家で工藤が既に風呂場に居るのだから、後から来る者は一人しか居ない。
「御背中を流します」
誘っても滅多に一緒に入ろうとしないマギーが、今宵は自ら混浴をするとは彼女自身も反省していたのだろうと彼は思う。
「最近、筋肉が付きましたね」
カナデル王国に迷い込んだ当時はメタボ手前の中年体型だった。サビーネに着いて暫くすると、醜いお腹はスリムと成り体が軽くなった気がした。この頃は、スリムマッチョへと変化しつつある事に工藤自身も気付き始めている。
「やっぱりそうだと思う?」
「はい。猪肉や熊肉が筋肉を増やしているのでしょう」
高タンパク・低脂肪に加え糖質とビタミン群やミネラルが、魔物の肉とライズ・モロコ等から十分に摂取し始めたせいだろう。其の極め付けとして魔物退治による狩りだろう。適度に負荷を掛ける運動に披露した筋肉をマギーが解す。相乗効果が工藤の身体を変化させているに違いない。
「お腹周りは当然ですが、背中の方も変化が見られます」
泡に包まれたマギーの指が優しく工藤の背中に触れる。男として鍛えた体を褒めらるて悪い気はしない。ましてマギーであれば尚更だ。工藤が細マッチョに変化するのに対しマギーは程よく肉付きが柔らかく成ったからだ。決して太った訳では無い。戦く身体から戦える身体に変化したと言うか、女性らしい柔らかさが身に付いた感じだ。
「判った!判ったよ。行くよ。マギーに褒められるんだ。少々無理をしても体を鍛えると思ってオーがだろうが何だろうが狩ってやるさ」
「我儘を聴いて頂き有り難うございます」
マギーは反省して居た訳じゃ無く懐柔する為に風呂へ遣って来た。時既に遅しである。工藤も所詮男な訳で、馬鹿な生き物だ。掌で踊らされた男は自分の意に反して冒険への道を進む事と成った。
但し、誘った方にも反動は有る。その夜今まで以上に鳴く事に成ったのは他でも無く工藤を唆したマギー自身だった。