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016 看板メニュー


 孤児であるロミ達に寝床と食事を与え、ギルド職員から勉強を学ばせる。この間に工藤は次の一手を考える事にした。基本は彼等に商売をさせる事だ、形態は屋台が良いだろう。なにせ初期投資が安いからだ。次に何を売るかだが、食材は決まって居る。ライズとモロコを原料にしたもの以外無い。加えて、安い・旨い・お手軽つまり異世界風ファーストフードだろう。


「それでエイジ様は献立は決まったのですか?」

「幾つか考えは有るんだけど、あと一歩がねぇ~」

「そうですか……私にもお役に立てる事が在ると良いのですが」


 何時もの様に午前中は狩りをしてお昼には自宅に戻って来る二人。最近では狩りの成果をギルドに卸し、その日の先生役のシーダと共に宿へ向かう。丁度ミンシュクでは子供達が昼食の準備をしている頃で、工藤とマギーも混じって皆と昼食を取るのが日課だった。


 この日、子供達が勉強をしてる横でマギーと宿の調理人でマレーの夫『ブエル』の二人が工藤の考えを訊ねて来たのだ。


「旦那の考えは俺ッチには思いも付かないからな楽しみにしてるんですよ」

「私はお手伝いをしたいのですが、遠く及ばなくて歯がゆい気持ちです」

「二人のお蔭で閃きが沸く事も有るんだ。コレからも頼りにしてるよ」

「で、旦那は今度は何を悩んでるんですか?」

「商売の形体は決まってるんだ。片手で手軽に食べれる料理がベストなんだ」

「パンですか?でもオコメとポップコーンを売るのですよね!?」

「ポップコーンはお菓子だ。オコメは器に入れないと食べ難いだろ!?」

「ですね」

「『オコメ』に『おかず』を包んで食べる料理『おにぎり』ってのが俺の里では在るのさ。問題は其の『おかず』を何にするかで悩んでるって訳」

「へぇ~面白いモノが在るんですね」

「幾つか試したんだけどね」

「一つ俺ッチにも作ってくれませんかね?その『おにぎり』って奴を」


 具材を色々試しに包んでみたが、ピンと浮かばない工藤は二人にボヤいて見せた。ブエルが物の試しにと『おにぎり』を食べたいと言って来たので、工藤は二人に作って食べさせる事にした。今回は『塩にぎり』を作る事にした見た。


「確かにコレなら片手でも行けますね」

「塩とオコメの甘さが絶妙ですね。ホッコリした気分がするのは何故でしょう?」

「男の俺ッチとしちゃ~少し物足りませんね!こうーガツン!としたパンチが欲しいですよ。やっぱ肉ですかね」

「肉、肉か。肉だよな~」


 ブエルの言葉に工藤も同意する。子供達に売らせるのだから時間帯は昼だ。冒険者は町に居ない時間帯だが、それでも街中で働く男性は多い。客層が男性ならば腹持ちが良い肉をチョイスするのも当然だろう。だけど……肉をおにぎりに包み込むには少々無理が在る。肉汁が邪魔をして握り難いのだ。


「肉汁・肉汁か……待てよ!」


 パッと光が差したように閃きが沸く。肉汁が邪魔なら握らなければ良い。工藤は少し前に流行った一つのおにぎりを思い出す。了解を得て慌ててミンシュクのキッチンを漁った。探したモノが見つかると次にお土産に持って来た兎肉を少し分けて貰った。


「コレを薄く切り取って、ソースに絡めて焼き上げて……俵型のおにぎりの外に巻けば……宮崎発『肉巻きおにぎり』完成だ。後は手が汚れない様に菜っ葉で更にくるんでっと。ブエル!マギーコレを喰ってみてくれ」


 今までのおにぎりと違ってオコメの存在が見えない。その代り香ばしく焼きあがった旨そうな肉の塊が食欲をそそる菜っ葉に包まれているモノを工藤が自信ありげに差し出して来た。


「コレは!エイジ様!更に美味しく成りました」

「あぁ~旨い!序にボリュームアップで男の俺ッチでも満足ですよ」

「だろ~!コレなら値段も抑えて出せる一品だと思わないか!?」


 奥で勉強してた小僧達も臭いと騒ぎに釣られて既に手が付けられない状態だ。気が付けば、本日教師役のシーダさえもよだれが口元から零れ落ちる寸前だった。


「あぁ~悪い勉強の邪魔しちゃったな。静かにするから勉強を続けてくれ」

「「「「「「「えぇっ!!」」」」」」」

「あははっ。嘘だよ嘘!騒いだお詫びに皆にも一個づつ用意している。慌てずゆっくり喰え。喰い終わったらシッカリ勉強続けろよ」


 そう言って工藤は山積みした『肉巻きおにぎり』をテーブルの上に置くと我先にと皆が手に取って食べ始めた。


「旨めぇ~!」

「すげぇ~肉汁が染み込んでるよ」

「野菜も取れてバランスが良い?」

「コレなら片手で食べれるから残業中でも良いかも」

「……」


 高評価が得られて工藤も満足げだ。コレで看板メニューの一つが完成したと工藤も肩の荷が一つ卸せた気分と成った。


「エイジ様良かったですね」

「あぁ~この調子で色々作るぞ」

「『おにぎり』と『ポップコーン』の他にも作られるんですか!?」

「俺の国元じゃ食文化が多かったからな。他国の料理だって国民食に変えちまう所だ。俺だって負けられない。それに俺自身食べたい物はまだまだ有るからね」


 この場は『おにぎり』の一つの完成を迎えた事を皆と喜ぶ事にした。


「なぁ~さっきの旨かったな」

「本当だよね~また食べたいな」

「知ってるか!?あの『おにぎり』と『ポップコーン』を町で売るらしいぞ」

「えぇ~羨ましいな。ねぇ誰が売るの?やっぱりマギーさんと達が売るの?」

「馬鹿!何のために俺達が勉強をしてると思ってるんだ。俺達が売るんだよ」

「「えぇ!!」」

「無理だよ~私には売れないよ」

「何でだよ。其の為に俺達勉強してるんだぞ」

「だって!あんなに美味しいモノを人に売るナンテ勿体無いじゃん!」

「……」

「美味しいモンと安く・いっぱいの人に食べさせる。それがエイジさんの考えなんだ。だからマギー姉さんも手伝ってるんだ。俺達も手伝わないでどうするんだ」

「う~ぅ……判った。我慢して街の人に、いっぱい売るよ」

「そうすりゃ~皆が幸せになるんだよね!?」

「あぁ~そうさ。だけど、その前に勉強をしっかり学ばないとな」


 『肉巻きおにぎり』で幸せを感じた子供達。部屋に戻ってそんな話をしていた事を工藤は知らない。彼等も工藤とマギーの恩を感じ取ったと言う事だろう。


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