014 孤児達と
スリの坊主と再び出会った工藤とマギー。彼等は孤児の子供達を更生させようと動き出す。
「誰だよそいつ等は!?」
「お、俺を救ってくれた奴等だ」
「救ったってどう言う事さ!?」
小汚い格好をした小僧達が四人。スリの坊主の仲間だ。町で起こった捕り物話を聞かせると小僧達も戦々恐々としながら自分達の身の振り方を考え出す。
「で、本当にこのオッサン達が俺達に金を出してくれるのか?」
「おいおい、勘違いするなタダでお前らに金を渡す気はサラサラ無いぞ」
「なっ!」
「ホラ見ろ!コイツ等は俺達を捕まえて奴隷商に売り渡す気なんだ!」
「貴方方を売って如何程に成ると言うのです。少しは冷静に考えなさい!」
アジトに突然現れた工藤達を警戒していた小僧達。一触即発の雰囲気だったが、マギーの喝で場は固まってしまう。
「俺の言葉が少なかったが、お前達には真面に働く術を与える。其の為の金なら出してやる。いい加減ビクビクとした生活から抜け出たいとは思わないか?」
「そりゃ~安心して寝られて美味いモノを喰いたいけど……オッサンはそれで何の徳が在るんだよ!?」
「徳はあんまり無いかな?まぁ~強いて言えば、俺が考えてる商売の実験?」
「「「「実験?」」」」
「そう実験だ」
紆余曲折しながらも小僧達は如何にか工藤の言葉を信じてみる事にした。何時までも小僧・オッサンでは話し辛いので互いに自己紹介をする。
「俺はテフ歳は九つ」
「アタイはリン。歳は八歳よ」
「ボ、ボクはトロ。動きが晩いからトロって皆が付けてくれた歳は判んない」
「ネル。歳は七つ。多分トロも一緒」
「……」
「おいおい、肝心のお前は名乗らないのか?」
仲間が名前を名乗って居るのに工藤と知り合ったスリの坊主は中々自分の名を語ろうとはしない。
「仕方ねぇ~な。じゃ俺達が名乗った最後にお前も名乗れよ。俺は工藤英司だ。工藤でもエイジでも好きな方で呼ぶと良い」
「私はマギー。エイジ様の忠実な僕。貴方値を救って下さるエイジ様の事を呼び捨てにするのは許さない。良いわね」
「さぁ!皆名乗ったんだお前も名乗れ」
「ロ、ロミーナ。歳は十一.皆はロミと呼んでる」
「なんだ、ちゃんと名前在るじゃないか。ってか女の子っぽい名前だな」
「ばッ!馬鹿やろ!!お、俺は女だ!大体オッサンは俺を見れば坊主坊主!って呼びやがって、し!失礼なんだよ」
「えっ!……マギー気付いてた!?」
青天の霹靂だった。雅か目の前の小僧、否子どもが女の子だったとは驚きだ。そりゃ~坊主って呼ばれれば怒るのは無理は無いかと工藤は反省する。
「スマなかった許せ」
ロミーナに素直に頭を下げる工藤を見て子供達は逆に驚いている。町の大人達は自分達孤児を汚いゴミを見る様にしてきた。誰も手の差し伸べるなど有り得ない。だから彼等は生きる術を学べず、群れを組む羽目に成ったと言えるだろう。それが自分達を救ってやると申し出るばかりか頭を下げる大人が居る事に彼等は初めて出会って戸惑ったのだ。
取敢えず二日、大人しくするように言い聞かせ子供達には屋台で買った食事を与えた。その間に工藤とマギーは二手に分かれて走り出す。
工藤が向かったのは賃貸契約を交わした不動産屋。マギーが向かったのは浴槽を依頼した工務店だ。
「それで、幾らに成る?」
「併せてですと15万$で如何ですか?」
「も少し安く成るか分割は出来ないだろうか?」
一旦席を離れて店員は奥へと向かった。暫くして年配の男性と共に現れオーナーだと紹介される。
「そうですね……12万で如何でしょう?既に2万4千$は支払い済と言う事にして、月々8千$の1年払い。残り11回ですね」」
元々、家も借り手が付いたのは5年振り。裏の空き地は10年は売れ残って困って居たらしい。借り手が付いたこの際に、背に腹は代えられないとオーナーが英断したと自白して来たので工藤は即決で契約を交わす事にした。
マギーの方はと言うと、工務店の親方も裏の土地は知って居た。面積から建てられる大きさは過去に計算済みで後は建材次第だと話を聞かされる。一旦工藤の許可が無いと話は進められないと打ち切り、工藤との合流を目指すマギーである。
「それじゃ木造二階建てで大部屋二つと中部屋4つだと幾らです?」
「3万も有ればソコソコの奴が建ちますよ。井戸も在るし下水もお客さん所につなげれば良いし、キッチンと風呂場はどうします?」
「火を扱わせるのは怖いな。場所だけ確保しておいて保留って事で」
「それじゃ水回り処理と防火処理だけしましょうか」
「それで良い。期間はどれ位掛かる?」
「急な依頼だから二月は見て欲しいですね」
「判った。金は前金で全額払う。序に備え付けの家具も付けてといてくれ」
「儲けは少なくなりますが、お客さんの頼みじゃ~断われませんねぇ」
ニコニコと笑顔を見せる親方と契約を交わし工藤とマギーは工務店を後にした。
「私の勝手な行動でご迷惑をお掛けします」
「丁度良いと思っただけさ。彼奴等には勉強させる」
「体を鍛える訓練では無く勉強ですか!?」
「あぁ。ロミ達に魔物と戦わせようとは思って無い。行く行くは商売をさせる」
「ライズとモロコですか!?」
「そうだ。小僧達でも出来る商売を思い付いた」
女将に人探しを依頼していたが、ヒョンな所で使えそうな奴等を確保できた。問題は山積みだが、何とかなるだろう。
「いらっしゃいませ。ご用件はどちらでしょう?」
「依頼で」
「では用紙に内容と料金を提示して下さい。御指名が在ればそれもお書き下さい」
工藤は一人冒険者ギルドの受付に来ている。何時もは奥の買取り窓口に顔を出す彼だが、この町に来て以来初めて受付窓口に並んでいた。
「内容を確認させて頂きます。……子供五人に四則計算と文字の……教育ですか。依頼金が……一日50$!基本期間は一ヶ月。本当にこの金額で良いのですか?」
「あぁ、間違いない。キチンと教えてくれるなら、金額を増やしても良いよ」
「……これって私でも良いですかね?」
「えっ!?」
「えっと……冒険者の皆さんは普段魔物狩りをします。其方の方が実入りが多いですから。其れに文字や計算が苦手な方も多いのです。ですから……」
受付嬢が言うには、募集しても厳しいらしい。かと言って一度依頼表を掲げるとギルド職員は依頼を受ける事は出来ない決まりに成ってる。職位委の賃金は決して安くは無いがソレでもユトリが無いのも事実。工藤の案件を彼女が個人的に受けられるのであれば渡りに船と言う事らしい。
「教えて頂く子供達は、この町で孤児とされる子供達です。ヤンチャな面々ですが貴方は大丈夫ですか?」
「冒険者は皆さん気の荒い方ばかりですから。それに私の知り合いにも孤児に成った子を面倒見てる女性も居ますので時々彼女を手伝ってるんですよ」
確かに冒険者は荒くれ者が多い。見た目も強面ばかりだ。受付嬢ならヤンチャ共を抑える事も可能かもしれない。少し驚いたのは孤児に対して何御偏見も無い事だ。
「判りました。こんなに早く出会えるとは思わなかったので逆に此方の準備が整って居ません。明後日までには再度ご連絡いたします」
「はい。此方こそ宜しくお願いします。では用紙は破棄で良いですか?」
「ええ。そうして下さい」
受付嬢と言葉を交わしギルドを出てみれば、彼女の名を聴くのを忘れていた。慌ててギルドに戻り受付嬢度名前を交わし合う。『エヴァ』と名乗る受付嬢は笑顔が似合う17歳の少女でした。